第38話心の迷路
莉菜ちゃんにそろそろ帰宅しようと提案。
そして自宅に戻った俺は、気持ちを整理する事にした。
しかし…ソファに腰掛けた俺のすぐ横に莉菜ちゃんがベッタリとくっ付いて、整理するどころじゃなかった。
「莉菜ちゃん近いよ…俺たちさ、兄妹なんだ。もう一度原点に戻ると言うか、恋愛関係じゃなくて、兄妹の関係から、始め直そう?」
喋ってて心が痛い。こんなにも好きなのに、妹に拒否する様な言い方…
「えー、キスしておいて? お兄ちゃんはさ、私のこと好きじゃないって事? 遊びでキスしたんじゃないよね? それとも私に魅了感じられないから、兄妹の関係にしたいの?」
莉菜ちゃんの質問に全部はい…そう答えれば兄妹の関係に戻れる。けど、それは妹の気持ちを傷つける。そこまでして、兄妹の関係に戻りたいか? 否だ。
「莉菜ちゃんそうだよ。莉菜ちゃんの事好きだし、遊びじゃないし、魅了感じるから。でも兄妹の関係に戻りたい。それに世間の目もある。」
俺は妹の目を見ずに言った。とても目を見て言える事じゃなかった。
それだけ重い言葉だったから。
莉菜ちゃんが俺の手を包む様に重ねた。それに気がつき、妹の方を向いた。
「お兄ちゃん、覚悟してる。批判されるだろうし、いじめられるかも。それでもお兄ちゃんと付き合えば、そんな批判乗り越えて見せるから。」
妹は、強かった。俺よりもずっと…乗り越えて見せるか…でもつらい想いもさせたくない。
実在莉菜ちゃんの言う通り、起こり得る。だからいじめや批判はされたくない。
こんな良い子に、そんなことが起きて欲しくない。
くっそ…
「ご飯出来たわよー。」
助け舟が来た。沙也加さんの声が背後から聞こえた。
後ろを振り返って、返事をした。
「莉菜ちゃん行こう。」
俺は言った。莉菜ちゃんの表情が、あからさまに不満の様子だ。
俺は椅子に腰掛けた。正面のテーブルの前には、左上に親父、前に沙也加さんだ。
妹は隣に座って、椅子を持ち上げて、俺の近くに置いて座った。
親父と沙也加さんの熱い視線を感じた。
食卓には、ご飯、肉じゃがとサラダが置いてある。他はなめこの味噌汁、シャケと健康的な食べ物だなと思った。
「まるで恋人みたいね。私たちも負けてられないわよ! 博司さんあ~ん。」
沙也加さんが箸で肉じゃがを取り、親父に食べさせた。
うーん、沙也加さんが普通の優しい奥さんに見える。托卵仕組んだ人と同一人物とは思えないな。
「負けないし! お兄ちゃんあ〜ん。」
ええっ、対抗意識燃やさなくても…拒否するわけにもいかず、俺はパクッと箸に乗っかってる肉を食べた。
莉菜ちゃんが微笑んで、満足そうだ。
「おいおい、夫婦になるつもりか? いつの間にそんな深い間柄になったんだか。俺の息子は手が早いな」
苦笑いしながら親父が言った。
「言ったでしょ〜。莉菜ちゃんたら、守さんにベタ惚れしてるのよ。」
親父が唐突に変なこと言ったのは、沙也加さんが何か吹き込んだのかー。
ってか諌めようぜ? 普通…はなぁ。ってこの2人普通じゃないか。
「守さんは、本当あなたに似てるから、莉菜ちゃんが好きになっちゃうのも、しょうがない。応援しちゃおうかな〜?」
小悪魔的な笑みを浮かべて、沙也加さんが呟く。
托卵した人に応援されるのも…でも沙也加さんが正直なだけで、実際には、結構やってるんだろうな…恐ろしいぜ。
「俺はちょっと職業柄応援は出来ないけど、ってそこまでじゃないだろ? 大袈裟な。」
挙動不審な様に親父がみんなを見回す。
「結婚は、駄目だぞ。さ…さすがに…交際も兄妹だからしないと助かるが。」
言葉を選んで親父が言った。
「お父さん、お兄ちゃんと結婚するかはまだまだ先だよ? 交際はもうすぐだけどね。」
ちょっと莉菜ちゃん勝手に…でもキスしたことバラされたら大変だな。ここは黙っておこう。
「佐野〜お前手が早過ぎるだろ? どんな手を使って妹を口説いたんだ? 兄妹になってすぐなんて。」
呆れた様に親父は言った。
「お兄ちゃんを責めないで下さい。私がお兄ちゃんを好きになって誘惑しました。それと、血は繋がってないので兄妹でも付き合うの問題ないと思います。逆になんで駄目なんですか?」
莉菜ちゃんが俺を庇って言う。マジ良い子。自分が悪者になるなんて。
莉菜ちゃんの勢いに、親父は驚いた表情をした。
「ふふふ、2人の結婚式が楽しみね。でも…とりあえず今日はもうこの話お終いにしましょう。今は、家族団欒、食事を楽しみましょう。」
沙也加さんが手を叩いて言う。
俺も頷き、みんなも同意した。
それから俺は、食事を終え、明日の学校の準備をすると伝えた。
ベットに横たわり、明日のことを考えた。みーちゃんに会う…浮気のキスをしたという罪悪感が襲ってきた。
俺はなんとか目を閉じて、気持ちを落ち着かせようとした。
時計を見ると深夜の3時…考え過ぎていつの間に時間がこんなに…ちっくしょう。
俺はもう、考えるのを辞めた。なんとかなるだろうと…そして翌日の朝になった。
莉菜ちゃんと顔を合わせて、気まずさを感じた。おはようと俺は言った。
莉菜ちゃんは笑顔で、元気よく、お兄ちゃんおはようございますと言う。朝からその輝かしい笑顔は心臓に悪いよ。ドキドキする。
朝の食事を早めに終えて、莉菜ちゃんから逃げる様に学校に行った。
歩きながら、もう駄目かもしれない。気持ちを抑えるのは…時間の問題だと思った。
空は冬の朝特有の灰色で、重い雲が雨を予感させる。そのどんよりとした空模様が、自分の暗澹たる気持ちを反映しているようだ。
学校の門をくぐって、いつもの光景が待っていた。それでも心の中はいつも通りとはいかなかった。
それは、みーちゃんと会うのが怖かったからだ。罪悪感もそうだが、彼女に恋の気持ちが完全になくなってないかという恐れ。
もし恋心が残っていればみーちゃんとこれまで通り付き合って行ける。莉菜ちゃんとは、妹との関係に戻れる。
しかしそれが違っていたら? 彼女と繋がっていた糸が切れる様な、そんな感覚にならないか。不安で仕方なかった。
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