第37話道徳的ジレンマ
俺と莉菜ちゃんは暑いキスを交わした。
時間にしてはそれほど長くないけど、ずっとしていたような感覚に襲われていた。
興奮して、俺は倒れるかと思うほどに、唇と脳が酔いしれた。
あー俺かっこつけてキスしてしまったー。
唇を手で押さえながら、ふと間違ったことをしてしまったと考えがよぎった。
俺は莉菜ちゃんを大事な妹として、大切にしたいのに。
スカイツリーの回廊で、人々の騒めきで目を覚ました、そんな今の状況だ。
スカイツリーの窓から見える外の暗さと、中の明るさの差が、今の自分の心の中と同じだ。
本当浅はかだ。キスしといて、すぐに後悔するなんて、莉菜ちゃんにも失礼だよな。
莉菜ちゃんの表情を見ると、うっとりとした表情で、本当に可愛いくて天使の様だった。
心臓の鼓動が速まる。完全に恋している。
駄目だ、妹なんだ。それに俺は彼女がいるだろ。今更だが…浮気…か。
だけど、キスだけだ。それ以上には、いかないなら、違うよな。
…まずい事になってしまった。男としては、莉菜ちゃんの気持ちに応えるべきだが、妹として接するならそんなことは許されない。
でも、あの場で無理矢理って言われて、そうだななんて言えないよ〜。同意だって、言わなきゃ。
ああー、どうすれば良いんだ。やはりちょっと莉菜ちゃんとは、距離を取るべきだよな。義理妹とは言え、妹なんだ。
普通手を出すのは…世間では許されないよな?
彼女と別れるべきだよな。けど、別れたら、妹を女にしてしまう。
それは絶対駄目だ。悪いけど、みーちゃんを利用させてもらう。
みーちゃんとやり直す。これが一番の選択なはずだ。
…はぁ〜どっちを取ろうと、不誠実な男じゃないか。どっちが正しい? 妹に手を出す卑劣な男。彼女に浮気しといて、付き合い続ける、不埒感な男。
「お兄ちゃん、大好き。」莉菜ちゃんが俺に抱きついて、胸に顔を埋る。
ふわぁー。俺だって…好きなんだ。けど、社会的にも道徳的にも、問題なんだ。キスしといて本当…嫌無理だった。
あの場じゃ、俺だって…妹と同じ気持ちだったのは、否定しちゃいけないんだ。
これからを考えなきゃ。
まず第一…俺の親父警察官なんだ。莉菜ちゃんに手を出して当然責任取って結婚ってなったら、親父は世間の冷たい視線に晒される。
俺だけの問題じゃない。ゾッとする。
他の選択肢…彼女と別れて、妹と距離を取る為一人暮らしする事か。
それがベストだけど、それは無理だ。結局妹に押しかけられたら、拒否できない。これは無駄な事だ。
それに俺は妹と離れたくない。やっぱりみーちゃんを好きにもっとなるのが俺に残された選択肢…か。
「どうしたの? お兄ちゃん?」
俺の胸から顔を上げて、純粋な瞳が自分を魅了する。
そんな目で見ないでくれ。可愛すぎるよ莉菜ちゃんは。
「いや、莉菜ちゃんが可愛過ぎて、立ちくらみしてきて。」
俺は何言ってるんだー。そんな事言ったら駄目だ。けど本当のことだ。
「もう、お兄ちゃんたら。照れるよ私…お兄ちゃん好き、大好き。」
俺の理性よもってくれー。
「俺も好きだ、妹として大好きだ。」
卑怯な言い方だけど、これで察してくれると助かる。
「お兄ちゃん、自分からキスしといて妹としてってそれはないんじゃない? もう彼女にしてくれたら良いよ。遠慮しなくて良し。」
ウインクして優しく言う。
確かにそれはない。スカイツリーに来た時から、分かっていた。妹に正論を言われてしまった。
けど妹のことが好きだと思うほどに、大事になってくるんだ。
莉菜ちゃんの事ばかり考えると、先のことも色々考えがよぎるからだ。
例えば俺が彼女を振って妹と付き合ったら、彼女は言いふらすだろう。
義理妹を選んだと。同じ学校で噂が広まり、莉菜ちゃんが辛い目に遭うのは明白じゃないか。
義兄に手を出しんだって、うわー最低。美沙希さんから奪うなんてね。
ああ、絶対そうなるよな。
莉菜ちゃんには幸せになってほしい。俺より良い男なんていくらでもいる。心も頭もそう思う。なのに体は莉菜ちゃんから、吸い付いて離れない。
今も身を寄せ合ってるんだ。
駄目だ。ここは兄として、莉菜ちゃんを正しい方向に導かなきゃ。
ひとまず話題を変えるしかない。ちょうど聞きたいことがあったし。
「莉菜ちゃん、前に聞きたいことあるって言ったじゃん? 今聞いても良い?」
「む〜良いけど、本当は駄目だけど、お兄ちゃんもすぐに答え出せないもんね。彼女とまだ別れてないし。」
「ありがとう。そういうこと。で聞きたいことってさ。沙也加さんの事なんだけど。」
「なぁ、浮気相手って青木俊じゃない?」
親友の親父…莉菜ちゃんの本当の父親かもしれない男。
「なんで知ってるの? うん、青木俊だよ。」
やはり…な。これで姉妹確定だな。
接点はなんだろう。やっぱり沙也加さんが入院して知り合ったのか? 多分どっちかがそうなったんだ。
「じゃあ、滝川ってやつも、浮気相手だった?」
念の為…もしそうなら、これも姉妹ってややこしいな。莉菜ちゃんと同じ母? 推理はかなり良い線言ってたけど、妹と性格が違いすぎる。
「滝川? あーお父さんの社長さんでしょ? ううん、違うよ。お母さん誰でも良いわけじゃないの。凄いね、お兄ちゃんなんで知ってるの?」
流石に違ったか。浮気相手が兄じゃなくて良かったな、滝川あゆみさん。
「それは後で教える。じゃあ西条実はどう? その人は浮気相手だった?」
これも違うだろう。しかし…別の知り合いの父親でも嫌だな、やれやれ。
「…お兄ちゃん? さては探偵だな!? そうだよ。西条実って人が悟お兄ちゃんの親。DNA鑑定したんだってさ。だから間違いないって。」
はー西条の親父すげ〜。種牡馬かよ! いろんな女性に手を出してんな。息子と大違い。爪の垢でも飲んで息子を見習った方がいいぞ。
「そう言えばお兄ちゃんの友達も偶然、西条と青木って同じ苗字だったね。お母さんから名前聞けるわけないし、何か関係あるの?」
おっ、乗っかてきてくれた。西条のことはどうでも良いけど、円香ちゃんって莉菜ちゃんの腹違いの姉妹だからな。
「実は、さっきの円香ちゃんが腹違いの姉妹なんだ。血の繋がりのある父親に会いたいとかある?」
うーん…話題にしてみたけど、深く掘り下げるようなことないな。会いたくもないだろうし、莉菜ちゃんからしたら、だから何って感じだろう。
「そうなんだ…会ってみたい気はするけど。それよりお兄ちゃんがそこまで調べてくれた事が嬉しい。やっぱりお兄ちゃん私のこと考えてくれてることが…もう! どこまで好きにさせるのかな?」
莉菜ちゃんは感情が昂ったのだろうか? 泣いてしまった。
いや…泣くほど調べて大変な苦労してないよ。
たまたま、俺の親友2人が父親が沙也加さんと関係持ってた。それも違うな…運命?
失敗した。もう一旦自宅に帰って、考えよう。そう決断した。
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