第30話親友のミスリードと警察の息子

静寂に包まれたこの空き教室で、しばらくみんなで泣いていた。


ところで俺は、なんでここにいるんだっけ?


そうだ…莉菜ちゃんの妹のことで相談しに来たんだ。そしたら、青木がなんの証拠もない迷推理を始めたんだったな。


で… 滝川あゆみがどうのこうの。沙也加さんが不倫で作ったとか…ないだろう、そんなこと。


俺のはちゃんと根拠ある。莉菜ちゃんが円香ちゃんに似てる、青木って苗字、現在医師をしてる。


で…今度は、西条の親父が、沙也加さんと関係だったな。これこそ何にも証拠ないじゃないか。 



で青木が西条の父親の推理始めた理由は、事故の事に関わった話したいからか?

青木複雑なやつだな〜普通に言えば良いのに。


ああ、スラ◯ダンクの三井みたいなやつか。

素直に言えないって。

 

「…確認したいんだが。ん?」


俺は言って気がついた。西条先輩と小さな声がする事に。これは円香ちゃんの声だよな。


「おい、円香ちゃん盗み聞きしてるぞ。」

俺は西条に言った。


「みたいだね。聞かれちゃったけど、僕にしか興味ないから、気にしなくて良いよ。」


西条がさらりと言った。


「確認したいんだが、お前らの父親の下の名前教えてくれ。念の為莉菜ちゃんに聞いてみる。」

俺は2人を見て言った。


「青木俊だ。うーむ、浮気してたら、ショックだな。多分…仕事のストレスと言い訳しそうだな。」

青木が天井を見て言う。この男は、考えごとすると天井を見る癖があるな。



「えっと、西条実。僕の方は、浮気確定だよね。相手がその沙也加さんって確率は、かなり低いと思うけど。」


俺もそれに同意して頷く。 


その時教室のドアが開いた。円香ちゃんだ。

涙目に何故かなっている。


「お兄ちゃんを庇う先輩に、本当感動しました! まったく、ろくな事しないお兄ちゃんぶっ殺してやろうかと思いました。」


円香ちゃん…この子恐ろしいね。噂のヤンデレ姫の登場だ。そう思い、西条を見つめた。



「なんだと? 俺のおかげで、西条と付き合えたんだそ? 少しは感謝しろよ。」


青木が怒って言った。


「それには感謝しますけど、お兄ちゃんが見て見ぬ振りしてれば事故起きなかったですよね? 先輩は優しいから言わないけど。」


ちょっと火に油注いでるぞ。毒吐くなこの子。


「分かってるよ。俺のせいで事故が起きた事ぐらい。」

青木が力なく言った。



「円香ちゃん! お兄さんに謝れ。僕は、青木を責める気はない。事故を起こしたのは、母だ。いくら円香ちゃんでも言っていいこと、悪いことは、区別して欲しい。」


西条おめぇ、かっこいい。尻に敷かれてなかった。

西条の男気に俺は感動した。



「お兄ちゃんごめんなさい。…でも…一つ聞いていいですか? 西条先輩は…私よりお兄ちゃんのが大事なんですか?」


すげー質問来た! 西条なんて返すんだろうか? 

俺なら、沈黙してしまうが。


「円香ちゃんに決まってるだろ? じゃあ今日はもう早く家に帰ろう。」

子供をあやす様に西条は、円香ちゃんの手を掴んで言った。



「は〜い、先輩。帰りましょ。」

凄い笑顔満面でヤンデレ円香ちゃんは言っ

た。


その手際お見事です。西条先輩と俺は、心で拍手した。



その後は、まるで嵐が過ぎ去ったかの様な心待ちだった。


「妹を飼い慣らしてるな。西条も成長したな。しっかりしてるよな。あいつの背中が大きく見えたぞ。」


青木が俺に言った。



「そうだな。円香ちゃんも、良い彼氏持ったな。さて、俺はこれから部活だ。彼女に会ってくる。またな。」


お互い手を挙げて別れ、教室を出た。



…青木あいつまだ隠し事してるな。

父親が浮気したかもって話なのに、反応が薄いし、子供が浮気報告して、離婚して引っ越し…そこまで悪知恵働くか?


