第019話 石蓴と誉

 午前九時のミーティングルーム。

 俺を含めて四人のチームメンバーが、お揃いのチーム制服に袖を通して集った。

 きのう未来さんが戦闘時に着てた衣装が、メンバー各々の体型や個性に合わせてアレンジされてる。

 俺は革ジャンにデニムっぽいジーンズ、底がやたら厚いスニーカー……といういで立ちだけれど、見た目に反して上下ともに服はしなやかで手足の曲げ伸ばしが利き、動きやすく軽やか。

 しかしいまここには、そんな軽快さと真逆の空気が満ちている──。


 ──むっすううぅううぅううぅ!


 ……という音が響き渡ってそうな、重苦しい雰囲気のミーティングルーム。

 そしてその雰囲気を醸してる長身の子は、石蓴あおさ美紅みく

 チーム内で未来みくさんと名前が被ってしまったため、遠慮して姓を名乗ってる優しい女性……という俺の予想とは裏腹に、不機嫌オーラ全開中。

 黒いスキニーパンツに覆われた長い脚を重ねてイスに座り、上半身をこれ見よがしに俺から背けている。

 見えてる横顔は、目はキツく半閉じで、合わせた唇を口内へ巻き込んでる。

 背中に垂れる緑がかった黒髪は、背骨を一回り太くしたかのようなボリュームある三つ編み。

 うなじから腰まで連なる大きな結びめは……ちょっと注連しめなわっぽい。

 そして自分の膝頭で、ひたすら指をトントントントン……。

 あの穏やかな笑みのプロフ画像と、イメージ全然違う……。

 その向かいに座ってる癒乃さんの態度は昨日どおりのクールビューティーだけれど、未来さんはアオサさんのわきに立って、作り笑いでおろおろ。


「ア……アオサさぁ……。せっかく新人くんの紹介の場なんだし、ちょっとは態度、考えようよ……。アハハハ……」


「……新人? どこに新人がいらっしゃいますの? わたくし、男性を加入させることに同意した覚えはありませんが?」


「んもぉ~。だからさっきから言ってるじゃない。貫通スキル持ってるご新規さん見つけたら、わたしの独断で勧誘するって取り決めてたって。そこに男子か女子かの条件は、なかったって!」


「こちらも先ほどから言っています。MAREメアは牝馬。女性限定のチームであるべきことは、言うまでもなく。まったく、独裁者ムーブもいいかげんにしてくださいな」


 く……口悪っ!

 プロフの印象と完っ全に逆っ!

 いやまあ、俺の予想が大ハズレなだけ……ではあるんだけど。


「だから『独裁者』はやめてってば! センリが出ていったのは、あの子自身の判断! キックで辞めさせてほしいって頼んできたのも、彼女!」


「キックマークを欲しがるユーザーなど、いるわけないでしょう? ふぅ……独裁者が仕切っている泥船、沈む前に抜けようかしら? キック権が回復する前に、己の意思で……ねぇ?」


「も、もう……ホントやめてよぉ。独裁者って呼ぶの……」


 センリ……初耳の名前だ。

 話の流れ的に、俺が入る前にいたメンバーの……女子?

 キックは……リーダー権限で追放したって……こと?

 いずれにしても、不穏な空気……。

 未来さんの凛々しい眉毛がひそまって、メッセージ動画で素肌を披露していた両肩が、小刻みに震えてる……。

 俺が未来さんへ、助け舟を出すべき……だろうか?


 ──フォンッ♪


「……よっと! 誉、出席だよっ! ちょい遅刻ごめんなさいっ!」


 ……俺を含めて四人いる場へ、新たに一人の女の子が、ふわっと宙から舞い降りるような挙動でフェードイン。

 末広がりのミニスカートをふわっとはためかせ、黒のニーソックスをすらりと伸ばし、健康的な肌色の太腿をチラ見せ。

 小柄な体つきながら、小顔と細身で頭身は高い印象。

 飴色の髪は、前髪を眉で並べ、後ろ髪は外巻きカール。

 そして頭部の左右へぴょんと跳ねた、短めのツインテール。

 くりくりとした大きな瞳……。

 彼女は……木菟ずくほまれさん、か。

 これで一応、お揃いの衣装にてチームメンバー全員集合。

 なのは、俺が追い出されそうな雰囲気だから……。

 ……って、誉さん、こっちにまっすぐ向かってくる。


「……はじめまして、木菟誉です。よろしくね、桂馬ちゃん」


「あ、どうも……。曽根桂馬です」


 ……


「桂馬ちゃん? 初対面の相手に挨拶するときは、座ったままはダメ。はい、立ってやり直し!」


「えっ……? あ、ご……ごめん。はじめまして、曽根桂馬……です」


 こちらが立つとつむじが見えそうな小柄な子が、人差し指を立てて険しい表情。

 その険しい顔を、立つ俺の顔に追尾させながら上げてくる。


「ごめんじゃなくってすみません、であるべきだけど……ま、いっか」


 ほんの一瞬、見るからに柔らかそうな頬を、ぷくっと丸く膨らませ──。

 それをしぼめたあとで、すぐさまニカっと白い歯を見せてダブルピースを掲げた。


「ようこそ桂馬ちゃん、誉たちのチームへっ!」

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