STAGE 03 : RANKING BATTLE(ランキング バトル)

VS とんこつQUINTET!

第030話 選択肢

 ──レイドックスの世界へ来て三日目。

 きのうは2-10ニボス突破までクエスト進めて、ショット強化アイテム、森のフィールド風景、そしてかなりのアイテム交換チケットを手に入れた。

 このチケットで部屋の家具、衣類、食べ物をいろいろ入手できるというが……。

 使い道を絞れないまま、結局寝てしまった。

 未来さんはインテリア、服、スイーツをバランスよく入手して、誉さんはまず蕎麦へ全振りしたらしい。

 俺は……どうするかなぁ。

 イマリさんがまた来ることもあるかもしれないから、ベッドをフカフカのダブルにアップデート……。

 いやいや、ダブルだと一緒に寝たいって下心見え見えだろ!

 通話中に部屋が映り込むことだし、インテリアにはそれなりに気を配らないと。

 …………あと服!

 不衛生にならない世界だとは言え、いつも同じ服着てると女の子へ悪印象だから、卒なくバリエーションを揃えておきたい。

 軽めの部屋着、パリっとしたスーツ系の上下、遊び心溢れるスポーツウェア……。

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。

 ……同じことで悩んで、あしたの俺に判断託したんだよな、きのうの俺。

 「きのうのあしたの俺」は「きょうの俺」なわけで、朝のミーティング前に服の二~三着は入手しておきたい。

 んー…………ここはやはり、恥を忍んでっ!


 ──ピッ♪


「……ユウ!」


 ──フォンッ♪


「はーいっ! 呼び出し一言すぐ参上っ! あなたの暮らしの身近なパートナー、ユウでーすっ!」


「あ、あの……えっと……さ」


「……はい? なんでしょう?」


「女の子から見て、こういう格好の男の子ってイケてるよね、とか。連れて歩くなら、こういうファッションの男子よね、とか……」


「ふむふむ?」


「こういうレイアウトの部屋に住んでる男ってセンスあるー……みたいな。そ、そういうのをユウに相談すること……って、できたりする?」


「ほほーん。ちょっとばかしチケット長者になったからって、色気づいてますねぇ、桂馬さーん?」


「そ、そう言うなよ……。ユウを信頼しての相談なんだからさ。あとできれば、相談内容をあとできれいサッパリ忘れてほしいんだけど」


「あ、それは無理ですね。桂馬さんとの会話は学習内容として、すべて記憶されておりますので」


「あ、そう……」


「そ・れ・に! 信頼してると言いながら忘れろって、信頼してないも同然じゃないですかぁ! 記録こそしますけれど、桂馬さんの個人情報はぁ、絶対口外しませんよぉ?」


「ううぅ……そこを指摘されると弱い。でもこういう相談するの、恥ずかしいんだよぉ……。そういうのと無縁の陰キャ男子生活で、イマリさんと出会ってからやっと、服ぼちぼち買いだしたくらいだし……」


「まあ、桂馬さんの肉体の数値は、つま先から頭頂部まで把握してますから、レイドックス内のトレンドと照らし合わせて無難なアイテムをピックアップすることはできますけどー?」


「おお、それそれ! そういうのをお願いしたいんだよっ!」


「でもそれだと没個性ですよー? ほかのユウたちと同じデータを参照するわけですから。『お母さんに買ってもらった服』のレイドックス版になっちゃいますねー」


「う……。そ、それはイヤだなぁ。おかんファッションは、女子受け最悪だから」


「さてここで、とっておきの情報なんですが! 桂馬さんの個性を引き出す服の選びかたがあるんですっ!」


「ほお!」


「そ・れ・は……ですねぇ。ユウに似合うファッションを、桂馬さんが考えてくださいーっ!」


「なんじゃそらっ!?」


「チチチチ……これはですねぇ。桂馬さんがパートナーに着てほしい服をチョイスすることで、その隣に並ぶ桂馬さんのファッションをシミュレートするというアプローチなのです。これでそのへんの量産型男子に、差をつけられますよー」


「本当かなぁ……」


「もうこれがイヤなら、ランプから出てくる髭のオジサンに相談してくださーい」


「いやいやいや! ランプのオッサンに女子受けファッション相談するようじゃ人生詰んでるって思ってるから! ユウ先生、ご指導ご鞭撻よろしくお願いしますっ!」


「まあレイドックスは、外の世界のネットワークから完全に隔離されてますから、ランプのオジサンは呼び出せないんですけどねー。キャハッ!」


 えっ……!?

 いまユウ、さらっと重大なこと言ったぞ!


「レイドックスは……外のネットワークから完全隔離? それってどういうこと?」


「あーっと! いえいえなんでもありませんっ! それではさっそくそちらへお邪魔しますから、ユウをかわいくコーディネートしちゃってくださいっ! キャハッ☆」


「えっ……? こっちって……わっ!?」


 ──フォンッ♪


 モニター内のユウがフェードアウトして、同時に室内へフェードイン。

 イマリさんが部屋へ来たときと同じ……だけれど。

 ユウもできるんだ……。


「あれっ、桂馬さん? やけに驚いてますね?」


「そ、そりゃあユウが目の前に現れたら、びっくりするよ……」


「でも一番最初の戦闘時にユウ、桂馬さんの前に現れてますけど?」


「あ…………」


 ああ、そうだ!

 チュートリアル飛ばして、わけもわからずザコ敵に追い回されてたとき、確かにユウが全身見せてきた!

