第017話 RAYED-X(レイドックス)

 ──ピッ!


 例によって、壁のモニターを起動。


「はいはーい、ユウですっ! なんのご用でしょ?」


「……この世界のこと、いろいろ勉強しようと思って。うん」


「ほほ~、それは殊勝な心掛けですねぇ。ちなデスクワークでしたら、空中スクリーンとこのモニターの併用で、イスに腰掛けてがお勧めですよぉ」


「へえ……じゃあ」


 壁の大型モニターの前へキャスター付きイスを連れてきて、着席。

 ユウの手際か、俺のちょうど手元にノート大の空中スクリーンが表示。

 タッチパネル感覚で操作しながら、大きな画像は壁のモニターで見る、と──。


「さてさて。そ~れではセクシーダイナマイト美人教師なユウ先生と、ドキドキわくわくマンツーマン授業、始めましょうか~?」


「……独学するからいいよ。わからないことあったら呼ぶからさ」


「ううっ……。ユウってばぁ、気が向いたときにだけ呼ばれる、都合のいい女なんですかぁ?」


「ユウの存在意義を考えたら、まさしくそのとおりだと思うけど……。じゃあせっかくだから、一つ質問」


「あっ、はいはいー。どぞー!」


「この世界、クエスト出撃と対人戦が義務付けられてるって聞いたんだけど?」


「さいですー! 一日最低六時間のクエスト出撃と、一回のランキング戦消化が義務付けられておりますー。クエストはNPCの敵を倒して経験値を獲得し、より高難度のステージへと進んでいくモード。一つのエリアが10のステージで構成されていて、現在4-5ヨンゴーまで実装されてます」


「六時間か……けっこうあるな」


「そうですか? 学校と変わらないと思うんですけど? それにあくまで最低ですから、一日十二時間レベリングに励んでる人もいますよー?」


「学校プラス塾、もしくは部活や自主練……ってとこか。サボったら?」


「サボれないです。翌午前零時から逆算して、六時間消化できるよう強制転送されますから。例えば、朝からまったく出撃してない悪い子は、午後六時に開放済みの最新クエストへ強制的に放り込まれまーすっ!」


「怖……。毎日計画的にこなしていけ……ってことか」


「ですです。ちなみにチームでの出撃、ソロ出撃で、消化時間は共有です。仲間と楽しく過ごせるチーム戦のほうが、ユウとしてはお勧めですよ~」


 ……俺的にも、女の子たちと一緒のほうがいいかな。

 それがイマリさんなら、なおよかったんだけれど。


「次に対人戦ですがー。これも一日一回消化していただきます。毎日午後二時、自チームの順位よりチョイ前後の相手チームがランダムに選出されての、三分間一本勝負の試合ですです」


「あ、それはリプレイで見たよ。一分も経たずに終わった試合だけれど」


「対人戦で勝利するとご褒美ありますし、ランキング上位ほどそれが豪華になっていきますので、ぜひぜひ頑張ってくださいー!」


「褒賞のログアウト権については……詳しく話してくれないんだよね?」


「はい、外の世界はユウの管轄外です。なお、ログアウト権は首位戦の褒賞ですね」


 首位戦……。

 イマリさんが待つ王座への挑戦……か。


「首位戦は毎週日曜日に行われてまして、当日午前零時時点での二位のチームへ、現首位チームへの挑戦権が与えられます」


「つまり……ランク首位のチームは、一週間順位の変動がないんだ?」


「ですねー。週一開催は、首位褒賞にプレミアム感を出すためじゃないですか? 知らないですけど」


「ふーん……。ランキング戦は、チーム加入必須?」


「というか、レイドックスはチーム戦前提のゲームですので。一人でもチーム扱いなんですよ。桂馬さんはレイドックスへ参加してからすぐ他チームへ加入しましたけどぉ、参加時点ではぼっちのチームでした」


 ……なるほど。

 癒乃さんが、イマリさんは一人で初代王者に輝いた……って言ってたけど、そういうことか……。

 じゃあ……。


「じゃあ、ソシャゲのレイド戦……共闘みたいなモードはないの? ゲーム名もレイドックスだしさ」


「あーっと、まさかその誤解を、いまだお持ちとは! レイドックスのレイドは、RAIDアールエーアイディーのレイドではございませんっ!」


「えっ、違うの?」


「綴りはこちらですっ! どぞっ!」


 通販番組で電話番号のテロップを指さす司会者のようなそぶりで、ユウがモニター下部へ両手の人差し指を向けた。

 その先に「RAYED-Xレイドックス」の綴りとルビが表示──。


「レイド……エックス……。レイドックス……か」


「RAYEDは光線照射。Xは未知。言わば『光線と弾丸を組み合わせた、まったく新しいシューティングバトル』でしょうか? ちな『エックスRAYEDレイド』ですと、エックス線検査の過去形。この小ネタ、ほかのユウたちもたぶん使ってますから、物知りぶって披露すると恥かきますよ~?」


