2話 エンデヴァルドという勇者
「めんどくせぇ事になっちまったぜ…… 」
勇者一族の末裔の一人、エンデヴァルドは大きくため息をはいた。 世間一般的に勇者と聞けば、正義感に溢れ、人望が厚く、実直な性で凛々しい好青年が思い浮びそうなものだが、このエンデヴァルドはすこぶる評判が悪かった。
国王から与えられている立場と権限を引っ提げて毎日をやりたい放題。 各地で必ずと言っていいほど暴力沙汰を起こし、巡回だと称して各地の遊郭を食い漁る。 バックに国王がいることをいいことに金の使い方も非常に荒く、民からは『腐れ勇者』と呼ばれていた。
だがそんなエンデヴァルドも悪い噂だけではない。 各地に出れば金を湯水のように落としていくし、徒党を組むようなことには興味がなく、弱いものいじめをすることは決してなかった。 善人とは到底言えないが悪人ではなく、意外にファンもいたりする。
愛用する武器は、かつて魔王グリードを討ったとされる聖剣エターニア。 魔法は使えなかったが、剣技は勇者一族とあって目を見張るものがあった。
「どうすっかな…… 」
というのは、極秘に出された国王からの魔王討伐令に威勢よく返事をしたはいいが、手を挙げたのはエンデヴァルドただ一人。 勇者エターニアの末裔は彼だけではなかったが、他の者は安穏と肩書きの上に胡坐をかいてきた者ばかりだ。 平和な時代に生きた勇者の末裔は戦闘経験も乏しく、秀逸と呼ばれた者達は皆腰が曲がってしまっていた。
エンデヴァルドがいくら腕が立つと言っても相手は魔族の長。 それを取り巻く軍勢に一人では到底太刀打ちできるわけがない。 せめて数十人の選りすぐりの剣士や魔導士の部隊がいればいいのだが、エンデヴァルドには生憎そんなつてはない。
「金で雇うか 」
首から下げている紋章入りのプレートを見せれば、どんなに高額なものでも国が肩代わりしてくれる。 早速手頃な仲間を探しにと、エールジョッキを煽って席を立とうとしたその時だった。
「あの…… 勇者サマ、ですよね? 」
声をかけてきたのは、黄色いリボン付きの黒とんがり帽子と襟の大きな裾の短い黒マントの、少し色黒で銀髪の少女。
「なんだ? 」
先端に宝石を讃えたゴツい杖は一見魔導士だが、胸元のフリルが可愛いトップスにショートパンツという防御力は皆無な服装だ。
「マリアと申します。 魔王討伐に向かわれると聞きましたので、是非お仲間にと思って 」
その言葉にエンデヴァルドの表情が険しくなった。
「…… なんで魔王討伐令を知っている? 」
魔王討伐は公表していない。 公表すれば再び魔族が憤慨し、今度こそ500年前のような大戦に発展するやもと危惧したからだ。 更に主要部隊は帰還中で、王都は手薄な状況。 王都に住まう魔族は全体の二割にも満たないが、魔族達の再蜂起を恐れて勇者一族にのみ魔王討伐の命を出したのだ。
「みんな知ってますよ? 平和ボケした勇者一族の中に、無謀にも魔王討伐に手を上げたツワモノがいるって 」
「平和ボケ…… なんだと!! 」
怒鳴り声は酒場の視線を一斉に集め、それに気付いた彼は振り上げた拳の下ろし所に迷う。 ひったくるようにジョッキを手に取り、一気に腹へ流し込んで彼は席を立った。
「どうでもいいけどな! 貧乳ちゃんには用はねぇんだよ! 」
「大きいだけが胸じゃありませんよ? 」
「ぐぬぬ…… それになんだその格好! オレは魔王んとこに遊びに行くんじゃねぇんだ 」
エンデヴァルドは片手を振って、笑顔を振り撒くマリアを追い払う。
「私、魔導士なので防具の自由度は高いんです。 火炎魔法はいかがですか? 爆裂魔法は範囲殲滅に重宝しますよ? 」
己の剣一本で相手をねじ伏せてきたエンデヴァルドは魔法に疎かったが、多勢を相手にできる魔導士は是非とも仲間にしたいところ。 魔導少女という点に不安を覚えつつも、彼は彼女に興味を抱いたのだった。
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