第2章 ミノタウロスダンジョン
第13話 探検の始まり
ぼくたちは宝物庫を探す探検に旅立った。ドミニカ川を遡る。拠点の近くの川はドミニカ川に決めた。仮称だが。
ぼくのテリトリーには目印が4つある。採石場の本拠点、巨木の第2拠点。拠点の前を流れるドミニカ川。そして巨木の近くの街道。
この街道はヤマンという大都市と、帝都ビスクを結ぶ裏街道だそうだ。教えてくれたのはヨミ。
ヨミは転生者だとぼくに打ち明けてくれた。ヨミは転生した時、異世界言語と異世界文化という2つの知識を得たそうだ。巨木の洞に隠れていた時、自分の居場所を探って、その街道の知識を得たと言っていた。
さてアーノルドの滝があるのはドミニカ川上流だろう。ドミニカ川にはいくつかの支流が合流している。ヨミの方針で、進路を選択するときは必ず右側を選ぶと決めてある。
どこかに東西に続く断崖があるはずなので、その断崖を調べる。滝があるとしたら、そこだから。
ぼくも男の子なので探検には心が躍る。しかし現実は厳しい。けもの道で角ウサギに逃げられて追いかけている。探検の途中でもモンスターを倒して強くならなければならない。ぼくは探検の最後にはミノタウロスという強大なモンスターを倒さなければならないのだ。
30分くらい追いかけている。多分2キロくらい離れた場所だ。角ウサギには逃げられた。ヨミは追いかけ始めたけもの道に戻れと言う。これもシーフとしての訓練だ。
大雑把な方向は分かるが、はっきりした目印はどこにもない。1時間さまよっても戻れない。コンパスで北を教えられてもだめだ。
ヨミは諦めて念話で指示してくれる。なんとか最初の場所に戻った。反省点。時々意図的に目印を記憶すること。ない場合は目印を付ける。大きな山などの地形から、方向を常に把握すること。でも簡単ではない。
ぼくはシーフに向かないのかもしれない。いつまでたっても方向感覚が身につかない。ぼくに課されている課題は、方向感覚以外に、目標となる巨木や丘までの距離を目測することもしている。ぼくがシーフを目指すなら必須の訓練だ。
夕方早くから野営場所を探す。洞窟、岩の裂け目、木の洞などは理想的。だがそんな場所が簡単に見つかるはずがない。
大木の樹上、あるいは開けた微高地を探す。今夜は、小さな木の少ない丘があったので、そこで野営することにした。
ウッドストーブに小枝を入れて燃やす。乾燥肉のスープとパンの夕食である。パンをスープに浸し柔らかくする。
夕食後、ジガリはドミニカに教えられた半眼の瞑想での気配察知、気配遮断の訓練をするのが日課だ。いつもなら2時間後、ヨミにHPの半分、MPの総てを渡して気を失ったように眠る。
今夜の瞑想の時間、ぼくはドミニカのことを考えてしまった。ドミニカが死んでもぼくは泣かなかった。寝る前は精神を集中するこの訓練を2時間していた。寝るときにHPの半分とMPの総てをダンジョンに与えて僕は毎夜気を失う。泣く暇がなかった。
そして朝も忙しかった。泣いている暇はない。大麦のリゾットの朝ごはんを作らなければならないし、毒のお茶を入れなくてはならないからだ。毒のお茶を飲むのはぼくだ。ドミニカによればこのお茶を飲み続ければ毒耐性ができるらしい。
それにドミニカはぼくが泣くことなんか望んではいなかった。ドミニカは自分が死んだ後、ぼくに奪ってほしかったんだと思う。彼女の秘密も含めて奪ってほしかったんだ。
ドミニカの秘密って、それは宝物庫のことだ。宝物庫を隠していることも秘密の一つだけど、それ以上にドミニカがなぜそんなに宝物を持っているのかという秘密だ。
ぼくは3年近くドミニカと暮らして、小さな行商団しか襲っていないことを知っている。しかも月1回、襲撃が成功するのはそんなものだった。成功するとお頭は街へ行って戦利品を売る。それで分かるのだ。
ドミニカの生活は香油と酒を除けば質素だったから、1000万チコリぐらいの貯えがあってもおかしくない。でも宝物庫を持つのは無理だ。
ぼくの使っているミスリルのレイピアも、キラキラの装備しているヘルメス装備もただの女盗賊が持っていいものじゃない。
それ以上に宝物庫へ行くための試練として、ミノタウロスダンジョンを用意できることがおかしい。
たまたま良い武器や装備を持っている行商人を襲ったのかもしれない。たまたまダンジョンを攻略したら、それがミノタウロスダンジョンだったのかもしれない。1つ1つの幸運ならあるかもしれない。
でもドミニカの謎はいろいろ複合していて、すべてがたまたま手に入れたと説明するのは無理だ。ドミニカの過去には何か大きな秘密があると僕は思う。
ぼくは変わりたくない。でも大きく状況が変わると、自分でいつづけるためには、変わらなければならないのだ。
ぼくはドミニカからその秘密も含めて、すべてを奪うつもりだ。それはドミニカに対して、ぼくが変わらない気持ちを持っているからだ。
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