第032話 VS とんこつQUINTET!(1)
──ステージ
そこは俺にとって、初めての屋内戦。
表面が滑らかな金属製の床に壁。
壁面には消灯しているモニターとタッチパネル、明滅を繰り返す丸や三角のライト、あみだくじのように壁を伝う細い溝と、その中を走る発光体が随所に。
まるでSF映画やアニメの基地の中のような、施設内。
もっとも電脳世界のレイドックスに、内も外もあったもんじゃないけれど。
天井がある場所での戦闘に、より強力になった敵NPCロボットの攻撃。
ちょっと息苦しい感じがする。
「桂馬ちゃん! その四脚ロボ、めちゃくちゃ弾バラ撒いてくるから注意だよっ!」
「ありがとう……ととっ!」
──ドゥンッ!
俺の体の芯にある
このレイドックス、被弾したからといって痛みを感じることはないが、足の裏から脳天までがわずかに揺れるのを覚える──。
「くぅ~! 注意貰ったそばから被弾っ! 誉さんは大丈夫っ!?」
「誉たちはね、も~ウンザリするほどここ周回してるから
「そ、そう……。そこら辺も、普通のソシャゲと同じだね……」
これまでの人型のロボットではなく、クモ型……ないしカニ型の、初見の四つ脚ロボットが弧を描くような移動を繰り返しながら、光弾を四方八方へバラ撒いてくる。
追ってこないのは助かるが……俺を追尾しないということは、その分射線を絞りにくいということでもある。
あと……俺を狙い撃ってこないと、逆に避けづらい!
避けた先に別の弾があったりする!
こりゃ慣れるまでは、かなり被弾しそうだ……。
でもいつかは、イマリさんの
あのフィールドを覆う弾幕を思えば、これくらいの敵なんてっ!
うおおぉおおぉおおっ────!
────フォンッ♪
────そして正午の休憩。
ミーティングルームで一同息抜き&食事。
かと言って、安堵するのはまだ早い。
ここにはまた、別の戦いが待っている──。
「……桂馬くん? お昼用意してあげ」
「ごめん未来さんっ! もう自分の分用意しちゃった! 新しい敵に手こずっちゃって、おなか減りまくりでさ~! はははっ!」
ミーティングルームの端にある、ちょっとしたキッチン。
ここの壁にあるタッチパネルを操作すると、注文した料理がトレーの上へと瞬時にフェードイン。
クエスト報酬の交換チケットで、食事のバリエーションをちょい増やしておいた。
きょうのお昼は、中辛のカレーライス。
未来さんの激甘料理を被弾せずにすんだ……ほっ。
「そ……そう? ふーん……カレーかぁ。男子って、そういう塩辛系好きだよね~」
苦笑から漏れ出た、何気ない未来さんの一言。
それを耳にした瞬間、なんとも言いがたい違和感、そして背筋に悪寒が生じた。
悪寒……おかん……お母さん……。
未来さんが将来結婚して、お母さんになったとき……。
もしかするとその子どもは、「お母さんのカレー」の味を知らないままで、大人になるのではあるまいか────。
「へえ~、桂馬ちゃん、おカレーかぁ。誉もきょうは、おカレーにしよっかな?」
俺の胸元のトレーを、つま先立ちで覗き込んでくる誉さん。
物欲しそうに唇へ人差し指を当てながら、丸い瞳からの視線をカレールーへと浴びせている。
「あれっ? 誉さん、蕎麦以外も食べるんだ?」
「おカレーと言っても、お蕎麦屋さんのおカレーだよっ! お蕎麦のお出汁が隠し味のねっ! えへへっ!」
「徹底してるね……。でもこの世界の料理ってさ、一瞬で出てくるからなんだか味気ないよね。いやちゃんと美味しいし、あったかいけどさ……」
「そっかな? 立ち食いのお蕎麦屋さんに似てて、誉はけっこう好きかなー。注文したら速攻で出てくるかけお蕎麦を、お店の外行き交ってる人たちを横目に、壁と向き合いながら立って食べる背徳感っ! う~……やっぱおカレーやめて、かけお蕎麦にしよっ! あとはかき揚げかエビ天か……むむむぅ……」
メトロノームのように上半身を左右へ揺らして悩みながら、キッチンへ……。
誉さん、本当に蕎麦が好きなんだな……。
ん…………待てよ?
