現れたのはハンコ家族

 待ち合わせ場所は、良く言えばレトロな感じの小さな喫茶店でした。

 昔懐かし、昭和の雰囲気が漂う店内を見回すと、ひときわ目を引く一角に目が留まりました。


 舞台のように数段高くなったそのスペース。そこに、一組のテーブル席が設けてありました。その舞台袖 (?) には落語の演目でよく見る『めくり台』(ペラペラめくるやつ) のようなモノが立っていて、墨文字で大きく『予約席』と書かれています。


 カラオケBOXのお立ち台のように一段、……いいえ、二段ほど周囲より高くなっているそのテーブル席。

 ただでさえ人目を引く場所だというのに『めくり台』までセッティングされていますから、『今からショーが始まります!』といった感じにしか見えません。


 一般席 (?) の方たちも、こちらをチラチラと見ておられます。

 どうやら店内の皆さま、ここでお見合いが行われることをご存知の様子です。


 うわっ! これ、さらし者やん!


 お相手の方は、まだ、お見えになっていないようです。

 仕方がないので、私たち家族は、ステージのようなそのテーブル席で、店内の皆にチラチラ見られつつ、お相手の方がお見えになるのを待ちました。


 程なくして、お相手の仲人さんとご家族の方が喫茶店へと入ってこられました。


 私たち家族はその場で立ち上がると、お相手のご家族に会釈をします。

 向こうのご家族も穏やか笑顔で会釈を返してくださいます。

 その流れに乗って、仲人さんから軽く紹介を受けると、和やかな感じで話は進み始めました。


 私は、にこやかな笑顔の裏で、お相手のご家族を見つめながら考えます。


 いや、この家族、マトリョーシカみたいやん……、と。


 そうです。マトリョーシカとは、体の中に一回り小さな人形が入れ子になっている、あの人形のことです。

 相手のご家族は、その人形を並べたかのように、一定の身長差でもって私の目の前に並んでおられます。


 ……小っさくて、なんか可愛いなぁ。


 それが相手のご家族に対する私の第一印象でした。


 お義父さんもお義母さんも私の顎くらいの身長です。いえ、お義母さんの方がお義父さんよりもほんの少し高いですね。何故なら、お義父さんの靴底は、少なくとも3〜4㎝くらいありそうですから。

 それで、肝心のお相手の方は、私の眉くらいの身長です。


 アレ? 釣書には165㎝って書いてあったのに……?


 おやっ?と思いましたが、この際、それはどうでもいいかな、と思い直しました。


 というか、私的にはそれくらいの身長差の方が良いです。

 あまり大柄な方だとちょっと怖いですからね。こう見えて私、豆腐メンタルなもので。


 そうこうしているうちに『それでは後は若いお二人で……』という『仲人の決め台詞』に追い立てられて、私たちは喫茶店を後にしました。


 お相手の『花京院 潔子』こと『キヨっちゃん』に、『行ってみたいところがあるからついてきて欲しい』と言われ、私はに乗り込みました。


 そして、車は蛇行する険しい山道を直走ひたはしります。

 キヨっちゃんは、眼前に迫った急カーブを物ともせず、スピードを落とすことなく滑らかに曲がり、私に巧みなハンドル捌きを見せつけます。


 曲がりくねった山道を一時間半ほど走ったところで、私は言いました。


「ちょっと、止めてください…………気持ち悪いです。車に酔ってしまいました……」

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