第020話 ミクちゃんズ

「……誉サン? 見知らぬ男を、勝手にチームメイト扱いしないでくださる? それともあなたが嫌いな多数決で、わたくしを黙らせる気ですの?」


「違うよ、アオサちゃん。アオサちゃんはいま、チーム名を論拠に反対してる」


「それが……なにか?」


MAREメアは牝馬だけれど、MAREマーレだと海。これは、海藻の石蓴アオサにちなんだダブルミーニング。未来ちゃんの姓にあるうまやと、アオサちゃんの姓に掛けて、癒乃ちゃんが提案したもの」


 誉さんが後ろ手で、俺へと向けて宙で「MAREメア:牝馬」「MAREマーレ:海」と字を書きながら、続ける──。


「……なのにアオサちゃんは、牝馬の要素だけ強調して未来ちゃんを責めてる。これは不公平。ズルっこ」


「ぐ……」


「そしてNIGHTナイト……夜要素は、木菟ずくの誉と、離脱済みのセンリちゃん……月出里すだちせんの姓から来てる。それを癒乃ちゃんが『ナイトメアだと淫魔だ』って物言いつけて、『KNIGHT MAREナイト・メア』……姫騎馬隊って、オシャレに仕上げてくれた」


 「木菟ずく=ミミズク」……。

 「月出里すだちせん」……。

 後ろ手で俺へとルビつきで難読名字を書きながら、前方にいるアオサさんを理屈で諫め、沈んでいる未来さんを温和な雰囲気で励ましてる……。

 この子……誉さん……。

 子どもっぽく見えるけれど、配慮と冷静さに満ちた大人メンタルだっ!


「姓に月を持つ千里ちゃんが抜けたあと、桂馬ちゃんが入ってきた。カツラは月に生えるという伝承がある樹。ネーミング的には桂馬ちゃん、うちと相性がいいと思うよ?」


「姫騎馬隊に男がいるのは、不自然ではなくて?」


「そこはほら、姫を護る王子様…………じゃなくって、近衛兵ロイヤルガードやガードマン、的な? ま、解釈は人次第ってことだよ、アオサちゃん」


 ……なぜ、王子様言い直したし。

 なぜ俺をチラ見してから言い直したし。


「で……ですがッ! 未来が千里をキックしたのは、まぎれもない事実ッ! ほら見なさいな! 千里のプロフィールには、チームを追放されたレッテル……キックマークが表示されていますわッ!」


 ──フォンッ♪


 アオサさんがスクリーンを宙に展開。

 愛嬌ある丸眼鏡をかけた前髪ぱっつん女子が映るそこには、月出里千里の名前と、ブーツの形をした黄色いアイコンが見える。

 「キックマークはチームを追放された証で一定期間つく。一般的にマナーが悪いユーザーのレッテル」……と、誉さんが俺へのフォローの説明書き。


「千里ちゃんがそういう計算高い子だって、アオサちゃんもわかってるんでしょ?」


「……どういう意味かしら?」


「キックマークは害悪ユーザーのレッテルだけれど、かわいい女の子がつけてる場合だと、『かわいそうだね、酷いチームだったんだね』って、男が群がってくるって。千里ちゃんがリーダーに自分のキックを要求するの、十分ありえるって」


「…………」


「バリア持ちの千里ちゃん、一進一退続いてたうちのチームに不満持ってたもんね。バリア戦法のチームへ、移りたがってたもんね」


「……………………」


「これ以上はやめとくけど、未来ちゃんに八つ当たりするのはもう終わり。それに、女所帯へ男の子入れたくないっていうホマレちゃんの気持ち、誉もとってもわかる。癒乃ちゃんも、そして……スカウトした未来ちゃん本人も、そうなんじゃないかな? だけどもう、そうも言ってられない戦況でしょ?」


「…………フン」


 先ほどから静観を決め込んでいた癒乃さんが、無言でこくこくと頷き。

 未来さんはそっと俺へとポニテを向けて、隠すように頭を下げる。

 そっか……そうだよな。

 女の子ばかりのところへ野郎が転がり込んだら、一悶着あって当然……だ。


「……そこで、誉に折衷案があるんだけど。リーダーのキック権解除まで、きょうも含めてあと四日間。それまで桂馬ちゃんは、チームメイト見習い。そのお試し期間中に、アオサちゃんが桂馬くんを認めたら正式加入。ノーなら未来ちゃんキック炸裂ってことで! どうかな、?」


「「……………………」」


 またも癒乃さんが、瞳を伏せてこくこくと頷き。

 が複雑な表情を浮かべて、顔を見合わせる────。

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