第5話 まだまだの一歩



 ひっ、ひどい目に、遭いましたっ!


 とんでもない目に、遭ってしまいました。


 食べ物を食べるなら、せめてお皿と食器を使って下さい。


 何のために存在していると思ってるんですか。


 ご主人様の、歩く野蛮人!


 異世界に来る前の私に、教えてあげたい。


 その日外出するととんでもない目にあうからって。


 異世界でとんでもない人に拾われちゃうからって。


 むしろ、異世界転移するから、その日一日家でじっとしててって言ってあげたい。


 もう嫌ですう~。


 何で毎回毎回、あんな事できるんですか!


 ご主人様の、最低陰険ドエス性悪色欲魔人!


 毎回毎回、あんなドエスなご主人様に、口に出すのもはばかられるようなお仕置きされるのは嫌ですよっ。


 なので、お仕事に工夫する事にしました!

 なら、最初からしとけよと言う人もいるかもしれませんが、最初からは思いつかなかったんですっ!


 とにかく。


 頑張って考えて、やっとこれだけの対策をひねりだしました。


 とりあえず、モップがけする時は、バケツを蹴ってひっくり返さないように部屋の隅に置いとくか、ちょっと高い所に置いとくことにしました。


「よいしょっと」


 ほこりがのこらないように丁寧にふきふき。

 このお屋敷は広いですから、効率よく、かつ素早くやっていかないとお仕事が終わらないんですよね。


 でも、カーライル様にはご立派な身分があるので、ずさんな仕事はできません。


 糸くずとかが残らないように、目を凝らしてめっぷがけをしていきます。


「うんしょ」


 あっちをふきふき。

 こっちをふきふき。


 掃除は大変だけど。色々やっていくと、心がハレバレしますよな。

 ぴかぴかになると、気分もすっきりです。


 なんてやってたら、話しかけられました。


「あらあら今日は頑張ってるわね。チヨ」

「リア姉さん! どうですか? 工夫してみました!」


 うふうふ笑いながらやってきたリア姉さんに、「よしよし、良い子良い子」と頭をなでられます。


 ふわー、誉められましたっ!


 この調子で頑張れば、メイド長になるのも夢ではないかもしれませんっ!


 だけど、リア姉さんは「でも」と口ごもります。


「喜んでるとこ悪いけど、ここ、他の子が掃除してたわよ」

「えっ(がーん)」


 頑張ってぴっかぴかにしていたつもりが、元から掃除されていたからピカピカになりやすかった、とう事ですか?


 そ、そんなあ~。


 前言撤回。まだまだみたいです。


 その後、私はリアお姉さんに抱きしめられて、頬ずりされて慰められました。


 やわらかくて良い匂いがしましたね。

 包容力のある大人になりたいです。


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