「言うつもりないし……」


「レイドックスのロゴは、チュートリアルの最中にシャキーンって感じで大々的に表示されるんですけど~。ほらだれかさん、チュートリアルを飛ば────」


「はいはい、わかったわかった。ここからは独学するよ。ありがとう」


「どどいたしましてー! ではではユウは、ひとっ風呂浴びてきまーすっ!」


「風呂にも入ってるんだ……」


「あー、その顔! ユウが全身しっぽり温まったところを見計らって、呼びだす気ですねー?」


「……ないない。長風呂でもカラスの行水でも、お好きなように」


「了解ですっ! ではまた、のちほどー! キャハッ!」


 ──フォンッ!


 モニターからユウが消え、未来さんに見せてもらったメニュー画面へ変遷。

 ……おおう、ユウのアイコンから湯気が立ってる。

 作り込み無駄に細かい……。

 ……それはさておき、なにから調べよう。

 いままで一緒だったイマリさんを即調べるのは、なんかストーカーっぽいし……。

 未来さんのチーム……マイチームの情報でも漁るか。

 会ってないチームメイトも二人いるしな。

 こういうの前もって調べておかないと、未来さん……。


『どうして自分のチームのこと、前もって把握しておかないのっ! 説明の手間増えちゃうじゃない! もぉ!』


 ……って言いそうなんだよなぁ。

 癒乃さんも理路整然とした委員長タイプだから、一言ありそう。

 かと言って、チームメイトの情報がっつり記憶していったら未来さん……。


『そんな情報まで調べてきたの? ったく、やらしいわねぇ! 必要最低限な情報だけ得て、あとは流し見しなさいよっ!』


 ……って言いながら、ポニテ振り回して顔を背けそう。

 どっちにせよなにか言われるなら……調べておくべきだな、まあ。

 チーム名検索……えーっと、確か……。

 KNIGHT MAREナイト・メア……。

 ナイトは騎士のナイト……っと


 ──フォンッ!


 おおっ、出た出た。

 未来さんとお揃いの衣装に身を包んだ、チームメンバー五人。

 その顔写真が横一列にずらっ。

 ぷっ……だれだよこの、美少女の中に混じってる不愛想なぶっさい男は!

 ……………………俺だな。

 ……やべぇなこのチーム情報の絵ヅラ。

 美少女たちに捕獲された珍獣……って感じだ。

 イマリさん、こんな珍獣とキス以上のことしてくれるつもりだったのか……。

 これは絶対に、チームメイトの子にうつつを抜かしてはいけない。

 イマリさんに絶対の忠誠を誓わないと。

 ……とは言え未対面の子二人も、かなりのハイレベル。

 短めのツインテの、真ん丸な瞳の女の子、木菟ずくほまれ────。


 ──ピッ!


 おお、顔写真をタップすると全身像と各種データが。

 顔の印象どおりの小柄。

 身長の記載はないみたいだけど、140センチ台前半……くらいかな。

 まあ、なんでもかんでも載せてたら人権侵害だし。

 俺だってイマリさんの情報、あれやこれや載せてほしくないし。

 んでこのロリ系な誉さんは、チームのマスコット的な存在かな?

 固有スキルは跳躍弾バウンドショット……。

 光弾が……地面を跳ねて回る?


 ──ピッ!


 もう一人の未見メンバーは……石蓴あおさ美紅みく

 前髪を真ん中から分けた、面長のちょっと大人びた印象の人……。

 背も170近くありそう。

 穏やかそうに目を細めた、優しげな笑みの子。

 このプロフ写真、俺は撮られた記憶ないから、きっとレイドックス運営側がデータから起こした標準的な表情なんだろう。

 それでこの穏やかな笑みってことは、きっとチームのお姉さんポジだな、うん。

 固有スキルは拡散弾ワイドショット……。

 ……………………。

 ……あれっ?

 未来さん彼女のこと、って名字で呼んでたような……。

 …………あっ!

 未来みく美紅みくで名前被りっ!

 だからこっちの美紅さんは、遠慮して自分を姓で呼ばせているんだ。

 これはますます、面倒見のいいお姉さんタイプな気がしてきたぞー。

 とりあえずは、いい雰囲気のチームっぽくて安心だ。

 さーて、この世界にはほかに、どんな連中がいるのやら……っと。

 敵情視察開始だ。

 しかし、これ……。

 かわいい子リストとか作ってる奴、絶対いるんだろうな────。

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