第23話ファーストキス

「えっ? なんで? 僕そんなこと言ってないよ。帰るよ僕?」

僕はきちんと彼女に主張した。



「先輩が、滝川先輩や、大川って人に刺されない様に、私が一緒にいないと駄目です。」

円香ちゃんは何故一緒にいないとか、それの説明を始めた。


「学校では、お兄ちゃんが、先輩の盾になって死んでくれるからいいですけど、自宅で、先輩1人なら危ないです。だから私が守る為に同棲をするんです。」



円香ちゃんは、お兄さんの青木には、さすがに興味あるのかと思ったけど…死んでくれるからいい? やばい! 


ふぅ、でもそういう理由なら、僕もその心配はないと、彼女に説明出来る。



「けじめをつけてきたから、大丈夫。もうあゆみがそう言う行動する事はないから。」


僕は、円香ちゃんに説明した。


「西条先輩のしっかりした行動は、素晴らしいですけど、それで逆上されて、刺されたらどうするんですか?」


不安そうな表情で彼女は言う。


「滝川先輩がまだまともな方だったから良かったですけど、そう言う危ない行動は、辞めてください。」


懇願する様に円香ちゃんは言う。


「そりゃそうだけど…やっぱり一回は好きになった子だからさ、信じて話し合ってみようって。」

僕は頬をかきならが、恥ずかしがって言った。


「はぁ〜先輩かっこいい、かっこいい、かっこいい。」

円香ちゃんは、僕に抱きつき、首を横に振り擦り付く。


「あっ…またいちゃいましたー。それにしても…滝川先輩にちょっと嫉妬しますね。」

いきすぎ!


円香ちゃん…やっぱり変態だな。


「とりあえず、着替えておいで。ってかもういっぱい近くに用意しときな。」

僕は彼女にアドバイスをした。



「はい、先輩分かりました。ごめんなさい、先輩に迷惑かけます。こんな女じゃ、嫌いになっちゃいますよね。」

彼女が悲しそうな表情で僕を見つめる。



不安定感があるな彼女は。

きっと寂しい家庭環境で、そうなったんだろう。僕は円香ちゃんの境遇に同情して、涙を流した。


今も彼女の両親は、仕事に熱心で今も円香ちゃん1人。

そんな彼女が、僕にゆういつ心を開き、甘えられる。


それを僕は、ひしひしと身に沁みて分かった。


この涙は、円香ちゃんの同情と、僕の彼女への、愛情から来る涙だろう。



「先輩…なんで泣いてるんですか? あまりに私が駄目女過ぎるからですか?」

彼女は、震える手で、僕の涙を拭いた。


その手を僕は掴んで言う。



「ううん、円香ちゃんは、駄目な子じゃないよ。円香ちゃんのこと好きすぎて、泣いてるんだよ。」


僕は彼女に励ませる言葉を考えて言った。

僕も円香ちゃんに愛情表現を返してあげないと。そう思った。



彼女の親も好きで円香ちゃんをネグレクトしているわけじゃない。緊急医療の仕事に従者しているから、やむを得ず。



だけど、青木、つまりお兄ちゃんの方が、まともに育ったのは、家政婦さんのおかげだろう。円香ちゃんは、あまり懐かなくて、僕に懐いてしまったが。



「はぁ、はぁ、先輩胸が痛いです…あぁ先輩愛してますぅ。結婚してください!」


円香ちゃんがまた抱きついた。

彼女の荒い息遣いが聞こえる。


「結婚はまだ出来ないよ、僕たちは。少し落ち着こうか?」

僕は彼女の頭を撫でて言う。



「うう…先輩優しい…優し過ぎる。こんな先輩が、私のこと何年も放置してたなんて…やっぱり私は魅力がない。先輩にそのうち捨てられるんだ。」


それを言われると胸にくるな。確かに会わないでいたけど。


「魅力がないなんて、なんでそう思うの? 円香ちゃんは、とっても可愛くて、一途な子で、勉強も出来るし、僕には、魅力がないなんて、思えないよ。」


「先輩ありがとうございます! 魅力がないって思うのは、自覚してるんですけど、ウザイ女な所です。先輩はどう思いますか?」



そうきたか〜。確かにうざいなって、ちょっと思い始めてたとこだ。


どうする? うざいとこ直そうと促すか、それともそんな事ないって否定するか?


彼女が不安気に僕を見ている。駄目だすぐに答えは出せない!


「とりあえず、下着着替えなよ。それから話ししよ?」



「はい、そうですね。先輩心遣いありがとうございます。」


「何処かに行ったりしないから、ゆっくり着替えといで。」


彼女は、はーいと返事をした。


さて…5分くらいか? それまでに答えを考えなければ!


何故彼女をうざいと感じたか? やはり自信がない部分だな。高スペックな円香ちゃんに言われると、うざいと思ってしまう。



だとすると…答えは自ずと出てくる。


…円香ちゃんが戻って来た。


席に座り、僕に笑顔を向ける。



「円香ちゃんがうざいって思うところ具体的にはどこかな?」


「もし自信のないところなら、僕と一緒に自信を持てる様に、ゆっくりと、頑張って行こう。」


僕は彼女を励まし、お互いに協力して行こうと告げた。



「はい、あと他の人と違う愛情表現がうざいと自覚してます。」


そこもか…でもそこを同時に治すのは、難しいと思う。そこまでして、彼女に変わって欲しくもないかも。


「先輩を観察してて、違うんだって…思いました。」


観察! いつの間に…僕は首を振り、彼女を変態と思った事を悔いた。


彼女は変態じゃない。ちゃんとした女の子だ。


「それは、仕方ないよ。無理に治さなくてもいいよ。それが円香ちゃんの一つの個性でしょ?」


「僕はそれを受け止めるよ。」



「クスン…うぅ…先輩の優しさに殺されそうです。」

目を擦りながら、彼女が言った。


「先輩は、本当は治して欲しいはずなのに…先輩私頑張って普通の愛情表現したいです。」


「私のファーストキス奪ってくれませんか?」

そう言って円香ちゃんは、ゆっくり目を閉じた。



僕は彼女に唇を重ねた。チュッという音が聞こえた。


「いっちゃった?」

僕はどうしても気になって言った。


「いってないです。ムードがぶち壊しですよ? 先輩。」

彼女が頬を膨らませて言う。


キスは別腹か。

やっぱり匂いフェチ?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る