第19話悲しみの先は
和田早苗の視点
「先輩先帰ります。」
木村先輩に挨拶し、私は体育館から出ようとした。
その時ふと、ある物に気がついた。
これは? 飲み物が入った袋だ。
えっ? これ私の好きなジュース…西条君だよね? 他にこんなことする人いない。
私のこと労わって来てくれたんだ。
嘘…西条君…ごめん…私あなたを裏切ってしまった。
私は激しい後悔に襲われた。
西条君に奢らせよう。そんな軽い考えでいた。でもそれは、西条君に知られてない前提であった。
浮気現場を見た彼のつらさ…私だったらと思う。
私だったら…一生彼を恨むだろう。
そう考えると胸が締め付けられて、涙が、滝のように溢れる。
彼の優しさが、この私の好きなジュースを見て染み渡る。
優しいのが退屈だったのに、その優しさで彼の良さに気付かされるなんて…バカだ私。
まだ近くにいるはず、謝ろう。
私は彼に連絡を取り、学校近くのカフェで、話したいことがあると伝えた。
カフェに入り、空いてる席をないかと探した。
ドアから見える位置に私は座り、彼を待った。
しばらくするとドアについてあった鈴が鳴った。
彼が来た。表情は落ち込んでいる様だった。こんな表情にさせたのは、私。
彼に頭を下げた。
「私…木村先輩と浮気しました。」
「ごめんなさい。深く反省してます。
西条君の事傷つけて本当にごめんなさい。」
私は言って、何度も私は頭を下げた。
「どうして? そんなことしたの? 僕に何か不満でもあった?」
深刻な表情で彼は言った。
「不満はなかったの。でも、西条君の優しいところが、なんとなく退屈だって思っていたのかもしれない。」
「でも、それは違った。木村先輩のようにただ、彼の予測不能な性格がスリルで、新鮮だった。私…自分の本当の気持ちがわからなくて。」
私は、一瞬黙り込んだ後、続けた。
「実は、西条君の優しさに甘えていたのかもしれない。常に私を大切に扱ってくれて、それが当たり前になってしまった。」
「それで、何か新しい刺激を求めたくなったの。でも、それがどれほど愚かで自分勝手なことだったか、今ならわかる。本当に、ごめんなさい。」
「先輩とも付き合いません。西条君とも付き合う資格ないと思う。最低なことしたって、気づいたから。」
私は彼の顔を見れなかった。彼に告白しておいて、すぐに浮気した、自分の情けなさを悔いて。
私がここまで反省するのには、理由がある。私の父が不倫したからだ。
私がここまで反省するのには、理由がある。私の父が不倫したからだ。
父が浮気して、私はショックを受けた。あのお父さんが…まさか。
そう思った。
理由を聞くと、会社のストレスで、どうしようもなくて。
そう答えた。
だから、私は西条君の一途なところに惹かれていたのに。
何故こんなことをしたのだろう。
「そっか…退屈…スリル…か。ありがとう。教えてくれて。和田さんと一緒にデート出来た日は本当楽しかった。」
「思い出をありがとう。僕和田さんと付き合えて良かった。」
そう言って彼は手で、顔を伏せて泣いた。
彼はやっぱり優しすぎる。
どうしてこんな酷い女にそこまで、優しく出来るの?
私には、その優しさは、支えきれなかったのかもしれない。
西条の視点
僕は、彼女に謝られて、少し気分が和らいだ。
ふぅ…きっつ。この気分で夏休み過ごすのか。
夏祭りも1人だ。青木を誘えば来るかも。
いや男で行ってもな。
…もし彼女に開き直られたら、立ち直れたろうか?
多分鬱になるかもしれない。
夏休みが終わったら、彼女には、悪いが友達に愚痴らせて貰おう。
彼女を作るのが恐怖になって来た。また浮気されるのではないかと言う、恐れだ。
…二回連続か…二度あることは三度あるとも言うが…もしまた浮気されたら? いや、浮気現場をまた見ることになったら?
恐ろしい。もうあの光景は、絶対に見たくない。
僕には、彼女がいなくても大切な友達がいる。友達に相談してもらって、このトラウマを克服するようにしないと。
トラウマか…それにきちんと向き合って、見つめなおす。それ以外にないな。
いや出来なくても構わない。もうしばらく彼女は作ろうと思わないだろうから。
友達の青木と佐野2人のカウンセラーに相談だな。
僕はそう思った。
そして僕は、夏休みをひたすら、自分の心を休めることに専念した。
寝て過ごす。それほどに僕は疲れ切っていた。
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