第2話 違い

「っしゃぁ!今日もなかなか調子が良いぜ。綺麗に決まっていただろ?」

「あぁ、そうだな…。」

隣でGE2のハンドルを握り、これでもかとドラテクを決めていくM。実際Mのドラテクはなかなかの腕であり、かなりタイムも早いのに、同乗している俺は全く酔わない。だが、安全と安心は別だ。目の前にとんでもない速度で迫るガードレール。ノーマル車だから嫌でも出てしまうロール。シフトチェンジ時に出るエンジンの唸り…。これを感じて安心して見を預けられるわけがない。俺は無意識にルーフ裏辺りにある手すりを掴んでいた。

「あっはは!なんだよお前~。なぁにそんなビビってんだよ、相変わらずだなぁ?!」

「こんな運転をぬけぬけとできるお前がおかしいんだっつーの!」

自分でも情けないと分かる悲痛な声を上げながらドライブ(?)は20分ほど続き、気づけば俺らは隣町のコンビニに着いていた。



下りようぜ、なんか買おうとMに言われ車を降りる。俺らがコンビニに入ると入れ替わりに仕事帰りのサラリーマン風男性が、おでんを食べながら出てくる。ああ、もうそんな季節か。

「体調大丈夫か?酔っちまってないか?」

「そこんとこは大丈夫…。」

そうか良かった、と言いながらサンドイッチやら缶コーヒーやらをぽいぽいカゴに入れていくM。…もうすぐ夕飯の時間だぞ、何考えてんだこいつは。

「お前…晩飯は…。」

「大丈夫大丈夫~!俺が晩飯作るんだからその辺の分量調整はするからな!あ、お前はなんか食べるか?」

んじゃこれ、といちごサンドをカゴに入れるとMはレジに向かう。あとビッグフランクも~と店員に注文する彼を尻目に、先に店を出て煙草に火をつけた。

Mとの同棲の始まりは夢みたいで、唐突だった。ぶっちゃけ、いつ、どこから来て、どういう経緯で同棲が始まったか、定かでない。しかし気づけば彼は俺の生活に馴染んでいて、歪さのない存在になっていた。

「なんでい、お前はやっぱりメビウスのメンソールかい。」

気づいたらMが横でセブンスターに火をつけている。別に良いだろ、と呟くと彼はニカッと笑みを見せた。

「たまにはこーいう重いもんも吸ってみたらどうだ?」

「別にこれで良いから。てか重いもん吸ってるからカッコ良いとか思ってんなら色々考え足りてないと思うぞ。」

するとMはバツが悪そうに頭をかいた。

「まあ、そりゃそうだがな…うん、よし現実的に話そう。」

「…?別に現実的もなんも無いだろ、好きな煙草吸う事に。」

「そうだなぁ、じゃあ例えばだ。車好きなAさんとBさんがいるとしよう。Aさんは、高いスポーツカーが好きだけど月収と自分の身なりにスポーツカーは見合わないからと、安い中古のファミリー軽自動車に乗っている。」

「…ふむ?」

「Bさんも月収はAさんと同じくらいで身なりもAさんと変わりがない。でも彼は思い切ってスポーツカーを買った。」

「おう…。」

「さて、第三者から見て見た目的にはどっちがカッコ良い?」

「…そりゃなんも知らん第三者からしたらBさんだろうよ。」

「だろ?んじゃ次の問題。彼ら二人の生い立ちや月収等を知ってる二人の友人がいたら、どっちがカッコ良く見える?」

「そりゃ無理せず生きるAさんだろ。」

すると彼は指でバツを作り、ブッブーと言った。

「人間ってのはさ、無理しないで余裕ぶって生きる奴より限界に挑みながらスリルを感じながら生きる人間の方がかっこよく見えるぜ。」

そうですか、と適当に聞き流す。彼はいつも何か意味ありそうな風に色々な事を話すが大体は大したことない、阿呆みたいな事ばかりだ。

お互い煙草を吸いきって、車に乗り、Mがエンジンをかける。

「あ、そうだ。」

なんだ、と面倒くさそうに聞いてくるMに明日も仕事がある事を言う。

「…。お前、いつ部屋の掃除やるんだよ…。」

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乱れ 万事屋 霧崎静火 @yorozuyakirisaki

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