第026話 開幕ボンバー

「ちいいぃっ! 開幕ボンバーかよおっ!」


 重力の発生源……未来さんの真正面へと引きずられていく敵リーダーが、大きく舌打ち。

 遅れて引きずられていく左右の二人。

 重力の影響が少ないらしくも動けない、敵陣の両隅の二人。

 そして、重力の影響をいっさい受けない「KNIGHT MARE」一同。

 自陣最前線左方にいる俺から、敵リーダー、その向かって右、さらに右奥隅の三人が、射線上に並んだ────。


「そっ……そういうことかっ!」


「そういうことだ。さあ撃ちまくれ、桂馬クン!」


「うおおぉおおぉおおーっ! シュートッ! シュートッ! シュートオオォ!」


 リーダースキル……ボンバー。

 未来さんのボンバーは、一定時間フィールドへ水平に働く重力を発生させて、敵を引き寄せる……というものか!

 与ダメージ効果もあるようで、敵のバリアがビシビシ唸っている。

 昼のミーティングのあとにもレベリングを行って、いま俺はLV27。

 敵チームは平均LV50以上で、かなり格差があるが……。

 このボンバーが収まる前に、射線上の敵を一掃してやるううぅ…………うおおぉおおぉおおーっ!


 ──ギュウウゥウウゥン…………ドゥウウゥンッ!


 重力の波動が、次第に未来さんの右手へと収縮…………。

 それが消えると同時に、敵リーダーがライフ切れで消失……戦線離脱ロスト

 射線上にはまだ、敵が二人残る。


「くそっ! やっぱ三人串刺しは無理だったか!」


「いや桂馬クン、リーダーを討ち取ったのは大金星だ。これで敵のボンバーを封じた。未来が動く前に、きみがリーダーへ撃ち込んだ分が生きた」


「な……なるほどぉ」


「射線上にいた残り二人も、ライフはもうギリギリ。これで彼らの判定勝ちは消えた。ゆえに一か八かの総攻撃を仕掛けてくるだろうが、冷静にライフが少ない敵から撃ち抜いていこう」


「……了解っ!」


 癒乃さんの進言通り、敵チームは全員が前へ上がってきて俺を狙う。

 そして予想されていた、も始まった────。


「おいテメェ! 女を盾にして情けなくねえのかよっ!」

「おまえなんてスキルガチャに恵まれただけのクソ雑魚だぞっ!」

「悔しかったら前へ出て撃ち合ってみろやっ!」


 ……無視。

 というか、それはそう。

 女の子たちを盾にして、実際情けない。

 だから強くなろうと心に決めてる。

 スキルガチャに恵まれただけの雑魚、それも事実。

 だから少しでも早く大魚になるために頑張る。

 前へ出て撃ち合ってみろ……。

 バリア持ちで固まって、判定勝ち拾う連中がそれ言うかぁ?

 だから悔しさなんて一ミリもない。

 俺は、いまの俺にできることを完遂するのみ!

 そんな俺の貫通弾を食らえっ!


 ──ドゥウウゥンッ!


 よしっ、追加で一人退治!

 もう一人のライフギリギリ野郎も、続けて…………えっ!?


「ハアアァーッ! 男のくせに群れて守りに徹して、恥ずかしくありませんのッ!?」


 最前線まで飛び出しているアオサさんが、まだまだライフ十分な敵のバリアへ、積極的に光弾を撃ち込みまくっている──。

 掲げた両掌から多量に広がる光弾が、バリアの耐久力を見る見る削いでいく。

 バリアの色が、青、水色、黄色、白…………そして透明、消失。

 バリアを失った敵へ、アオサさん、そして横から飛び出してきた未来さんが集中砲火────からの、速やかな討ち取り。


 ──ドゥウウゥンッ!


