第17話 ハメ技
ぼくは毎朝、毒のお茶を飲む。7歳の時にドミニカの雑用奴隷となったときからだ。ドミニカの習慣だった。基本はドクダミ、笹、タンポポなど。それを採取し、からからに干すのはぼくの仕事。ドミニカがそれに各種の毒草をブレンドした。
爽やかで苦い。このおかげで毒耐性が付くのだそうだ。このお茶はヨミに頼んで、一旦ダンジョントレ―ドで売ってもらった。儲けようと思ったわけじゃない。ブレンドを再現できないから、ダンジョントレードでコピーしてもらった。
さて新しいゴーレムに挑戦だ。今度は広大な礫河原だった。雨季は大きな川だが、乾季は水が枯れ、石ころだらけの平面になる。ゴーレムはストーンゴーレム。
ぼくは鬼手と鬼足を使って、素手で戦ってみる。ストーンゴーレムは石を投擲してくる。それを避けながら攻撃しなければならない。ここは回避の道場だった。
キラキラはマジックアローに火魔法を乗せてゴーレムを射た。しかし予想通り、火魔法は効かない。次にキラキラが試したのはフラッシュ。目つぶしだ。クレイゴーレムと同じ戦法だ。だがこれも目をつぶって回避するゴーレムがほとんど。
それでもたまにまともにフラッシュを食らったゴーレムを、ぼくが攻撃して数を減らす。
鬼の爪はストーンゴーレムの関節の攻撃に有効だった。だが手で触れられるまでに近接しなければならない。敵の位置を把握しないまま近づいて5体に囲まれた。焦る。
石礫の嵐。パンチを浴びた。怪力だ。キラキラは死なないが、僕は死ぬ。ぼくたちは回復の魔法を持っていない。でもポーションを飲むすきがない。敵の攻撃は止むことがない。
キラキラが敵の薄い部分にいたゴーレムに密着してフラッシュ。ゴーレムに張り付いたまま、自爆してくれた。さすがに倒せる。
そこにできた包囲の穴を、ぼくは走り抜けた。3分くらい走り続けて引き離し、HPポーションを2本飲んだ。ゴーレムは縦1列になって追いついてきた。敏捷能力では勝っている。レイピアを抜く。
前から順番に、レイピアでゴーレムの心臓を狙って突き刺す。1回では倒せない。また逃げる。数回繰り返してやっと1体を倒す。あとは繰り返しだ。
泥臭い勝ち方で最初の5体を倒す。スマートさがない。それでもそれを繰り返すしか方法がない。
ドロップは魔力草。少し高く売れる。魔石も少し大きい。ヨミは言う。
「ストーンゴーレムは弱点をうまく攻撃できない敵だね。こういう敵と戦うには、攻撃力や敏捷なんかの能力を地道に上げるしかない」
「苦戦してるよね。僕たち」
「ジガリ、今の君たちって9歳児の平均より少し強いだけだから。苦戦して当たり前なんだよね。サーバントを呼ぶか?」
「それは待って。まだやれる」
細かい装備やアクセサリーを充実した。俊足の脛あて、敏捷の指輪、加速の籠手、革の兜。何より身代わりのタリスマンが1回だけぼくの死を防いでくれる。
闘い続けて、戦法は確立してきた。まずキラキラがゴーレムの頭に密着してフラッシュして自爆。倒し切れないときは、ぼくだけになる。見えなくなったゴーレムに回り込み、膝関節を狙って動きを止める。
あとは敏捷を生かして、ヒット&アウェイ。狙うのは心臓、目、それと首などの関節。ぼくが劣勢になったら、リポップしたキラキラが密着自爆。その隙にぼくはポーションで回復。以下繰り返し。だがこれで倒せるのは1日10体程度。効率が悪すぎる。それにぼくが一人になるのが危険だ。
空き時間に、ぼくたちは地図の作成をしていた。三角測量だ。地図を作っているうちに、面白いことに気が付いた。枯れ川なのだが、地下に水脈があるようで、所々に泉があった。その中で特に大きな泉の近くに高い断崖があった。そこで泉は深い淵になっていて、底なし沼になっている。
ヨミのアイデアだ。この断崖と淵を利用して罠を仕掛けた。転移罠である。2つのダンジョンコアを使う。
一つはゴーレムを誘因するためのもの。ぼくが囮をする。少し戦って逃げる。ゆっくり走り、できるだけ多くのゴーレムを、罠に誘引する。
ゴーレムたちは断崖ぎりぎりに転移させられる。ここにもう一つのダンジョンコアを仕込んでいる。ぼくを追ってきたゴーレムは、転移させられ、勢い余って深淵に落ちる。ストーンゴーレムは重くて、水に入ると底まで沈む。そして魔石とドロップを残す。もちろん自動収集ですべて回収。
ヨミの仮想ダンジョン化の力で、ぼくたちも罠を設置することができた。そして1日60体ものゴーレムが、ぼくたちの経験値になってくれた。
こんなハメ技をずっと続けたわけじゃない。10日ほど続けて、最初の作戦に戻る。キラキラが自爆しなくても、ストーンゴーレムを倒せるようになった。ぼくたちの総合力が上回った。
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