第2話 謎解き

カランカラン♪

店の入り口が開いて一人の客が入ってきた。

「いらっしゃい、お好きなお席へどうぞ。」

紫音がそう声をかけると、その客はカウンターの端の席に座った。

「ご注文はお決まりですか?」

紫音がおしぼりを出しながら、そう聞くとその客は

「赤い涙をください。」


紫音は、例のコースターと赤い涙のカクテルをその客に提供した。

すると、その客が赤い涙を飲み干して、意を決したように話し出した。

「探偵さんってあなたですよね。時間がないんです。お願いしたいことがあってきたんです。話を聞いてください。」

その客の勢いに僕までびっくりしてまじまじと見てしまった。

「なにかお困りなんですね。本来ならこういった形ではお受けしてないんですけど。どういったご依頼なんでしょうか?お話だけでも伺いましょう。そのうえで承るかどうかお返事いたします。」

紫音はまっすぐその客の目を見ながら言った。

客は少しほっとした顔をして話し出した。

「ありがとう。

おかしな話だと思うかもしれないが、実は人を探しているんです。

いや、場所を探しているといったほうがいいかもしれない。

私にはこの時期にどうしても会わないといけない人物がいます。この人物に会わないと大勢の人たちが悲しむことになるんです。

ただ、この人物というのが少し変わった人物で、最近毎年、私との待ち合わせ場所を謎解きで知らせてくるんですよ。ちょっと子供の様な感覚を持った人物なんだけれど、今回のなぞ解きが難解すぎて困っていて。

その謎を解いて、待ち合わせ場所を特定してほしいんです。明日の18時までに。」

「明日。クリスマスイブですね。あと一日ですか。」

紫音は少し困ったような顔をした。

そして、僕のほうを向いて

「迅、どう?少し時間あるか?手伝ってもらえる?」

「うん、何とかなるよ。」

紫音はにっこりと笑って、その客に向き直り、

「じゃ、その依頼受けますよ。

では、その謎解きとやらを見せてもらえますか?」

その客は、ほっとした顔をして、

「ありがとう。あ、私はこういうものです。渡中と申します。」

といって、その客は 渡中運送 渡中 亥 と書かれた名刺を差し出した。

(トナカ ガイさんって読むのかな?)


「私は、運送業をやってまして、まぁ、明日の仕事は会社とは関係がないのですが、毎年とても大事な仕事なんです。

で、一緒に働く相方が、毎年10月に来年の手帳を送ってきまして、そこに12/24の18時に待ち合わせる場所を記載しているんですが、最近謎解きにはまったらしく、ここ数年、問題を出してくるんですよ。

最初は私も面白がって、謎を解いていたんですが、今年の謎は難解で。

先程、ほとほと困り果てておりましたら、ある街角の占い師に声をかけられて、ここを教えてもらったんです。

これが、その手帳です。

ほら、ここに18時とあるでしょ?」

渡中が、僕たちに見せた手帳の12月のページには24日の所に18時と記入されている。

「で、これが問題で。」

そういって渡中が広げた紙には、意味の分からない文章が書かれていた。

まるで、小学生が書いた作文のような単語を並べただけの様な文章。

これはなんだろう?紫音と僕は顔を見合わせた。

全文がこれだ。

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とんねるをぬけた みがみた きうは ようじがあった

うんどうかいに とんびがはねた うちょうてんになって

のんびり いちばんでんしゃに よじのぼり うんてんしゅに

おこられた。


                       蔵臼 三太

PS、今回はこれで終わりじゃないよ。楽しんで。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「蔵臼三太というのは、私の仕事仲間の名前です。

この問題は手帳のフリースペースに書かれていました。もしかして、光とかにかざしたら別の文字が浮き出てくるのかもとか思って、破ってしまったんですが、何をやっても解けなくて。しかも、まだ謎が残っているようなんです。どうにもこうにも困ってしまって。しかも明日が約束の日なんです。」

話し終えた渡中はすがるような表情で僕たちの顔を交互に見ている。

本当に困っているんだなぁ。


「迅、どう思う?」紫音が僕にその紙を見せた。

「うーん。各センテンスの頭文字をつなげてみでも文章にはならないよね。

と・う・き・よ・う・と・う・の・い・よ・う・お…???