しかしあいつが俺たちに嘘つくなんて、中島レイナ関連以外で? あり得ない。そう考えると答えは1つじゃないか?


全てそれで辻褄が合う。

西条の父親がキスしていた相手が、顔見知り。つまり中島レイナの母親だったんじゃ?


って事は…そうなると恐ろしい考えだが、中島レイナの姉が事故なのは…偶然なのか?


青木もそう思ったから、今まで言えなかった。これで全部辻褄が合わないか?


俺はすぐさま青木を引き止めた。


あぶねー。すぐ気ついて良かった。


「なぁ、お前がキスを見かけた女性って中島レイナの母親じゃないのか?」

俺がそう言うと、青木の表情が驚愕したことを表していた。


ビンゴか。お前のくだらん推理より、俺の推理のが上だったな。そう心でほくそ笑んだ。



「さす…が刑事の息子だな。そうだ。その通り、俺は見かけたんだ。後はお前の察しの通り。全部見抜いたんだろ?」

青木がため息を吐いて言う。



「まぁな、でも、西条がいるうちに見破られなくて良かったな?」



「まったくだ。妹に感謝だな。」

複雑だな、妹に詰られたのにな。



「実際のところどうだ? 西条の母親にチクったのは、それで2人の仲が引き裂かれると思ったからか?」


「そうだ。見事な推理だな。しかし…今恐れているのは、西条とレイナちゃんがもしかしたら、兄妹かもしれんという恐怖だ。」



「いつからの関係か、分からんからな。もしそうならレイナちゃんが不幸になる。だから俺は妹と西条を付き合う様に誘導した。」


だろうな。俺もそう思っていたところだ。


沙也加さんが、相手は避妊しないって言った事を踏まえての結論だ。余計青木もそれを聞いて、ビビったろうな。


「他にも隠してることあるだろ?」


「いや、ないぞ?」


「嘘つけ、お前の父親が不倫してたって言った時、ふーんって反応だった。お前知ってたんじゃないのか?」


「そうだ。それもお見通しか。」

青木が参ったという表情をした。俺に対して誤魔化しは、通用しないというように。



「お前が嘘つくのは、中島レイナ関連だけだな? お前中島レイナのヤンデレだろ?」

ズバリと言った。


「ヤンデレ円香と一緒にするなよ。佐野は、ヤンデレの恐ろしさを知らないから、そんなことが言える。」


青木が顔を青くして否定した。


「じゃあ中島レイナのストーカーだ。」


「ヤンデレで良い。」

青木が手を顔に当て、呆れた様に言う。



さて考えるか。


円香ちゃんが盗み聞きしてるから、配慮して、浮気を知らないと装っていた。青木はそんな善人じゃない。


じゃあ一体…どんな理由だ?


不倫をしていたと言ったら? 別にそうか。と受け止めるが…西条はどうだろう? 父親が不倫するなら、円香ちゃんも? と疑念を抱くかも知れない。


それで疑心暗鬼になって、別れたら、中島レイナと恋愛するかも知れないと考えた?


ふーむ。


青木が不倫を隠した理由。もっと単純かも知れない。

中島レイナの耳に入るのを恐れたか。


後は、青木の父親が不倫した、その事実を俺たちが知った結果、関連して中島レイナの母が浮気したとバレる。それを恐れた。


これが一番しっくりくるが。


青木に可能性について全て話した。



「そうだ。と言うか…全部合ってる。他にも色々考えがあり過ぎて嘘をついた。

単純にどれが理由とは言えんよ。」


青木が体を震わせて言う。


「何より西条は、円香に夢中だから、気づかれない。謝るチャンスを活かした。だが、佐野お前なら気がつくかもとは思っていた。」



俺が気づいたのは、ヤンデレ円香ちゃんのおかげだ。


こいつもヤンデレじゃね? と思ったんだ。



ふぅ、この学校の生徒やはり、西条以外ヤバい奴らばっかりじゃね?


話半分に聞いた方が良さそうだな。


こいつは中島レイナのヤンデレって自覚はないし。


疲れたから、彼女のみーちゃんに癒してもらうか。


「気付かれて気分はどうだ? スッキリしたか?」

最後に質問を投げかけた。


「ああ、本当の俺を知ってくれる奴が1人いるのは、気分が楽になるよ。」


青木がそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る