第027話 こういうのでいいんだよ

 ──初のランキング戦を終えて、本日のチーム「KNIGHT MARE」の活動は終了。

 以後はおのおの、ソロの出撃。

 一日に消費すべきクエスト出撃六時間のノルマまで、まだあと二時間弱……。

 かなり戦い抜いたつもりだけれど、まだ三分の二……か。

 「一日十二時間レベリング頑張ろう!」と意気込みもしたけれど、この世界へ来てからまだ二日目。

 こっちへ飛ばされた日をノーカウントとするなら、実質初日。

 急がず慌てず、六時間の消化で良しとしておく……か?

 ……いやいや、何事も最初が肝心っ!

 イマリさんとベッドイン直前まで行き、美少女だらけのチームに男一人という恵まれた環境で、だらけてなるものかっ!

 未クリアのステージ、ソロでバリバリ攻略するぞっ!

 クエスト進めれば、食事のメニューやインテリアを獲得できるって誉さんも言ってたし……。

 俺も誉さんの蕎麦みたいに、好きな食べ物揃えて回るか!

 でもその前に……ちょっと一休み。

 休憩がてら、溜まってるフレンド申請チェックしてみよ……。


 ──ピッ!


「う゛わ゛っ」


 ……思わず変な声出ちまった。

 まさかの未読千件超え……。

 スパムでもこんな数貰ったことないぞ……。

 中にはかわいい女の子からの申請もあるんだろうけど、さすがにもう間に合ってるから、やっぱりここはそっ閉じで…………。

 ……いや、待てよ。

 癒乃さんが注意を促していた、月出里千里さんからの申請……って、あるのかな?

 名前で絞り込み……。

 すだち……せんり……っと。


 ──ピッ!


 ……っと、あった。

 着信五分前……って、届きたてホヤホヤだ。

 試しにメッセージ、見るだけ見てみるかな……。

 俺の前にチームにいた子、やっぱり気になる────。


 ──ピッ!


『はろはろ~! お初です~、桂馬! 対人戦の初勝利、おめでと~! 観客席でリアタイしてたよ~! どんどんぱふぱふっ♪』


「……………………」


 誉さんより発育、未来さんより幼い……な、童顔寄りの女の子。

 うっすらピンクがかった髪は、ウィッグではなく染めてる感じ。

 ぱっつん前髪に、丸い瞳を覆う赤いアンダーリムの丸眼鏡。

 口がちょっと大きめで、笑うと白い歯ときれいな赤色の舌が覗く。

 口の中がはっきり見える子って……なんだかちょっとエッチだ。

 後ろ髪は、太いお下げが左右へ垂れてる感じ……かな?


『桂馬のバトル、超カッコよかったよ~! ボク、一瞬でファンになっちゃって……勢いでフレ申しちゃった! あ~も~! 緊張でキョドってたらどうしよ~! エヘッ、エヘヘヘッ!』


 喋りながら徐々に顔を紅潮させていき……。

 見るからに柔らかそうな頬を両手で覆って、照れ笑いで顔を左右にふるふる……。

 いきなり呼び捨て……。

 女の子なのに自分のことを「ボク」……。

 ピンクのリップに、肩周りを大胆に露出させた同じ色のキャミソール。

 モニター下部には、ロリ顔に不釣り合いな深々とした胸の谷間……。

 や……やばいっ!

 これは……陰キャ男子が、秒で魂を持っていかれるやつっ!

 オタサーの姫どころか、対陰キャ専用キャバ嬢っ!


『……でねでね。ボク桂馬のこと、もっと知りたいな~って。ボクもそのチームいたことあるから、情報提供たーっくさんできると思うよー? まずはフレンドから、お願いしまーっす! あ、えっと……それからぁ────』


 ──ピッ!


 ……メッセージ再生中断!

 これは陰キャが最後まで見ちゃいかんやつ!

 見終わったころには洗脳完了してるやつ!

 照れながら、顔を真っ赤に染めていくあのしぐさ……。

 演技じゃない、天性の陰キャ殺しキラー

 さらにあの、「まずはフレンドから」の「まずは」!

 その先の含みを持たせた、さりげなくも強力で、かつあとから言い訳がどうとでもできる一言っ!

 そんなトラップワードを、あのあとも連発してるに違いない!

 癒乃さんからの助言が前もってあってよかった~!

 でもいまの千里さんの映像が……問答無用で脳内でリピる!

 キャラの癖つえぇ!

 ほかの女の子の申請でも見て、記憶あやふやにしよう……。

 えーと……性別を女性で絞り込み……。

 検索結果一覧から、千里さんの印象と真逆の、大人っぽい子を…………。

 ……ん、社会人っぽいメイク慣れした顔つきしてる、茶髪のこの人で。


 ──ピッ!


