第33話彼女と義理妹との狭間で

いつもの放課後俺は、西条から逃げる様に部活に向かった。


青木から聞いてくれればいいと考え、教室を出て途中後ろを、後ろめたさを感じて振り返った。


ふぅ、ついてきいてない。良かったと、胸を触りながら安堵した。


深呼吸をして、前を見据えて、美術部にいる仲間に挨拶を交わした。


するとすぐにみーちゃんと視線があった。


笑顔を振り向けられ、俺も笑顔になる。


すぐ様真剣な表情で絵筆を手に持った。その姿がとても美しく感じられ、それに俺は魅入られた。


部長の視線が痛い。早く席に座れてと、暗に言われている様だった。



分かりましたよ、と心でそんな目を向けるなと抗議した。


部活を真面目にやるか。そう思う裏腹、これから妹の莉菜ちゃんとのデートが楽しみだなと、頭でその様子を思い浮かべては、表情が緩む。



何故こんなにも、そんな考えが過ぎるのだろうか?


俺はみーちゃんだけではなく、莉菜ちゃんにも、魅入られているのだろうか?


まだそんなに莉菜ちゃんと会っていく日も経っていない。

けど彼女の寝顔がいつまでも頭にこびりついて離れない。



俺はみーちゃんと昨日のデートを思い返してみた。みーちゃんへの罪悪感からであった。


パフェを食べ合いながら、甘い関係を全身で感じていた。

お互いが微笑みながら、尊重し合っていた。


楽しかった。幸せなデートなのは間違いない。

それなのに、今日莉菜ちゃんとのデートの時間が刻々と近づくと、胸の鼓動が激しくなる。


間違いなくときめきを感じる。みーちゃんとのデートが心安らぐ様に、多分莉菜ちゃんとのデートは、きっと興奮を与えてくれる。


そんな予感がしていた。



そんな想いを秘めながら部活を終えた。

まさに心あらずの面持ちだ。



「まーちゃん、お疲れ様。今日もデートしよっか?」

彼女が微笑みながら、声を掛けてきた。


なんだよ、毎日誘うって、それだけ俺に対する気持ちが強いのか。


「悪い今日は予定あって。行けない。」

言うと、彼女の表情が険しくなった。


冷たい凍る様な視線を俺に向けた。


「その予定、私より優先する事なの? まさか女?」

さきほどとは打って変わって、何か棘を身に纏ったのではないかと、思わせる豹変ぶりだ。


喜怒哀楽が激しい女は好きじゃないんだよな。そう思ってたのは、やはり莉菜ちゃんのことがあるからだろう。


今までなら、喜怒哀楽が激しかろうと、それを許せる気持ちがあった。


なのに…俺に対する態度か? 好きなんだろ? そう上手になる気持ちが芽生えている。


これが余裕があるということなのだろうか?

今までなら、ごめんね、みーちゃん悪かった。君が優先だ。


そう言っていたはずだ。


「女じゃないよ。もう行くからまた。」


彼女に言い放ったが、これは失敗だ。

万が一出会したら、やっぱり女じゃないかと、激怒される。


しかし今更、義理の妹と遊ぶ予定が入ってる。とは言えないかった。


部活を出て振り返り彼女を見ると、鬼の様な形相だった。


そこまで怒るかよ? ちょっとおかしくないか? 俺だって予定ぐらいある。



彼女は俺を優先してくれている。それは有難い。


…何かやはり気分が滅入る。

だけど、莉菜ちゃんの笑顔を見て、その気持ちは、あっさりと消え去った。


「お兄ちゃん、へへ、待ち伏せしちゃった。」

学校の門で待っていた、莉菜ちゃんの声が心地よく耳に届いた。


その甘い声に俺の表情が緩む。


まるで目の前にいる子が妖精であり、俺を別世界に連れて行ってくれるかの様に思えた。


「ありがとう、行こう。」

俺が言うと彼女は頷き、俺の手を握った。


莉菜ちゃんの手の感触が柔らかくて、それがとても愛おしく感じさせた。


「楽しみだなー。まずは腹ごしらえだね。」

莉菜ちゃんが手を伸ばして、指を突き刺して言う。


その仕草もまた、俺を魅了した。


今すぐにでも彼女を抱きしめたい、そんな感情を起こさせるほど、無邪気な莉菜ちゃんに、惹かれていた。


ファミレスに入り、愛想の良い真面目そうな店員が席に案内してくれた。


店内はガヤガヤと人の声が行き交っていた。


彼女が席に座り、とぉーと戯けて見せた。

俺の視線に気がついたのだろう、えへへ、はしゃぎ過ぎました。俺に向けて苦笑いをした。


はぁーやばい、まるで俺の彼女じゃん。


すぐに注文を頼み、莉菜ちゃんと会話を交わす。



「腹減ったわー。いっぱい食べれそう。」

その言葉に莉菜ちゃんも頷いた。


その間、莉菜ちゃんを観察していた。やっぱり可愛い、息を呑むほどに。


あんまり見つめると、それは問題だなと、思ったけど、彼女も俺を見つめていた。


注文のハンバーグが届いた。定番だよな。そう呟く。


フォークを入れると、肉汁がドバッと溢れた。デミグラスソースが美味しそうに魅せる。

コーンやニンジンが彩りを与えていて、ファミレスのそれとは思えない、見た目をさせていた。


口に含むと、肉の旨みと、ソースの甘さが口の中に広がった。


莉菜ちゃんは、パスタを頬張る。ネギの匂いがしてきた。黄色い麺は、歯応えがありそうだ。


「んーうまっ」

彼女が目を瞑り、味を噛み締めるように、言った。


その仕草にまた、俺は胸の鼓動が速まるの感じた。


この食事で莉菜ちゃんとの心の距離が近づいたのを感じる。

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