「アオサ、無茶しないでっ!」


「フンッ! 貫通スキルなどなくとも、バリア戦法恐るるにあたわずッ! それを証明しているにすぎませんッ!」


 センターラインに張りついたままのアオサさんが、次なる標的を捉える。

 残り二人となった相手チームは完全に意気消沈し、一矢報いてやろうと俺を狙ってくるのみ。

 敵弾を左右の大きな動きでかわす俺へ、まだ前衛になってくれている癒乃さんが、状況の説明──。


「……アオサの固有スキルである拡散弾ワイドショットは、片手八連装、両手で十六連装。それが三連発。広範囲に有効なスキルだが、ああやって間合いを詰めて撃ち込めば、十六発の弾を切れ目なく叩き込める。これが至極強力──」


「へええぇ……」


「きみが入る前にうちを抜けた千里は、バリアスキル持ち。千里が盾になってアオサが特攻するというコンビネーションだったから、アオサの落胆、傷心は深い。いまはバリアスキル持ちを見るのもイヤなのだろうし、きみを認めたくもないのだろう」


「……うん」


「なに、それは遠からず解決するさ。アオサは自尊心は強いが、性格はまっすぐだ。きみに邪な思いさえなければ、きっと認めてくれる。桂馬クンに気をつけてほしいのは……千里からの接触だな」


「……うちを抜けた人が、俺に接触してくるの?」


「もうすでに、目をつけられている」


 癒乃さんが首を振り、高い鼻の先端で観客席を指す。

 いつの間にか観客席には、かなりの観戦者がひしめいており……。

 癒乃さんの視線の先に、前髪ぱっつん、愛嬌ある丸眼鏡の女の子が座っている。

 朝のミーティングでプロフィールを目にした、月出里千里。

 俺が加入する前の「KNIGHT MARE」にいたという女の子──。


「わっ……!? いつの間にか観客がたくさんっ!」


「自分たちのランキング戦を終えた者たちが、きみの視察に来ているのさ。そしてこの五対二の戦況を見て、皆が思うだろう。曽根桂馬は要警戒。もしくは、チームに馴染まないうちに要引き抜き……とね」


 ──ドゥウウゥンッ!


 俺が狙い撃っていたライフギリギリの相手が、耐え切れずロスト。


 ──ドゥウウゥンッ!


 一呼吸を置いて、バリアを強引に剥がされた相手が、アオサさん、未来さん、誉さんの一斉射を受けてロスト────。


 ──ビイイィイイィイイッ!


 戦闘終了のホイッスル。

 センターライン上に俺たちへ向けて、大きな「VICTORY!」の文字が浮かぶ。

 俺の初めてのランキング戦は……チームメンバーだれ一人欠けることなく勝利。

 残り時間は一分以上……体感十分は戦ってた気がする。

 それだけ対人戦は、バトルと緊張の密度が高いってことか……。


 ──ワアアァ……パチパチパチパチ……!


 観客席から、申し訳程度の歓声と拍手。

 賞賛ではなく、俺のレアスキルへの「ハイハイすごいすごい」的なニュアンス。

 その中で件の千里さんは、満面の笑顔と大きな挙動で、俺たちへ……いや、視線から見て恐らく俺個人へと、拍手を送っている────。


「……桂馬クン。もし千里からフレンド申請などの接触があっても、できれば無視してほしい。きみの交友関係に、口出ししたくはないが……。彼女には抗いがたい小悪魔的な魅力があり、はすぐに取り込まれる。特にきみは、オタサーの姫タイプに入れ上げそうだから、あえて苦言を呈しておきたい」


「そ、そう……。でも大丈夫。俺には────」


「……フフッ、そうだったな。きみはあの、イマリの彼氏だったな。同じ女のアタシから見ても、彼女の美貌は別格……。杞憂だったか、失礼」


 う…………。

 俺はいま、言葉に詰まった。

 癒乃さんが食い気味で反応してくれたから、助かったけれど……。

 もしかすると俺は、「このチームが」あるいは「癒乃さんが」……と、言うところだったのかもしれない────。

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