食べ物をきっかけに、アオサさんとコミュニケーション取れないかな?
アオサさんの食事って、なんだろ…………。
……へえ、お寿司か。
握り寿司。
ピカピカの寿司ゲタの上に、これまたピカピカのマグロ、イクラ、ウニ、卵などなどの握りが、整然と並んでる……。
イカの奥に透けて見えるワサビは多め……サビ好き派か。
「……なんですの?」
口内の分を食べ終え、お茶を一口含んでから、アオサさんがこっちを向いた。
初めて俺へと向けられた顔。
不機嫌そうな半閉じの瞳の端には、ワサビが誘発したと思しき涙が一粒。
「あ、いや……。お寿司も美味しそうだなーって、思って。あははは……」
「わたくしから離れて食べてくださる? カレー臭が漂っていては、せっかくの上寿司の味が、回転寿司レベルまで落ちてしまいます」
「ご、ごめん……。じゃあ定位置の、端っこの席で……」
「……フン」
アオサさんの顔が、険しいままで寿司へと戻る。
けんもほろろ、取り付く島もなし……だな。
まあ、食べ物で取り入ろうとしたのは間違いだったかもしれない。
まずは午後のランキング戦で、チームにきっちり貢献しよう。
ところで癒乃さんのお昼は…………。
……あれっ、なにも食べずにスクリーンと向き合ってる。
「……癒乃さん、お昼は?」
「……ン? ああ、アタシはみんなの食事が済んでから……だな。においがキツいものだから」
「……ニンニク系?」
「いや、とんこつラーメンだ。きょうのランキング戦の相手をチェックしていたら、すっかりとんこつラーメンの口になってしまった」
「とんこつラーメンの口になるって、どういう相手チームなの……」
「……強敵だ」
癒乃さんが席を立ち、目の前のスクリーンの両端へ手を当てて左右へ広げる。
宙のスクリーンが、めいいっぱい広げられた癒乃さんの両腕サイズへ拡大。
さらのその右端を癒乃さんがポンと叩くと、スクリーンの映像が水平に回転。
テーブル向かいのみんなへ向けて、相手チームの情報が映し出される────。
「ランキング35位、チーム『とんこつ
「うちと同じ、女の子だけのチームなのね。あっ…………もぐもぐもぐ……」
未来さんが俺の存在を一瞬忘れて、女の子チーム発言。
それを誤魔化すために、右手のパンをめいいっぱい頬張った。
うっかりはまあいいんだけれど、あの固いドーナッツみたいなのにチョコをたっぷりコーティングしたパン、見てるだけで胸やけ起こしそうになるな……。
「このチーム、アタシはゆくゆくトップ5に常駐するほどの強豪だと、前々からマークしていた。また、近接攻撃特化のチームということで、うちとは相性が悪い。うちは中距離から遠距離を得手とする構成ゆえに、懐に飛び込まれると弱い。唯一対抗できるのが、アオサの
「そういう相手のために、バリアスキル持ちを置いておくべきですのに……フン」
アオサさんが湯飲みで口元を覆いながら、その中へと小声の不満。
聞かなかった振りなのか本当に聞こえなかったのかはわからないが、癒乃さんはよどみなく解説を続ける──。
「未来のリーダースキル、グラヴィティボンバーも使いどころが難しくなる。考えなしに接近戦特化チームを引き寄せてしまうと、大きなリスクを生むからな」
「おそばに寄られると、怖ーいチームさんなんだ。お蕎麦はこんなに美味しいのにね~。ずずずっ……」
エビ天蕎麦をすすりながら、誉さんが一言。
唇の左下に、天かす一つくっつけて。
「……彼女らの強さは、それだけにとどまらない。ここからは、リプレイを交えて説明しよう。食べながらでいいからチェックしてほしい────」
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