 でも、あれは……。


「あのときのユウ、透けて見えてたからさ。てっきりそういう演出なんだと……。っていうかユウ、意外と小柄なんだね……」


 誉さんほどではないけれど、顔を下げないと目線を合わせられない背丈のユウ。

 形のいい小さな鼻の隆起を見下ろす位置関係。

 壁のモニターだと目線が同じ高さだから、このアングルは新鮮だ……。


「そうですねー。ユウは細身ですし、モニター越しのときは比較対象のインテリアもありませんから。ファッションモデル的な長身に、見えてたかもしれないですねー」


「うん……そう。俺よりちょっと下くらいに思ってた」


「ユウの基本モデルは体高一六五センチですから、一五一ほうですかねー。各ユーザーに配されているユウには、微差があるんですよー」


「微差っていうか、胸囲的な……じゃなくって、驚異的な差がある場合も、あるんじゃ……?」


「そこ言い直す必要ないじゃないですかーっ! はいはい、胸が貧しいユウで悪うございましたっ! 言っておきますが、ユウの交代やモデルチェンジは原則できませんからねっ! はい、このありのままのユウをかわいくコーディネートしてください! 元はと言えば、桂馬さんの服選びのためなんですからー!」


「……そうだった。いやごめん、悪かったよユウ」


 またさりげなく、重大な情報が……。

 ユウの交代やモデルチェンジはできない……

 以前聞こうかなって思ったものの、ユウを傷つけるかもしれないってやめた件だ。

 原則……ってことは、特例も……ある?


 ──フォンッ……フォンッ♪


 ユウが両手をめいいっぱい左右へ広げ、宙でくるっとそれぞれの手で輪を描く。

 そこへ衣類をたくさんぶら下げたラックがフェードイン──。


「はいはーいっ! このドレスラックから、ユウに似合うと思うもの選んでくださーいっ! この中になければ、じゃんじゃん追加しますからねー♪」


「うは……。カラフルなレディースがずらり……目がチカチカする。あ……ほとんどビキニみたいな服もあるけど、こういうのも試着してくれるの?」


「ご要望とあらばー。ユウの中で桂馬さんの印象が、ちこーっと悪くなるかもですけどー!」


「……声色的に、大幅に悪くなりそう。えーと……じゃあとりあえずこの、夏物っぽい白のワンピースで」


「ほー……。さすが陰キャを自称するだけあって、お嬢様っぽい清純路線をチョイスですねぇ。麦藁帽子に、ヒマワリ畑の風景もオマケしときましょか?」


「まさか一着選ぶたびに、その偏見聞かされんの……」


「『とりあえず』なんていいかげんなチョイスですと、そうなりますねー。女の子と買い物するときは、ちゃーんと説得力ある選択肢を、ぐだぐだ迷わずスムーズに複数提示! そしてその選択肢に女の子が迷ってる時間を、ゆっくり楽しめる度量の大きさ必須ですよー!」


「うおぉ……耳が痛いお説教! でも、うん……確かに。女の子って、そういう生き物だよね……。ユウもしっかり女の子なんだね……」


「この愛らしい姿、女の子以外の何者だって言うんですかー? まあ、リクエストを承るのがユウのお仕事ですから、試着はしますけれどもー……えいっ!」


 ユウが片足のつま先立ちで、優雅にくるっと身を一回転。

 その最中で、ユウの体がほんの一瞬輝き、着衣が白いワンピースへと変化。

 スカートをふわりと舞わせながら両踵を揃え、停止とともにしおらしくお辞儀。

 人を食った態度が多いユウだけれど、いまのはさすがにドキッとさせられた……。


「……いかがですか、桂馬さん?」


「あ……うん、かわいい。ちょっと美人寄りのかわいさで……爽やか。避暑地でオフ過ごしてる、いいとこのご令嬢って感じがする」


「エヘヘッ、そうですかー? ちょっと胸元がスースーしますけれどもー」


 体の左右でスカートをつまみ上げながら、ユウが照れ臭そうに再びお辞儀。

 上半身を大きく前へ傾けた際、開いている胸元から、胸の谷間が一瞬覗いた。

 真正面のときは微乳のユウでも、アングルによってはこう……ボリューム感が出るんだな……。

 そういえば俺、ユウの胸をさわった……否、さわらせられたことあったけど。

 イマリさんのときと違って、ユウは全身さわることができるんだろうか……。


「おお~? 桂馬さんもしかして、ユウに見とれちゃってます~?」


「あ、正直ちょっと……ね。着替えるときの『くるっ』も動きがきれいで、モデルさんみたいだったよ」


「なーんだ桂馬さん、褒めて伸ばすがちゃんとできるじゃないですかー! ではでは衣装の換装プロセスを、もう一度お見せしましょー!」


「あ、そこまではいいよ……。えっと次は……ん、このカーディガンとゆるふわなスカートの上下の組み合わせ、森ガールとかいうのっぽくてかわいいな」


「ザ・陰キャって感じのチョイスが続きますねー。キャハッ!」


「うるさいよ……」


 なんかでも、ちょっと……いや、かなり楽しいな。

 女の子の買い物につきあうのって。

 まあこれは、買い物じゃないけれどさ。

 ユウも騒がしい茶化し屋だけれど、こうして間近で見るとやっぱかわいいし。

 イマリさんや未来さんと買い物するときに備えての、いい練習になりそう。

 ……………………。

 ……………………。

 ……………………。

 ……えっ?

 どうして未来さんが、選択肢として入ってるんだ────?

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