第033話 VS とんこつQUINTET!(2)

 ──フォンッ♪


 スクリーンに映し出される、ランキング戦のリプレイ映像。

 五人の女の子で編成された、近接重視型チーム「とんこつQUINTET!」。

 小柄な女の子たちが、フィールド内に間隔を取って広がっている。

 全員一六〇センチなさそうな、ちんまりとした印象のチームだが、レイドックスにおいて見た目、体格は、戦闘にあまり意味を持たない。


「……前列右翼にいる、西洋剣ソードを持ったツンツン髪は、らんどうしゃ。近接攻撃持ちの一人。機動力が飛び抜けて高く、瞬時に相手フィールドへ斬り込み、搔き乱す。特攻隊長と言ったところか」


 袖まくりシャツにダメージジーンズという、見るからに好戦的な格好の、西洋剣の乱童流紗。

 リプレイ映像では、野郎で構成されたチームの敵陣へ単身突っ込み、剣による斬撃の連続で、瞬く間に三人をロストさせる。

 青い光をまとった剣が、幾何学模様のような複雑な軌跡を宙に描く──。

 えっと……。

 盾とかないこの戦闘システムで、あれどうやって防ぐの……。


「次に、前列左翼にいる日本刀持ちの女。恐らくこの刀は、島原城に展示してある島原の宝刀『神気』を模したものと思われる。神気とは、刀匠の栗田口国綱が──」


「……もしかして癒乃さん、刀剣女子……ってやつ?」


「……コホン、失礼。いまのは忘れてほしい。この女……ますあまも、近接攻撃持ちの一人。流紗ほどではないが彼女もまたすばやく、そして、再構築リビルドという厄介な潜在スキルも持ち合わせている」


「潜在……スキル?」


「桂馬クンは、さすがに初耳か。潜在スキルとは、固有スキル、リーダースキルに次ぐ第三のスキルだが、公式ルールでは言及されていない。持つ者と持たない者がおり、運営からの言及もなければ、ユウに尋ねても無回答。潜在スキルというのもプレーヤー間の暫定的な呼称で、中には卑怯スキル、贔屓スキルと呼ぶ者もいるな」


「あっ……。もしかして、イマリさんのあの弾幕も……」


「恐らく。通常のプレーでは、あの量の弾は撃てない。潜在スキルは、将来的に実装予定の機能が、なんらかの理由で一部のプレーヤーに開放されている状態か、あるいは全員に実装されてはいるものの、その開放条件が謎……との見方が強い」


「ふーん……」


「しかしいま、それを考えても詮なきこと。話を戻そう。この天音の再構築リビルドは、自分がロストすると、すでにロスト済みのメンバーを一人復活させられるという、面倒なものだ」


 日本刀使いなのに、なぜかシスターっぽい装束に身を包んでいる益田天音。

 そのリプレイ映像では、先ほどとは別のチームと対戦中。

 激しい集中砲火を受けてロストし、フェードアウトする天音の姿と入れ替わりに、さっきの流紗がフェードイン。

 敵討ちと言わんばかりに、すぐさま敵陣へと突っ込んでいく──。

 このチームは、実質六人構成……か。


「次に前列センターの、ほし星光すてら。この巨大な鎌を持った、小柄なプレーヤーだが……。この鎌による近接攻撃が、至極強力。間合いが敵陣の約半分に及ぶ上、LV30程度のプレーヤーなら一撃で葬ってくる」


 リプレイ映像に映る、一際小柄な青いドレスの子。

 しかし手にしている鎌のデカさが尋常じゃない。

 その柄は星光の背丈よりずっと高く、湾曲している刃は持ち主の体を囲みそうなほどに大きい。

 現実世界なら支えることすらかなわない、ゲーム世界ならではの武器。

 それを相手フィールドの中央で一振り……。

 周囲の相手チーム五人が一気にライフを奪われてロスト、敗北……。

 これってもう……。


「……チートじゃん」


「ま、そう言いたくもなるな。だがさすがに溜め時間チャージは長いようで、発動可能になるまでおよそ四十五秒。一試合中に放てるのは三、四回。そのうちの一回にはまずこの、リーダーの伽耶間かやまさとが関わってくる」


