第5話

 社会福祉協議会。

 社会福祉協議会とは、民間の社会福祉活動を推進することを目的とした、営利を目的としない民間組織のことだ。  


 それぞれの都道府県、市区町村で、地域に暮らす皆様のほか、民生委員・児童委員、社会福祉施設・社会福祉法人等の社会福祉関係者、保健・医療・教育など関係機関の参加・協力のもと、地域の人びとが住み慣れたまちで安心して生活することのできる「福祉のまちづくり」の実現をめざしたさまざまな活動をおこなっている団体だ。


 と、全国社会福祉協議会のウェブサイトに書いてある。


 まあ、ボランティアやるなら、ここを通しておけば間違いないという理解で十分だ。

 ボランティアなので、それこそ勝手にやってもかまわない。

 だけど、それでは発展性も何もない。

 僕たちがやろうとしているのが「人助け」だからだ。


 姉さんが考えているこども食堂は月に一回。

 すなわち、食べることに困っていたとしても、こども食堂で月に一度だけ、ごはんを食べられる程度の救いにすぎない。


 だが、そこを通じて、他の支援機関に繋がるというなら話は別だ。


 入り口として機能するなら、その活動には大きな意味がある。


 たけど。


「ご姉弟で始められるんですね」

 目の前に座っているのは、社会福祉協議会の森さんという女性。

 どこか懐疑的な視線を感じる。

 まあ、そうか、ぽっと出の若い二人が急にやってきてこども食堂始めるなんて言われてもねえ。

「食材はどうされます? 助成金とか申請しますか?」

「まずは、自分たちで。寄付をいろいろいただく予定です」

「寄付……ですか?」

「くらたミートという食肉卸の会社さんやB型の就労支援事業所で農地をやられているところとかから提供いただくことが決まっています」

「そうですか。ちょっと覚えておいてほしいことがありまして、『食堂』という立ち位置上、きちんと『その場でつくる』を基本としてほしいのです。食中毒の発生の場合、現場特定のためにも、そこで調理という行程を踏むことが基本です」

「はい。わかりました」

「食中毒を恐れて、食器はすべて使い捨て容器で、洗わないと決めるところもあれば、家庭の味を目指して、陶器の食器を置くところもあります。100食以上のところだと、ほぼテイクアウトのみのところも。お二人はどんなポリシーで運営する予定ですか?」

「ポリシー、ですか」

 姉さんは、ちょっとだけ天を仰いだ。

「あえて、ポリシーというなら『温かいこと』ですかね。カレーでも豚汁でも。そこを外さないようにしたいな、と。だから食器は使い捨てでも何でもいいかな、と」


「温かいこと、ですか」

「はい。私たちが、これをはじめるのは『笑ってほしいから』です。ひとり親だろうが何だろうが関係ありません。子どもたちにはごはん食べることで笑ってほしいと思っています。冷たいごはんが悪いと言っているわけではありません。でも、温かいごはんを食べ、笑って食べる機会を提供してあげたい。こども食堂もファミレスも何も変わらない外食です。特別な食事の機会です。楽しい食事の機会です。そんな体験を与えてあげたい、ただ、それだけですよ。」

「わかりました。あとは保健所でも相談してくださいね。衛生面は本当に大切なので」


 その後、ボランティア保険のあれこれをレクチャーしてもらって、打ち合わせは終わった。


「じゃ、僕は行くよ」

「うん、今日はありがとう。これからしばらくよろしくね」


 そう言った姉さんは、どことなく嬉しそうだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る