第034話 VS とんこつQUINTET!(3)
──午後二時、ランキング戦のフィールド。
ランク10上の強豪チーム、「とんこつQUINTET!」との対戦。
向こうは近接攻撃スキルを持ち三人を、センターラインすぐ手前に並べる。
そして、こちら全員を一定時間行動不能にするというリーダースキルを有するリーダー・美郷を中列に一人。
ロストした味方を復活させられるという、ネクロマンサー的なスキルを有する莉麦を後列に一人。
俺の貫通弾を意識して、射線に複数のチームメイトが入りにくい位置取り。
これは癒乃さんの予想どおり。
ランキング戦直前のミーティングにて、癒乃さんいわく────。
『……再三述べたが、勝つのは難しい相手だ。それでも勝機を掴むならば、ポイントは三つ。一つは、できる限りショットを当て、避ける。各自集中し、命中精度を高める。回避はジグザグ移動。距離にも落差をつけ、近接攻撃組に的を絞らせない。誰でも言えるようなことで恐縮だが、誰かが念押ししなければならないことでもある』
こちらの初期配置は、センターに跳躍弾の誉さん。
右サイド前列に拡散弾のアオサさん、後列に俺。
左サイド前列に炸裂弾の癒乃さん、後列に連射弾にしてリーダーの未来さん。
この配置にて先の、確実な与ダメージ、確実な回避に努める。
それから──。
『二つ目は、開始20秒。西洋剣の流紗、日本刀の天音は、近接攻撃発動のチャージに20秒。巨大鎌の星光は45秒。すなわち試合開始直後の20秒間は、あちらも普通に射撃戦を行う。それも、威力も連射性も低いノーマルショットでの。この時間でどれだけこちらが撃ち込めるかが、勝敗を分けるだろう。だからと言って、開幕ボンバーなどという奇襲はしない。あちらサンへ警戒心を長く抱かせるため、よほどの好機がない限り、リーダースキルはラスト1分まで温存────』
──ビイイィイイィイイッ!
ランキング戦開始のホイッスル。
同時に、激しい撃ち合いが始まる──。
──ダダダダダダダダッ!
フィールド上を交錯し始める、無数の弾幕。
癒乃さんが言ったとおり、弾数、火力は圧倒的にこちらが上。
そしてこちらの狙いは、眼鏡の子・莉麦。
ロストした仲間を復活させるスキル、エクステンドの持ち主──。
莉麦は布陣の最後列をわたわたと左右に動き、仲間に盾になってもらいながらも、絵筆のような武器を手に、黄色い光弾を放ってくる。
その莉麦の移動先を、右から左から誉さんの跳躍弾が狙い撃つ。
「エヘヘッ! 誉の跳躍弾からは、逃げられないよぉ!」
フィールドの左右に当たって跳ねる、誉さんの跳躍弾。
跳ねる角度と射線を微調整して、敵の前衛の隙間を塗い、莉麦を狙い撃つ。
莉麦が涙目になりながら、たまらず声を上げた。
「ひええ~っ! リプレイでチェック済みでしたけど、本当に跳躍弾の名手ですね、彼女っ! これ、ほぼほぼ誘導弾です~っ!」
「莉麦っ、ボクの背後へっ! きみの被弾、想定より多いっ!」
「で……ですねっ! すみませんっ! お背中お借りしますっ!」
日本刀持ちの天音が莉麦をカバーし、自ら盾に。
……ボクっ娘、リアルでは初めて見たぞ。
レイドックスの世界は現実じゃないけれど、元の世界でもそうだっただろうし。
ともあれ、だれかがだれかの盾になるという状況、すなわち俺の出番。
左方へ駆け、天音と莉麦を串刺しにする──!
──ダダダダダダダダッ!
レベルが上がって、貫通弾の発射間隔が短縮され、一発の威力も上がってる。
これを一発でも多く……当てる。
数値上で火力が上がったとは言え、当てるのは素の俺の動体視力。
ランキング戦はたった3分間。
1秒すら集中を欠くな────。
──ダダダダダダダダッ!
「……みんなっ! 18秒っ!」
フィールドいっぱいに響く、未来さんの指示。
これまで戦況に応じて動いていた一同が、戦闘開始時の位置へと踵を返す。
それぞれが所定の位置に立ったところで、きっかり開始から20秒。
フィールド右方……俺の正面からは、西洋剣の流紗が両腕で剣を振りかぶって。
左方では日本刀の天音が、刀を背後に引いて。
直線の動きで突っ込んでくる。
まるで将棋盤の両端の香車が、二つ同時に突っ込んでくるかのよう──。
──ガキイイィンッ!
──ギキィイインッ!
金属がぶつかり合うようなけたたましい音が、わずかにズレて二つ。
こっちのフィールドの
それをライン上で食らい止めるのは、アオサさん。
金属音はアオサさんのダメージ音。
水平に振られた剣が、宙に半円の青白い軌跡を描く。
しかしアオサさんも負けじと、密着状態で拡散弾をめいいっぱい撃ち込む──!
「フフッ、お見事な俊足。ですが近接スキル特有の硬直時間は、しっかりとおありのようで! 一発漏らさず、撃ち込ませていただきますわっ!」
「へっ……砂埃程度にしか感じねぇな! ライフの心配なら、オレよか自分のをしとけよ! もう半分近くいただいたぜっ!」
オレっ娘の流紗。
剣を振り終えた際のわずかな硬直でアオサさんと一言交わし、自陣へと離脱。
前方180度に強烈な近接攻撃を放った流紗は、まるで金へと成った香車のよう。
この近接攻撃は、自陣の一番後ろまで下がっても射程から逃れられない。
左右の動きでかわさなければならないが、流紗のような機動力が高いプレーヤー相手には、それもままならない。
同様の事例が、自陣右方の癒乃さんにも──。
「……
「それは光栄だね。でも、ナンパはお断りだよ。男女を問わず」
「おお……これが島原の宝刀・神気か。デジタルな
「うえええっ!? 会いたかったのって……刀のほうっ!? しかも……斬られたのになぜかうっとりしてるっ!?」
「益田という姓は、かの天草四郎時貞の生家のもの。きみはもしや、天草四郎に
「あ、えっと……。硬直解けたから、ま……またねっ! アハハッ!」
天音がひきつった笑いを浮かべて、自陣へと後退。
センターラインの向こう側へ達すると同時に、逆サイドへの流紗へと声掛け。
「あのさ、流紗。両翼……交代してくれないかな? こっちの子、ちょっと生理的にNGっぽくてさぁ……。ハハッ……」
「へっ、やなこった! こっちの拡散弾女は、オレがきっちり仕留めてやる。それにあの、高飛車な態度……。糸目女が重なっちまってな!」
「あー……そう。じゃあボクも、刀剣フェチの彼女には、早く退場してもらう方向で……。うううぅ……」
癒乃さんが見せた、刀剣女子の一面。
たぶん……素と策を兼ね備えた声掛け。
これであの天音に、緩み……みたいなものが生じてくれれば。
数秒のロスが生まれてくれれば。
その積み重ねで、彼女らの近接攻撃の回数が減る。
だよね、癒乃さん────。
『……最後、三つ目。これは、彼女らのうっかり……見落としに期待する、消極的な策ではあるのだが────』
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