一章 勇者と魔王
1話 入れ替わった勇者と魔王
ルーツ山奥地にひっそりとたたずむ魔王の館。 勇者エンデヴァルドは魔王リュウに切っ先を向け、今まさにその細い首を刎ねようとしていた。 だが二人は対峙したまま動かず、二人を取り囲む大勢の魔族やエンデヴァルドのパートナー一行も凍り付いたかのように止まっていた。
このような状況になる直前、館内を目も眩むような光が包んだのだ。
「…… ん? なんでオレが目の前にいる? 」
先に動き出したのは魔王リュウだった。 彼は直立したまま目を閉じ、勇者の一撃を待っていたのだが。
「…… 僕? なんで? 」
エンデヴァルドも似たようなセリフを口にした。 魔王に向けていた聖剣エターニアを両手で水平に構えたまま目をパチパチ。
「ちょっと待て。 なぜ超絶ナイスガイのオレとそっくりなヤツが突然オレの前にいる? 」
「超絶ナイスガイは微妙なところですけど── 」
「なんだとぅ!! 」
掴みかかろうとしたリュウの手が空振る。 体の違和感に空振った自分の手を眺め、そして両手を開いて見る。 エンデヴァルドもリュウと同じように両手を眺め、そして両者に無言の時間が訪れた。
「…… っくしゅん! 」
取り囲む魔族達が見守る中、誰かがくしゃみをしたその時だった。
「うおおぉぉぉ!? 」
「わあああぁぁ!? 」
お互いの目に映るのは自分自身の容姿。 シンクロしたように同じ動きをして顔中を触りまくり、胸や背中やお腹を触り、股間の大事なところも確認する。 光に包まれた二人の精神は、極致の場面で入れ替わってしまったのだ。
「お── おまっ!! この期に及んで何をした!! 」
リュウ(エンデヴァルド)が幼顔に似合わない鬼のような形相でエンデヴァルド(リュウ)を睨み叫ぶ。
「ぼ、僕はなにも―― 」
今まで凛々しかった顔は目に涙を浮かべ、しどろもどろに怒声に答える。
「なぜオレの目の前にオレがいる!? なぜ小僧がオレでオレが小僧になってる!?」
「知りませんよ! 僕はあなたに殺されるのを覚悟したんです! それだけです! 」
エンデヴァルドはその小さな手でリュウの胸ぐらを捕まえて引き寄せた。 が、両者は大人と子供ほどの体格差で、肩にも届かない体は引き寄せられず、自分から鎧にぶら下がる格好になった。 それでも懸命に可愛い顔を近付けて凄む。
「お前の策略だろうが! 元に戻せ! オレの体を返せ! 」
「それはこちらのセリフです! どうして僕が悪名高い勇者にならなければならないのですか! 」
今にも泣き出しそうな勇者も負けじと言い返した。 『くぅ!』と唇を噛み締めて魔王は勇者を睨み、勇者は涙を浮かべて口をへの時に結んだ。
どうしてこんなことになってしまったのか…… それは一か月ほど前に遡る。
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