第11話

 こども食堂の開催も数を重ね、空気がだんだんと冷たくなってきたある秋の日。


 僕はその夜、かなり遅い時間まで教室に残っていた。

 作っていたのはNGSのエネミーのグラフィックを印刷した紙に、数字を書き込んだもの。


 5000とか10000とか。

 大きめのボスエネミーは10万とかだ。


 さて。

 僕のちょっとした悪企み。

 うまく行きますかどうか。


 そして翌日。



「さあ、今日の授業の終わりにモンスターハンティングをやってみよう」

 僕はもったいぶった感じで生徒たちに言った。


 そう言ってみんなにエネミーを印刷した紙を渡す。


「何これ?」

「何のゲーム?」

「あ、ドールズだ」


 あ、ヤベ。

 NGS知ってる子がいる。


 ちょっとビビったけど、何もなかったかのように話を続ける。


「タブレットの計算ドリルを立ち上げて。そして制限時間は五分だ。ドリルの合計点数がエネミーのヒットポイントを上回ったら倒せる。何体倒せるかはみんな次第。倒した数だけアイテムドロップがあるぞ」

「アイテムドロップ?」

「くじ引きだ」

 そう言って、僕はペットボトルと割りばしで作ったくじを見せる。


 いきなりアナログだけど、勘弁してほしい。


「じゃあ、始めるぞ。レディーゴー!」

 そう言って、スタートさせる。

 みんな、初めてなので、戸惑いつつスタート。

 横で見ながら、ドリルの結果の点数をエネミーカードに書き込んでいく。


「はい、一体目撃破ー!」

 そう叫んだのはアルバイトの高崎くん。

 このアイデアを一番面白がってくれた。

 ゲームと子どもが好きで、将来の目標は保育士。

 男性には厳しい進路だそうだけど、本人なりにがんばっている。


 そして、その叫び声で、みんなが少しアクセルを踏みはじめた。


 結果、5人でやって撃破できたのは平均で三体ぐらい。

 ということで撃破数に合わせてくじ引き。


 そして、一人だけ赤い当たりを引いた。

 西田さやか。

 

「おー! レアドロップだぜ!」

「え? 当たり?」

「当たり!」

 そう言って、一口サイズのチョコレートを一個手渡す。

「えー、賞品ショボ!」

「じゃあ、いらないか?」

「いや、いるいる!」


 女の子なんだけど、口調は完全に男の子。

 お父さんがかなりのゲームマニアで、結構悪い言葉も教えてしまっている。

 成績にムラがあってすぐにサボるタイプだけど、ゲーム好きなこともあって、。

 このやり方が、うまくハマっている気がする。


「さて、ルールもわかったところで二回目行こうか」

「よーし!」

「やるぜー」


 みんなが手を上げた。


 ゲーム式学習法。

 僕の思いつきというより、webで紹介されている内容をアレンジしたのだけど、割とうまく行った。


 特にゲーム好きで勉強嫌いの何人か。

 エネミーのヒットポイントを上げて、レイド戦をやった時は、思った以上に盛り上がった。


 指導のポイントは早く、正確に解くくせをつけること。

 大体、勉強の計算や暗記を嫌う子どもは多い。

 まあ、僕も嫌いだった。


 だけど、そこはあくまでも基礎なのだ。

 問題、課題を解く際に用語を知らなかったり、計算できないからつまづくなんていうのが、一番もったいない勉強だ。


 いかに思考させるか。

 思考で解決するのではない部分は、できるだけ手をつけない。


 そこがポイント。


 そして、うちの教室の全体平均の成績はそれなりに上がった。

 ちょっと面白くなってきた、と模試に挑戦してくれる子も増えた。


 いや、もちろん模試の点数でレイド戦を開催したのだけど。


 まあ、学習を愉しむこと。

 そして、愉しむことのリターンをどうやって得ていくのか。

 ゲーム式学習法も、こればかりやっていても意味はない。

 この、基礎を使って、何をしていくか、だ。


 まあ、塾の役目は、そこを鍛えることで、その先は学校の役目って言ってもいいんだけどね。



 そんなことを考えていると、いきなりRINE WORKSの音声通話。


 小林係長。


「はい。時任です」

「おつかれさま。時任君、調子いいじゃないか」

「いや、ちょっと試したことが、ハマる子がいまして」

 そんな感じで、今やっていることを軽く説明。


 もちろん、遊んでいると思われないように、全体的な意欲向上の話も加える。


「ふむ。私では思いつかないようなやり方だね。でも、やはり今どきの子にはハマるんだね」

「ですね。みんなにハマるわけでもないでしょうし、もう少しやり方は洗練させないとですね」

「そうだな。今度の会議あたりで、他の教室でも試せないか考えてみよう」

「ありがとうございます」


 ふむ。認められるって、ちょっと楽しいかもしれない。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る