第028話 不尽山過去

 ────ステージ1ー10イチボス

 各ステージのエリア10にはボスキャラが待ち構えている……。

 ……というのを、いまさら知る。

 ここまで出現した二足歩行の敵ロボットを、一回り大きくした造形。

 二つ横に並ぶ頭部から放つ大き目の連射弾と、左右のアームに増設されたショットガンで攻めてくる。

 未来さん情報では、二つの頭部が弱点で、ショットガンは個別に破壊可能────。


「シューッ!」


 ────が、貫通弾持ちの俺は、回り込んで真横から攻撃。

 双頭への攻撃とパーツ破壊をまとめて行う。


 ──ドガッ……ガガッ……ドガガッ……ガッ……ドガガガッ!


 重なり合う複数の爆炎と爆発音。

 十秒と経たず、ボスキャラが瓦礫と化しながら、芝生の上へと崩れ落ちる。

 俺の初ボス戦を少し離れたところで見物していた未来さんが、「勝って当然」のニュアンスを滲ませた、小さくて小刻みな拍手を送ってくれる────。


「まだまだここらじゃ、わたしが手伝う必要なし……かぁ。それにしても、貫通弾だとそういう倒しかたもできるのね。これは便利だわ」


「いまのは将棋の飛車を、横に利かせたイメージかな?」


「だからわたし、将棋わかんないってば~。麻雀なら、ちょっと知ってるんだけど」


「麻雀のほうがルール複雑そうだけど……。でもネトゲだと、将棋より麻雀のほうが人口多いんだよなぁ……」


 ──フォンッ♪


 ……っとと、端末バンドに通知。

 あっ、俺のじゃなくって、未来さんのほうか。

 黒髪の女の子の全身像が、半透明で未来さんの正面に現れる────。


『……おい、未来』


「フジコちゃん? なんの用?」


『その呼びかたはやめろと、いつも言っている!』


「じゃあ、フジアヤコちゃん」


『人を勝手にベテラン演歌歌手にするなとも言っている! ちゃんとした名前で呼べ! 名前で!』


「ごめんごめん、フジノヤマさん」


『姓ではなく名で呼べ~! おまえとわたしの仲だろうがっ!』


「アハハッ! ちょっとからかっただけよ、アヤコ。ところで会議モードになってるけれど、大丈夫?」


 未来さんが屈託のない笑顔で、相手をからかってる……。

 真面目な子って印象だったけれど、女友達相手だとそういう一面もあるんだな。

 相手の子は、身長は未来さんと同じくらい……。

 ……と見せかけて、めっちゃ底の厚いロングブーツ履いてる。

 黒主体のゴスロリ衣装に、白黒ボーダーのニーソックス。

 スカートがふわっと広がってて、装飾もゴテゴテしてるから体のラインが分かりづらいけれど、足と腕の細さから、体型はたぶんスレンダー。

 未来さんよりちょっと細めの、長いツインテール……。

 あ……いや、後ろにポニーテールもあるから、トリプルテール……かぁ。

 コーカサスオオカブトがある見た目だ。


『フンッ! 会議モードにしたのは、おまえのところに入ったダサを拝んでやろうと思ってな。おい、そこにいるであろうダサ男! おまえも会話に交ぜてやるから来いっ!』


 …………ん?

 ああ、あの子からは、俺が見えてないんだな。

 で、会議モードとやらで、そこのガールズトークに参加できる……と。

 ええと……どうやるんだろ?


「……桂馬くん桂馬くん。ダサ男って、きみのこと言ってるんだと思うよ…………たぶん。メイビー……」


「あ、それは自覚あるから大丈夫。会議モードの設定がわかんなくって」


「なーんだ。だったらわたしが招待するわ。でもアヤコ、すごい癖強い子だから……気をつけてね?」


「一応言っとくけど、自覚はあっても無傷ってわけじゃないよ?」


 ──フォンッ♪


 俺の抗議は軽く流されて、それまで半透明だったアヤコという子が、くっきりと視認できるように。

 向こうもこちらを視認できたようで、目尻が上がったキツい視線と、長めの睫毛を速攻で向けてくる。


「……フン! 近くで見ると、いっそう貧相なダサ男だな。冴えない男子にも気軽に声を掛けていた未来らしい、とも言えるが」


「そっ、その言いかたは誤解生みそうだからやめてよっ! 男子に片っ端から声掛けてるみたいじゃないっ! もぉ!」


 じゃれあいの気配で慌てる未来さん。

 これもチーム内でまだ見てない未来さんの一面。

 この二人、けっこう仲良さそうだ。

 そして、刺々しい言葉と視線を俺へと向けてくるアヤコさん……。

 その体の前に、氏名のテロップが表示されてる。

 不尽山ふじのやまあや────。

 過去かこと書いてアヤコ……か。

 女の子の名前にしては、なんだか後ろ向きというか……。


「……フフン。ダサ男の分際でいっちょ前に、他人様の名前が気になるか? どうだ、いい名だろう? 永遠に尽きることのない山……霊峰・富士山の異称だ」


「あ、どちらかと言えば姓より名のほうが気になる……かな?」


「……アン?」


 ──ギロリッ!


 アヤコさんの瞳が上下に大きく開かれ、白目をめいいっぱい見せてくる。

 楕円に開いた口の中で、長い八重歯の先端が光る。

 体の左右に下ろしている両手の先では、黒いマニキュアを塗った長い爪が、まるで引っ掻いてくる予兆のように、わしゃわしゃと蠢いてる……。

 もしかしていま、彼女の地雷を踏んだ…………のか?

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