第11話 ホブゴブリン

 ヨミが念話で停止を指示してきた。ぼくは足音をたてないようにしながら、すぐ止まり気配を探る。ヨミは念話の直後に、手のひらをこちらにむけたハンドサインと、同時に犬笛で2回の短音を伝えてきた。


 キラキラとぼく、ヨミの3人だけなら念話だけでいい。他人が加わった場合の訓練として、ハンドサイン、犬笛も必要ということだ。犬笛はそれを聞く道具を耳につけている。キラキラも止まって周りの気配を探っている。


 ぼくの気配察知より、ヨミがここを仮想ダンジョン化して、敵の居場所を察知するほうが早い。でも僕は訓練を怠らない。この後一生ヨミと一緒とは限らないのだ。ぼくはもう学んでいる。人とは別れるのが人生だと。


 ゴブリンがいる。数は1体のみ。風下から、腰を低くし、気配を殺しながら近づく。ゴブリンはまだ気づいていない。ヨミのバフとデバフはもう有効になっている。


 音をたてないキラキラがゴブリンの真後ろに移動して、近接からマジックアローを射る。矢には火属性が付いている。


 マジックアローはゴブリンの後頭部を直撃。まだゴブリンは倒れない。しかし麻痺して動けなくなった。


 チャンスだ。ぼくは走り寄って、ゴブリンの心臓を全力で一刺し。ゴブリンは少しの血を噴き出して倒れる。相手が死ぬとき、ぼくは少しだが快感を感じる。


 すべてを奪う。魔石、錆びた剣、汚い腰布、そして僕と変わらない大きさの身体。すべていったんヨミの倉庫に入れる。売れない身体はダンジョンに吸収する。DPは4。それでも塵も積もれば山になるかもしれない。


 錆びた剣はリペア。もとは人間の鍛冶師が作ったものだ。良いものもある。ヨミはすべての武器や防具に自動成長を付与している。使えば使うほど性能が上がる。売ると高い。


 腰布はクリーンした後リペア。新品の布になる。自動調整を付与しているから、これで作った服は、着ている人が成長したら、それに合わせて大きくなる。これも高く売れる。それに小さな魔石。ヨミはダンジョントレードで全部売却して、良い稼ぎになる。


 今日は30日の旅の準備の最終日。ゴブリンのダンジョン攻略だ。ゴブリンの数は10体くらい。今、そのうちの外に出ていた1体を倒した。


 場所は偵察して分かっている。できれば外に出ているゴブリンをたくさん倒しておきたい。でも残念ながらもう外に出ているゴブリンはいなかった。


 キラキラと二人でスニークインする。だがすぐ気づかれて、2体のゴブリンが向かってくる。ヨミがバフ・デバフ、仮想ダンジョンの魔法をかけたのが分かる。

 ヨミが指示してくれる。作戦の再確認だ。


「キラキラ左、ジガリ右」


 キラキラがマジックアローを射る。ぼくは近づいて、レイピアをゴブリンの胸に突き立てる。どちらも一撃では倒せない。キラキラのほうは麻痺している。


 こっちはまだ動いている。ぼくは2撃目を足に入れた。動きが止まる。3撃めは胸。今度は心臓を刺した。


 キラキラは頭を正面から燃やす。どちらも倒せた。でもキラキラは2発。ぼくは3発。キラキラのほうが強い。


 ここはゴブリンのダンジョンだが、仮想化した僕のダンジョンでもある。相手に奪われる前にすべてを奪う。


 3体が走ってくる。キラキラが空中を飛んで近づき、1体の頭にマジックアローを当てる。そいつは動けなくなる。残り2体が近づく。


 キラキラが急いで戻り、右のゴブリンを後ろから射る。これも麻痺。2撃目で頭を燃やして倒す。


 ぼくは左のゴブリンの足を狙う。太ももを直撃。動きを止めて心臓を突く。キラキラは、さっきマヒさせたゴブリンに向かう。中距離から頭を直撃。近接でもう一撃。倒した。


 ぼくはダンジョン1層を索敵する。多分いない。落ち着いて、目を凝らし、1層の地図を作る。本当なら最初にやるべきことだった。


 2層への階段発見。急いで魔石や死体を回収し、下へ降りる。すぐ矢が飛んでくる。ゴブリンの弓使い。ゴブリンアーチャーだ。ファイアーボールも来た。ゴブリンメイジ。魔法使いもいる。


 ヨミが一時撤退を指示。ぼくたちは走って入り口に戻る。5分くらい休憩していると、1層のゴブリンが復活したのが分かる。


 ヨミはお金と経験値を稼ぐために、1層のゴブリンをもう1回倒させるつもりだ。ぼくとキラキラは1層の6体(外にいた1体も中で復活していた)を倒し、2層に降りた。


 矢とファイアーボールが来ることはもう分っている。回避しながら、3体を倒す。特に難しくはない。


 3層は1体だけ。ヨミの見積では、大柄なホブゴブリンだった。ダンジョントレード用の見積だが、敵の名前くらいは分かる。こいつがガーディアンだ。ぼくが前に出てレイピアで戦う。ホブゴブリンの武器は巨大な棍棒だ。怪力なのだろう。重い。


 キラキラは気づかれないように、死角に入ると、ホブゴブリンの目の前に飛び出る。顔面に張り付いて自爆した。ホブゴブリンはまだ死んでない。


 ぼくは動けないホブゴブリンに近づいて、ジャンプ。それでやっと手が届く心臓をめった刺し。ここで仕留めないと。こいつが動けるようになったら、一人ぼっちのぼくは死ぬ。


 何とか倒しきった。やばい。また快感が来ている。


 魔石やドロップ、死体などすべてを回収。ダンジョンコアをヨミの支配下に入れて、このダンジョンは消去した。

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