第2話束縛の影で、逃げれない選択


「はぁ? 別れたいなら言えばよかったじゃん。」

あゆみが泣きながら叫んだ。


突然のあゆみの出現に、僕と中島さんは、呆気に取られた。


「なんで、裏切るの? 西条この浮気やろー。他の女と遊ぶとかマジあり得ないから。」

金切り声をあげて彼女が詰め寄った。


そこに中島さんが僕とあゆみの前に立ち塞がった。


「西条さんだけを責めるのが、あなたが彼を、大事にしなかった事を証明してると思うの。」


「そんなに彼が大事なら、きちんと話を聞いてあげるべきじゃない? 別れたいって言えばって、人任せだよね?」


「彼のこともっと理解しようと思わなかったの?」中島さんが、彼女に言った。



「なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないの? 私の彼氏誘惑しといて、開き直らないでよ。」



「誘惑したわ。彼が素敵だからよ。でも、彼を追い詰めたのはあなたでしょ? あなたが彼を大切にしてれば、私の誘惑なんて、跳ね除けたわ。」 



「もうあなたとは終わってるの。それをあなたが聞かないフリしてただけ。」


「っ…そんなの…ねぇ、西条違うよね? 中島さんに、何か弱みでも握られてるとか? それか、ちょっと魔が差しただけだよね?」


中島さんはそんな人じゃない。弱みは、確かに過去のことがあるけど、それを武器にした事は彼女は、一度もない。


むしろ配慮してくれいた。



「弱み握ってるのは、あなたでしょ? 魔が差したもなにも、西条さんの心は、あなたから離れてるんだから。それも違う。」

中島さんが反論した。



「あなたは黙っててよ! 私は彼氏に聞いてるんだから。」

あゆみが逆上した。


「僕は…あゆみと別れたい。」

僕は、中島さんの態度に感化されて、言った。


「嘘…中島さんに言わされてるんでしょ? そうに決まってる。」

あゆみは決めつける様に言う。



「はぁ…あなたって救いようのない人ね。」中島さんが頭に手をやり、呆れる様に言う。


「ちゃんと別れたいって言ってるじゃない。私に、言わされてようといまいと、別れたいって、そんな簡単に言えることじゃないと思わない?」



「それに対して、真面目に取り合わないあなたは、自己中心的よ?」

中島さんが強めにあゆみに言った。



「…別れたくない。自己中だろうと、私は西条好きだから、絶対別れない。」



「矛盾してるよね? 最初別れたいならなら、言ってって言った癖に。でも…正直に言えた事は、悪いことじゃないと思う。

本音で語ってるって事で。」



「でもね、彼が別れたいんだから、別れないと駄目よ。片方が別れたくないって言っても、それは、ただの押し付け。」



「そんなの…分かってるもん。でも嫌なの。自分が間違ってること言ってるって全部分かってる。ても嫌…それだけは…無理。」

あゆみが泣きながら言った。


すみません。店内では、他のお客様も、いますので。女性店員が注意しに来た。

すみませんとみんなで謝った。



一応あゆみも外面は良い。 

その外面の良さに僕も騙された。



が…店員が去った後、あゆみの目は、怒りに満ちた睨みの眼光だった。彼女の表面的な優しさの裏に潜む、不穏な感情を暗示していた。俺はその一瞬の表情に、ぞっとするような恐怖を感じた。あゆみの本性が垣間見えた瞬間だった。



泣きながら中島さんに、語ってるけど、本音は、なんとも思ってないんだ。


ちょっと場所を変えましょう。中島さんが提案した。


僕達は、場所を小さな公園のベンチで、話をする事にした。



「ねぇ、いきなり別れるって納得出来ないよ。昨日は、そんな話しなかったじゃん。考え直してよ。悪いところは直すからさ。」

あゆみが僕の腕に縋る様に言う。


悲しそうな表情をあゆみはしていた。それは、本当の表情なのだろうか?



「それは、今まで積もり積もったものがあるからだよ。今日いきなり決めた事じゃない。」

僕は震えて言った。あゆみを見ずに、俯いて言ったのは、彼女への恐怖からだろうか?



「それだよ。積もり積もったって、積もらせないで言ってよ。言われなきゃ分からないよ。そうでしょ? 文句があったら言えば言いじゃん。どうして言ってくれないの。」

彼女が泣き崩れて言った。



「それは…ごめん。確かに言えば良かった。僕も悪い。」

あゆみに謝って僕は、彼女の手を掴み、立ち上がらせた。



「別れるなら、死ぬ、死んでやるから。」

彼女がそう言い放った。


その言葉に僕は、頭が真っ白になった。


実際彼女なら、やる…僕も母と同様人殺しになるのか。そう思うと、彼女と別れる選択肢は、取れなかった。


彼女が実際に行動すると思った理由は、僕を命の恩人だと、思っているからだ。


彼女が、ダイエットのやり過ぎで、倒れた時、僕が彼女を抱えて保健室に連れて行った。


そこで、僕が会話して、励ましたりして…それから彼女の束縛が酷くなったが。




中島さんがあゆみの頬を軽く手で包んだ。


「そんな彼を追い込む様なこと言わないで。それと自分も追い込んで。私も悲しいし。少し冷静になって。」

中島さんが優しく彼女を諭した。



「うん…今日、西条と2人で話し合いする。良いよね?」

あゆみが俺を見て言った。その表情は、何を考えているのか、読み取れなかった。



…そうするしかない。保健室の時は、きちんと話し合った。でも…だからこそ…彼女がまた僕に依存するんじゃないか。


その怖さが、話し合いを拒絶しているのかもしれない。


でも…それを嘆いても仕方ないか。僕は、あゆみと話し合いをすると約束して、中島さんに謝罪した。



「いいよ。私のことは気にしないで。何かあったらすぐ連絡してね。心配だから。」


僕のことを真剣に考えて言ってくれる彼女に、心の底から感謝をした。


そして僕と彼女は、喫茶店で話をする事にした。


中島さんから、去り際に見ると、中島さんが悲しそうな表情で僕を見た。その表情に胸が痛む。

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