「…………わっ!」


 いきなりモニターを上下に分割する、肌色と白色……。

 それが水滴をまとった胸の谷間と、乳輪を隠すバスタオルだと把握するのに数秒。

 その大きなおっぱいの所有者の体が引いて、上半身をモニターに映す。


『……あら、ごめんなさい。お風呂で観戦してたから、こんな格好なの。きみもランキング戦終えて、シャワーを浴びてるところかしら? ンフッ────』


 くねくねと身をよじらせながら、再び胸元をカメラへ……。

 うーむ、なんというわかりやすい色仕掛け。

 でもこっちは、ユーザー同士で接触できないってちゃんと知ってるから!

 そっちのチーム移っても、その巨乳掴めねえって知ってっから!

 接触不可前提で色仕掛けしてくるの、なんか腹立つわー。

 ……邪念払うために、ここらで野郎のツラでも拝んでみるか。

 性別男で絞り込み…………。

 ん、スポーツ刈りの爽やかそうなこいつで。


 ──ピッ!


『筋肉ッ! 電脳世界でも、最後に勝つのは筋肉ッ! さあ俺たちとともに、肉体を磨き上げよう! そしてサイドチェストから放つ貫通弾で、対戦相手のみならず、俺たちをも貫いてみないかっ!?』


 ……全身ムキムキ筋肉に、ビキニパンツ一丁。

 肌がテカテカなのは汗……じゃなくって、オイルかなにか塗ってる?

 これは……さすがに男成分が強すぎる。

 というかこれも、変則的な色仕掛けのような気が……。

 ええい、次だ次────。


 ──ピッ!


『立てよ若人、少国民(※注)! 神国日本は、来る敵国との電子戦に備えてこうして徴兵を始めた! だが憂うことはない! 我々が神風に乗って先陣を切り────』


 ──ピッ!


『下位をうろちょろしてる弱小チームですが、アットホームさではどこにも負けませんっ! ぜひ、わたしたちの家族になってくださいっ!』


 ──ピッ!


『……このレイドックスの世界は、注射針から埋め込まれたマイクロチッ』


 ──ピッ!


『おいテメェ! 何度もフレ申してんのにスルーしやがって! こっちも別にテメェと友達になんぞなりた』


 ──ピッ!


「……………………」


 ……苦虫を嚙み潰したような顔になってるな、いま俺たぶん。

 こんな勧誘メッセージが千件超……。

 ……あ、いや。

 最後にちょろっと見た奴は複数送りつけてるみたいだから、重複が結構あると考えて、二百~三百件くらい?

 それでも大概だな……。

 俺が飛ばされた直後に未来さんからスカウトされたの、大当たりだったのか……。


 ──フォンッ♪


 ……おっ。

 噂をすれば影……未来さんからの着信。

 さっき別れたばかりだけど、いまちょっと話したい気分だ……。

 受信……っと。


 ──ピッ!


「やっほ、桂馬くん。初のランキング戦、お疲れ様だったね!」


「…………」


 「くん」呼び。

 飾り気のない顔。

 媚びのない声色。

 朝の件もあってか、肌の露出がないベージュのパーカーに身を包んでる慎ましさ。

 ……うん。

 こういうのでいいんだよ、こういうので。


「あー……えっと、桂馬くん? その無言の真顔、怖いんだけど……」


「……っとと、ごめん。調べもの中に通話来たから、ちょっと表情硬いかも」


「あっ……勉強中だったんだ。じゃあ、失敬するね」


「ああああぁ……大丈夫、大丈夫っ! リーダーからのお達しを袖にするほどの自習じゃないからっ! で……なに? なんでしょう?」


「んー……。そろそろ、ソロで出撃する頃合いかなって思って。だったら、サポートしてあげようかな……って。こほん」


 少し照れくさそうに顔を傾けて、片目を伏せて咳払いのポーズを取る未来さん。

 こういうのがいいんだよ、こういうのが。


「あ、うん。もうちょっとしたらクエスト出るつもりだったけど。手伝ってもらえるの?」


「う、うん。でも、誤解しないでねっ? リーダーがメンバーをサポするのに、深い意味ないからねっ? いまの桂馬くんの能力なら、ソロで2-9ニーキューは行けると思うんだけど……。そこらじゃもう経験値しょっぱいくらいに育ってるから、さっさと先へ連れてってあげようかなって思って。うん!」


「はは……ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えようかな」


「ええ、任せてっ! あと、お昼ごちそうし損ねたから、晩ご飯はわたしに任せて! 三厩未来の特製バーガー、ほっぺたが落ちるほど美味しいんだからっ! ねっ!」


 ぐほっ……!

 本当の目的はそっちかぁ!

 さてはチーム内に甘党仲間がいないもんだから、俺の味覚を改造しようとしてるな……。





(※)少国民は戦時中に使われた、小学生ほどの年ごろの国民の意。「将来的な兵隊」のニュアンスを含む。現在は歴史を語る場以外では使われない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る