第2話〈4〉
かなり年季の入ったコンクリート製で、普段使う校舎のずっと奥の敷地に存在するのは知っていたが、用事がないので入学してから入った事がない。
「あ、あのぅ私、何かよからぬ事をしでかしたっけ……」
「まぁ怖がらないでよ、
そういうと、旧校舎でもさらに一階の端に位置する教室まで辿り着いた。
誰も使っていない建物かと思っていたけれど、どうやら文化部の部室棟になっているらしい。
連行された先の教室の入り口に、ホラー漫画でみるような怪しげな手書きの書体の字で、見るからに怪しい看板がかかっている。
「オカルト研究クラブ……」
嫌な予感。
毛利加奈が戸をギシギシさせながら開けると、部員らしき男子が二人いて、一斉にこちらを見た。
天使さんよ、まぁ話を聞いちゃくれないかと深刻な顔で、加奈がグッと両手を握ってくる。
「ちょっと部員が一人足らなくてさ、夏休み前に廃部の通達をされたわけ。九月までに規定人数の四人に満たなければいけなくてね、そこであと一人、ぜひ適任であろう天使さんを部に誘いたいのよ!」
間髪入れず、パソコンをいじっていた短髪で細身のメガネ男子が興味津々でこちらに向かって来る。
「君いいね、いいよ中二感のあるその苗字! おまけにその手のものが〈視える〉ようだと毛利さんから聞き及んでおるぞ! あ、僕は三年の部長の大谷です。城マニアで都市伝説好き。まぁ信じるも信じないも貴方……げふっ」
そのくだりマジいらないっす、と加奈がみぞおちをパンチする。
「げほげほ、まぁそんなわけで。学校の部費でちんたら楽しく活動をしたいのだが、マニアックが故に怪しまれて人が集まらなくて存続の危機なのだ」
「看板からしてめちゃくちゃ怪しいですよ……って毛利さん何で私が〈視える〉とか知ってるの……」
「私ら宵山の時に、祇園祭の風習の歴史と超常現象についてフィールドワークがてら出かけていたら、三年の池田先輩と相引きしてたのを見かけたんだけど、何か幽霊がどうのとか喋ってて祓っているのを後ろから目撃しちゃったんだよね〜。ほんでちょっと色々こっそり身辺調査させてもらったら、天使さんの家系は霊能力があるとか何とか。こりゃウチら側が目をつけざるをえない子だわ逸材みっけ、って目ぇつけてたんだ。お家、古書店でしょ? 本当はもっと前から話したいなって思ってたんだけど、そんな矢先に今日ばったり。隣のクラスだからあまり喋った事なかったけど、天使さんと喋ってみたかったんだ。主に幕末の歴史オタクなの、初恋は歳さまね。あ、わかる? 土方歳三の事よ。よろしく!」
加奈はそういうと、うんうんと他の二人に目配せをする。
もう一人の大柄な男子、確かこちらも隣のクラスの……。
「あ、俺も天使さんとあんまり喋ったことないけど、毛利さんと同じ隣のクラスの佐久間って言いまーす。俺も歴史オタクなんだけど、戦国時代が専門かな。趣味は古地図をみる事とか。あとはオンラインのサバゲーとかやってるんで武器とか詳しい方っす。普通に生きてて何の役にも立たない知識ばっかり蓄積されてるんだけど」
「ちなみに、そこに居る銀髪のお兄さん彼氏? とりあえずこの高校の生徒ではないよね?」
大人しく黙って後ろから付いてきていたクロに、大谷部長は喋りかけた。
「ん、俺?」
「何かただならぬものを感じるんですよね、何者ですか?」
「はは、面白い人たちだなぁ、俺はただの人間だよ(昔は)」
クロは含み笑いをしている。
「まぁ天使さん、名前貸して在籍してくれるだけでもいいから。僕らは気ままに仲良くやれたらなって思ってるけど。色々話を聞きたいな。まずは友だちからよろしくお願いしたい!」
友だち。人と深くなるのを避けてきたのに、そんな事を言われるなんてちょっとこそばゆい響きがする。
まぁ、廃部にならず彼らの助けになるのだったら、深入りしなかったらいいだけだし別に構わないのだけれど。
「じゃ、とりあえず在籍ぐらいでしたら……というかそんな大層に〈視える〉わけないじゃないですか、はは。ほんの少しなだけですっ、期待しないでください! てかこの人もただの最近知り合ったばっかりの人なんですっ」
「そんな他人行儀な……俺悲しい。家族ぐるみでお付き合いしてんのに」
「ぐるんでない。おばあちゃんの友だちってだけじゃん…」
まぁまぁ、と大谷部長はニヤニヤしている。
「ちなみに部活ったって、適当に部室で喋ってグダグダして好きな研究調べたり話題共有する事ぐらいで、何ちゃない。顧問の先生だって名前書いてあるだけで来る事もないしね。祭にフィールドワークに皆で行ったのは、祇園祭とノアの方舟の共通点についての都市伝説を調べようとしてて……」
「とかいいながら、この祭り期間にしか売ってない、台湾料理の店先の肉まんを買いに行っただけじゃないですか、先輩〜」
「佐久間くんよ、あれはついでだって」
「僕、佐久間的に今調べているのは土地の歴史とか? 住所の名称も調べると面白いんだよ。天使突抜とか悪王子っていうラノベみたいな町名が実際市内に結構あるじゃない? 地名にはちゃんと由来があって、とかそういうのをまとめて昨年の文化祭では発表していたかなぁ」
皆が早口で喋りまくるので、情報量の多さに若干クラクラしてきた。
何だか怪しいけれど、悪気のない面白い人たちだってのは理解した。
〈視える〉とか好意的に捉えてくれる人たちもいるものなんだ。
半ばノリで連絡先を交換させられて、入部届にサインをして、今日は帰らせてもらうことにした。
でも深入りしない程度の付き合いにしなくては。
何かあって迷惑かけたら申し訳ないもの。
「とりあえず天使さん、ようこそオカルト研究クラブに!」
◇
「おかえり優里。ありゃ、クロさんも一緒だったの?」
「お邪魔しまーす、わらび餅大好きっすいただきまーす。お土産に出町柳まで行って豆餅買ってきたんだ」
仲良しでいいわねぇと言いながら冷たいお茶を用意しつつ、祖母の千代はにこにこ眺めている。
ますます
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