第6話〈2〉
SNSのアカウントにDMが届いたのは、夕方を過ぎた頃だった。ひとまず
すっかり居着いてしまっている、妖狐の玉藻が興味津々に奥座敷から飛んできた。
「お、死神くんもおるやん、何かおもろい事しよるんか? ん?」
「やぁ、狐っ子。まだちっこいまんまじゃんかよ。俺は大人姿の方が好みなんだけどなぁ」
「うっさ! これは世を忍ぶ仮の姿じゃ、そないはよ霊力が回復するかいな。そもそもお前らのせいやんけ!」
今のところ小さいうちは何も害をなす事は出来ないと言い張るので、そのまま家に居座らせているけれど。変わった事といえば、いなり寿司を食べたいと要求してくるので、食卓に出る回数が異常に多い家庭になってしまったぐらいだろうか。
急ぎ開いたDMメッセージには、
『定員数が集まりました。二日後の亥の刻二十時、南門を開けておりますので堀田高校旧校舎の屋上にてお待ちしております。学校の場所は検索してください。目立たぬようお集まりくださいますよう』
とだけ明記されていた。
ひとまずそれをオカルト研究部の皆に報告すると、再び指定の日時に学校に集合する事となった。
◇
二日後当日。各々厳戒態勢で、ひとまず学校からすぐ近くのコンビニの駐車場に集まった。早くも待っていた大谷部長が、優里とクロに向かって手を振っている。
「こんばんは、決行日は意外と早かったね、夜出歩くとかご両親心配してない? あれ、その子は妹さん? 危険じゃない?」
「えーっと、夏休みだけ預かっている親戚の子で……うち親が今家空けてて一人で放っておけなくて。玉、タマコです。私以上に霊感が強いから頼りになるんですよ。ほら、挨拶は?」
玉藻も行きたいと言うので連れてきたのだけれど、大丈夫だろうか。耳は麦わら帽子、尻尾は大きめのスカートで覆い隠しているので見た目はただの小学校低学年の女児だけれど、少々挙動がおかしいのは目を瞑っておこう。
「こんばんは、部長さん」
「こんばんは、ちゃんとお姉ちゃんにくっついてお利口だね」
顔を少々引きつらせながら精一杯子どもっぽく振る舞ってみせているものの、横を向いて舌打ちすると、こそこそ文句をのたまう。
「ガキっぽいわー、きっつ。この寸足らずなスカートとか屈辱やわ…」
「今見た目は子供なんだからしょうがないでしょ、私の昔のやつそれしかなかったんだから我慢してってば」
徐々に部員の面々が集まってきた。
玉藻は、かわいいねぇと皆にちやほやされるので、それはそれでまんざらでもなさそうな様子になって機嫌を取り戻している。
一行は指定の時間より三十分前、学校敷地内の北口に向かった。
付近の金網に人一人通れる位の穴が空いている所があって、そこから入れるらしいと佐久間が事前に下調べをしていた。
そろりそろりと旧校舎に向かって早足で歩く。
大谷部長は、元々管理している旧校舎の鍵をポケットから取り出すと、装備万端とばかりに意気込んでヘルメットを被る。
「よし、中に入るとするか! 俺たちが変な事してるとか広まると益々部の存続が危うい! 現場を押さえたうえ、あわよくばとっ捕まえて警察に通報してやるぜ」
「マジ超ヤバい奴らだったら速攻で全員気絶させるね、フフ……」
一体どこから用意したのか、毛利加奈は私物だというガチのスタンガンをしっかり両手に持っている。
恰幅のいい佐久間は、記録用にいつでもスマホで録画できるようスタンバイした。
「いざとなったら体当たりでクロさんを守りますからねっ」
クロはというと、皆頼もしいねぇとのん気に構えている。
「皆、危なくなったらすぐに逃げるんだよ。俺はマジで大丈夫なんだから。優里ちゃんもだよ」
「うん……」
「よし! 皆、絶対な! じゃ、俺はいったん出て南口から入ってくるわ、どっから見られてるからわからないからさ」
じゃあね、と皆に言ったと思ったら足音も立てずに颯爽と行ってしまった。
佐久間が感心したように小声でつぶやく。
「頼りになるんだけど、ほんと何者なん? 流石に俺だったら足すくんじゃうね。不思議な人だなぁ」
◇
クロ以外は部室前の廊下で息を潜めて待つ事にした。
誰かが立ち入ると、古い校舎なので遠くからでもミシミシと歩く音が聞こえる。
真っ暗だと加奈が愚痴ったので、玉藻が自分の両手のひらを出して息を吹きかけると、ほんのりオレンジ色の小さな火の玉が出現し、ふわりと宙に浮いた。
(んげっ、玉藻〜!! 何やってんの〜バカ〜!!!)
「わぁ、綺麗やねぇ。どんな仕掛け?」
「狐火ってやつやで」
「何それ冗談が上手〜、タマコちゃんはマジックが出来るんだ。凄いねぇ」
加奈はすっかり勘違いしているが、まぁいいか。
……
……。
ミシ、
ミシ、、
ミシミシ、、、
それから少しじっとしていると、やがて足音が聞こえてきた。
その後五分間隔位で、複数回。
何人かが階段を上がっていっている気配がする。
狐火を消すと、さらに息を潜めて様子を伺った。
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