第34話修羅場
荒川美沙希の視点
跡をつけてみたら…やっぱり女じゃない!
まーちゃんのやつ、私を裏切って…許せない、許せない!
ちくしょう、私のこと愛してるだなんて言って。
はぁ…涙が止まらない。つら過ぎる。私にはまーちゃんしかいないんだよ?
なんで女と一緒なんだ! 問い詰めてやる。
私は今、ファミレスに入った2人を待っていた。出て来たら、まーちゃんに謝らせる。
ちゃんと謝れば許してあげるからね。
女はただじゃおかないから。
…手まで繋いで幸せそうにあんな顔…私は手が震えてきた。
そして手から幸せが逃げていく様に、見えた。
ファミレスの入り口付近で、見えないところがに隠れた。
それから少したち、2人が出て来た。
「ご飯美味しかったー。これからのデート楽しみ、えへへ。」
「そうだな。俺も楽しみでさ、デートってこんなドキドキするもんだな。」
そのやり取りを聞いて、私の中の何かが壊れる音がした。
守! 殺す殺す。デートってこんなドキドキするもんだな。何度もこの言葉が頭で暗誦された。
つまり…私とのデートじゃ…ドキドキしてなかった…悔しい、酷い。
浮気相手がまーちゃんの頬にキスをした。
「おい、何するんだよ。」
まーちゃんが叱ったけど、その表情は満面の笑みだった。
「えへへ、楽しかったお礼、今度は唇にしちゃったりして。」
我慢できず、私は自然と2人の前に立った。
「裏切り者! この浮気性! 最低!」
私はまーちゃんの胸を何度も叩いた。
彼は驚いた表情で固まっていた。
隣の浮気相手も、何が起きたのかと、困惑していた。よく見ると、誰かに似ていた。
円香? いや違う、今はまーちゃんだ。
なんとか言えよ、このやろう。
「びっくりしたな。誤解だよ、みーちゃん、妹だよ。紹介するよ莉菜ちゃん。さては、跡つけてたな?」
妹? なんだー。ってなるわけ無いだろ。謝られるどころか開き直って嘘つくなんて。
私の目に怒りが宿るのを感じた。
「なんでそんな嘘つくのよ? 一人っ子って言ったじゃん。私が忘れてるとでも思った? 愛してるんだよ? 忘れるわけないじゃん。」
「義理妹だよ。父親が再婚したんだ。」
義理妹? なんだ、そっか。その一言に私は冷静になれた。
でも…2人のやり取りは、恋人のそれだった。
義理妹だからって、浮気じゃないって納得は…ちょっと出来ない。
「お兄ちゃん嘘ついてないですよ。妹の莉菜です。お兄ちゃんの彼女さんかな。誤解させてすみません。」
…誤解? 唇にキスしちゃったりしてと言っていたのに? みーちゃんに気を遣っているだけでしょ? 本当は、あなたまーちゃんのことが好きなんでしょ?
私はお見通しだ。でも証拠がない。そうだ、まーちゃんの自宅の合鍵作って、盗聴機仕掛けよう。それで証拠を突きつけて…でも別れを切り出されたら?
いや、まーちゃんを信じよう。この女より、私を選ぶよね? きっと。
「誤解してたー。美沙希です。妹さんね、よろしくお願いします。守さんにお世話にいつもなってます。素敵な人よね? 守さんって。」
絶対に同意するはず、否定して欲しい。そんなことないと。でも結果は分かっている。
「うん、お兄ちゃんは、とっても素敵です。ねーお兄ちゃん。」
その甘えた声が鼻についた。
「おいおい、彼女の前で、男褒めるもんじゃないよ〜。天然なんだから。」
まーちゃんさすが〜。私に対して配慮してくれる。私は彼の理知的な言葉に惚れ直した。
彼のファミレスの背後から、カップル連れが出て来た。私たちに何してるんだろうという、目線を送った。
私は喜怒哀楽が激しい自覚がある。でも仕方ないんだ。毎日親に罵倒されたら、そうもなる。
顔が綺麗なだけで、どうしようもない。妹は勉強も出来て、なんでも出来るのにと、いつも比べられた。
妹は、美術で金賞も取った。だから私は妹の影響で美術を始めた。
妹と肩を並べられたらという思いからだ。
親にいつか悪いことして復讐してやろうと思う日々だった。
けど、まーちゃんと付き合ってからは、そんな復讐どうでも良くなるくらい、幸せな日々を過ごせた。
綺麗じゃなくて可愛いと私に彼は言ってくれる。
喜怒哀楽も激しさは減って来てた。だから彼に捨てられたら、私は何をするか分からない。
どうして私は、彼に固執してるのか。それはやっぱり暖かい家庭を彼となら築ける。この前のデートでそう確信させてくれた。
なのに何故、こんなに胸騒ぎがするのだろうか?
「褒めてるというかさ、お兄ちゃんは素敵なのは本当の事じゃん?」
…彼女の言い分には私も認めるところはある。でも言い方が彼氏彼女の間の様な言い方だ。
それは、妹ではなく、恋人と話してる様な雰囲気だった。
「ねぇ、まーちゃんキスしよ? 良いよね?」
我慢ならずに私は、彼にキスをねだった。
「あのー、それって私に当てつけみたいな感じですか? そういうの良くないと思いますけど。」
あなたには聞いてない。けど、彼女に強くも言えなかった。だって彼の義理妹だもの。
そうだよね、良くないね、ごめんなさい。頭ではそう言えばこの場は、収まる。彼の顔も立つ。
分かっていても、声に出なかった。
「…分かったよ。俺も妹のこと黙ってたのが悪いし、キスするからさ、それでチャラにして欲しい。」
「うん、ありがとう。まーちゃん。」
彼の言葉が私には嬉しかった。あー涙が出てくる。
私はその台詞が聞きたかった。だから無理にしてもらう必要はない。彼にキスを強要するほど、私は馬鹿じゃない。
「大丈夫気持ちだけで良いの。」
私はそう言って、義理妹を見た。
しないで欲しいと顔に書いてあった。
強要して…キスをして、彼女を刺激したら、彼に迫るのではと、義理妹の曇った表情を見て、恐れたからかもしれない。
その恐れは、どこから来てるのだろう? 多分私より魅力的だと、暗に認めているからか? それは違うと思いたいけど、思えない。
「あのー彼女さん? もう良いかな? 私たちこれから遊ぶ予定あるので、悪いんですけど、もう行っても良いですか?」
あ? 駄目に決まってるだろ。
「空気読んでね? ふざけたこと言ってないでさ?」
挑発に乗ってつい強い口調で言ってしまった。
「あの、空気読んでないのはどっちですか? お兄ちゃんと遊ぶだけなんですけど?」
ドヤ顔で言われた。彼女の表情が勝ち誇った様に見え、私の堪忍袋の尾が切れた。
それは、私を見下してるかの様だった。
「お前ふざけんな! まーちゃんのこと好きな癖に!」
私は義理妹の髪を掴んだ。
止められない。どうして?
…そうだ…私の妹と同じ見下した表情に我慢がならなかったからだ。同じだ…勝ち誇った表情が。
私の昔好きな人を、妹に取られたことがフラッシュバックして、気持ちがコントロール出来なかったんだ。
「辞めろ! 俺の妹になにすんだ!」
彼の怒声が響いた。
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