かもめ
ゆきのともしび
かもめ
友人と温浴施設に行った。
彼女がもうちょっと入りたいというので、私は外を散策して待っていることにした。
時間は18時近くで、夏の夕暮れ、歩くのにはちょうど良い気候になっていた。
ちょっと狭いけど港っぽくて、潮風もあって、遠くの方に工場が見える。
建物を出ると、そんな景色が広がる。
あと30~40分で日が落ちる。
最近空をよく見る。
空の写真ばかり撮っていると、メンヘラっぽいっていうのをどこかで聞いたことあるけれど、そんなこと言う人の方がどっか歪んでいるんじゃないの?
ついそう思ってしまう。
だって、本当に心から、美しいと思うから。
どんな機械を使ったって、どんなに絵の具を混ぜ合わせたって、本物の空気感は出せない。
いや。ただ私が自分の眼でみる空、雲、光が好きだってだけかもしれない。
奥の方に歩いていくと、欄干にかもめがたたずんでいた。
冬は真っ白だけど、今は夏だから身体の一部が黒い。
何を考えているのだろう。
神妙な顔つきで港をみていた。
静かに近づくと、飛んで行ってしまった。
海面に着水する。
顔を上げると別のところにも一羽。
高い位置から空をみている。
冬も夏も、かもめはかもめを生きている。
かもめはかもめであることを全うしている。
____人間は?
もちろん人間と思って生きているけれど、でも、何者かってこと、
何を全うすればいいのかって、わかっているのだろうか。
少なくとも、私にはわからなかった。
自分探しなんかしたって、遠い土地でみつかるはずもない。
自分は自分の中にしかいない。
でもたぶん、私が自分のことをわからなくなってしまったのは、こころの周りにこびりついた「さび」が多すぎたからだ。
人間の世界にしかない、酸化した赤黒い「さび」。
周りの大人、親から求められること。
社会からの圧力。
人間が作り上げた、黒いものたち。
そんなものが「さび」となって、3歳ぐらいから自分の周りにこびりついていく。
本当は真珠のようにきれいな「わたし」の小さな魂が、さびによって少しずつ黒く、そして大きくなっていく。
自分がわからないというのは、結局その真珠の居所がわからなくなっているだけで、丁寧に見つけて、さびさえ落としてあげれば、落ち着く気持ちいいなにかが見つかるはずなんだ。
真珠はとっくのとうに、自分のなかにあるんだ。
みんな。
誰ひとり欠けることなく。
かもめはもう、自分のことを生まれてからずっと、わかっている。
他のことには見向きもせず、かもめを生きている。
ああ。
私も君たちを見習わないといけないよ。
たまにこうやって姿をみせて、色んなことを教えておくれ。
空は夢のような、淡い黄色とピンク色のグラデーションが拡がっている。
かもめは上空を、夢なんてしらないように通り過ぎていく。
彼女はまだこない。
かもめ ゆきのともしび @yukinokodayo
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