繋がらないな。頭の東京都だけならつながるけどな。」

うーん、これは難解かもしれないな。

紫音と僕が二人で頭を悩ませていると、カランカランと入り口の鐘がなった。


顔を上げるとそこには、刑事の岸くんがいた。

「あ、いらっしゃい。岸くん。いいところにきたね。ちょっと手伝ってよ。」

岸くんは僕の横の席に座り、僕の手元を覗き込んだ。

「何してるの?この文章、なんか小学生の作文みたいだけど、何?」

「こちらの渡中さんがこの謎を解かないといけないんだって。岸くんとかこんな暗号といたりとか、あるんじゃないの?」

岸くんは刑事で、KINGの常連だ。

「うーん、たまにあるけど、刑事って基本足で稼ぐ商売だからね。あんまり頭使うような事件とかは、捜一というよりサイバーとかの担当だなぁ。」

岸くんは頭を掻きながら、手紙を覗き込んでいる。

そんな岸くんに少し意地悪な顔をして紫音が言った。

「でも、一応岸くんもキャリア組のエリートコースなんでしょ?」

「そうだけど…まぁ、見せて見ろ。」

そういって、岸くんがその手紙を前に腕を組んで考え出した。

その岸くんの前におしぼりが出され、ビールが置かれた。

紫音が

「これ、サービス。なんかわかりそう?」

と、岸くんに囁いている。岸くんは難しい顔をして唸っている。

「これ、灯りにかざしたり、折りたたんだりしたら字が浮き出てくるとか?」

そう言う岸くんに渡中は首を横に振って、

「それ、私がやりました。でも、何も出てこなかった。」

「そうですか。」

岸くんはお手上げという顔をして、僕たちに紙を渡してきた。

どうやら根を上げたらしい。諦めが早い。


「そうだ、手帳の中にその文章は書かれていたんですよね。ってことは手帳のほうにヒントなんかがあったりしないですかね。」

僕がそう提案すると、渡中が手帳を見せてくれた。

僕は手帳の中を観察してみた。なんの変哲もない黒い革の1年間のスケジュール帳だ。10月はじまりで来年の12月までカレンダーが印刷されている。各ページはまだ予定らしい予定が入っていない。

最近の手帳には珍しく下敷きも入っている。


ん?待てよ。この下敷き、なんかおかしいぞ。

「ねぇ、この下敷き、よく見たらところどころミシン目の様な切れ込みが入っているような気がするんだけど。

渡中さん、この下敷きのこの部分、ちょっと切り取ってもよろしいですか?」

「え、あぁ、大丈夫ですよ。そんな下敷きならあまり使わないですし、毎年同じような下敷きですから。」


僕は紫音にカッターナイフを借りて、その下敷きの切れ込みの部分を切り取ってみた。

その下敷きはこんな感じになった。

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その下敷きを見た岸くんが、

「おい、迅。もしかして、この下敷きをさっきの文章に乗せたら、答えが出るんじゃないかな。」岸くんが閃いたらしい。

「そうだ!やってみよう。」

早速、さっきの手紙の上に下敷きを重ねると、隠されたキーワードが出てきた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー                       

と         う       き     よ

う       と         ちょう

の    いち         よ      う

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『とうきようとちょうのいちょう』

そうか!!

「これ、東京都庁の銀杏なんだよ。」

僕がそういうと、岸くんが言った。

「東京都庁の銀杏か。そこに行けば答えがあるってことなのかな。でも、都庁の銀杏なんて何本あると思ってんだよ。なんてったって、東京都の木は銀杏なんだぜ。そこから一本を絞るのか?」

岸くんが上を見上げてお手上げという表情をした。確かに途方もない作業だ。明日の18時には最後の答までたどり着かないといけないのに。

「でも、この謎の回答は東京都庁の銀杏で正解だろう。そのうえでどの銀杏なのかってことなんだけど…」

紫音が顎に手を当てて考えている。

「確か、東京都のシンボルマークは銀杏の葉の形をしているんだよ。で、正面玄関にそのシンボルマークの窓があるはずだ。

とりあえず、明日その正面玄関に行ってみよう。何かヒントがあるかもしれない。」

さすが紫音だ。建設的な意見を出すのはいつも紫音だったりする。

「うん、そうだね。行ってみない事には何もわからないし。

岸くんはどうする?」

「俺も、非番だから付き合うよ。なんか面白そうだし。」










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