 未来さんよりもさらに金髪寄りの栗毛。

 未来さんよりもやや短いポニーテール。

 短パンにパーカーという、とてもラフな格好の伽耶間美郷。

 ここまでの三人とは違って素手で、黒いフィンガーレスグローブを着用。

 未来さんと同じ活発タイプなのが、見るからに伝わる。


「彼女のリーダースキルは全体麻痺オールパラライズ。両手をあてがった口から超音波を発して、敵チーム全員を一定時間動けなくする。その間に前列の近接攻撃組……特にセンターの星光が、相手チームを根こそぎ刈り取る」


「もうなんでもアリだな……」


「締めは、最後列に一人立つこの眼鏡のプレーヤー、よう。彼女の固有スキルであるエクステンドは、ロストした仲間を復活させる。このスキルの溜め時間チャージは、アタシのチェックでは三十秒強だ」


「……また復活技持ち。じゃあその眼鏡の子を、真っ先に倒し…………あ、いや」


「気づいたか。彼女を倒しても、天音が莉麦をリビルドさせる。もちろんその逆も可能で、リビルドさせてくれた天音を、莉麦が復帰してくる」


「ゾンビチームじゃん……」


「フフッ、実際そういう揶揄もあるようだが。恐らくは、とんこつラーメンの替え玉がチーム名の由来だろう。博多のとんこつラーメン店には、スープがある限り麺を繰り返しお替わりできる『替え玉』という慣習がある。メンバーの替え玉が延々可能な

チーム……だな」


 ここまで黙々とパンをかじっていたわれらがリーダー未来さんが、ここで発言。


「……見た感じ、チームワークも相当良さそうね。アイコンタクトも使ってる?」


 アイコンタクト……。

 団体スポーツの選手が、視線で指示を出し合うっていうあれか。


「さすが未来、リーダーの観察眼だな。この五人は現実世界でのリア友でチームを結成したと公言している。引き抜き工作は無駄、という表明だろう。もちろん、目つきや挙動で仲間の意図を汲み取る術にも長けているはずだ」


「う~ん、ますます強敵ね。それで参謀、勝算は?」


「いまのところ、ない。とにかく相性が悪い相手だ」


「だけど、癒乃の『いまのところ』は『今後にご期待』だもんね。で、わたしたちはランキング戦までの間、なにをすればいいわけ?」


「やれることは二つ。午後一時までリプレイの徹底観察と、気づいた点の洗い出し。そして午後二時までは、すばやい敵が多く、近接戦になりがちな4-3ヨンサンで体を温めておく。それから、アイコンタクトの訓練……だな」


 アイコンタクトの訓練。

 その言葉にアオサさんが、嫌気交じりの短い悲鳴。

 言うまでもなく、俺と目を合わせることへの嫌悪感……。


「なっ……!」


「……この勝負、一秒がモノを言う。星光の巨大鎌による近接攻撃の溜めは四十五秒。三分間の試合でギリギリ四回放てるが、一秒を浪費させれば三回に減る。そういう、体感の時間が長い試合になるだろう。また────」


 癒乃さんがスクリーン両端へ両手を広げ、本を閉じるようなしぐさでそれを消去。

 未来さん、アオサさん、誉さん、そして俺……を、首を傾けながら順番に目を合わせていく。


「────アタシたち『KNIGHT MARE』は正直、雰囲気で勝ってきたところもあった。それで伸び悩み、一進一退の繰り返しの中で千里が抜けた。いまのままでは『とんこつQUINTET!』のような本物の連携プレーを有するチームや、首位の海土泊現在のような絶対的司令塔のチームには勝てない」


「「「……………………」」」


 新入りの俺は黙っておくにしても、生え抜き三人からも反論はない。

 みんな、薄々気づいていた、痛いところを突かれた……といった渋い顔つき。

 癒乃さんが前髪を整えながら、話の続き────。


「そういう意味では、とてもいい相手に当たったとアタシは思っている。試合まで、残り二時間もないが……。その時間で、これまで目を反らしていたものへと目を向け、見るべきものを見る。それができれば、わずかながらも勝機は生まれるだろう」


 自身のクビまで賭している癒乃さんからの、チームを思うがゆえの欠点指摘。

 異を唱える者は…………出ない。

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