第9話 ペレット(ヨミ視点)

 ジガリは急いで旅立たないようだ。冒険の準備はじっくりできる。1か月がめどかな。地味にうれしい。


 俺は計画を立てるのが好きなほうだ。地図だけでなく、ネットでも下調べをして、山へ行ったり、旅行へ行ったりする。山登りや旅行はそれ自体より、計画を立てるときのほうが充実感がある。


 ゲームをやるときも育成が大好きだ。クリアするより、育成しているほうが楽しいタイプだ。だからしばらく準備ができそうで、ジガリとキラキラの育成ができると思うとうれしい。


 今の状況を整理しよう。けっこう金があるスタートだ。そして俺はダンジョンコアだから、金さえあればダンジョントレードで、スキルやアクセサリーが何でも手に入る。かなりイージーモードになる。俺にとっては物足りないくらいだ。


 しかし1000万DPはさほどのお金ではない。大雑把に言えば、1DP=1チコリ=1円が成り立つ。それなりの財産だが、最強の武器を買おうとすると、この100倍は必要だ。


 金はいくらでも欲しい。金を稼ぐにはどうするか。最初に思いつくのはモンスターを狩ることだ。今狩れるのは角ウサギ、スライム、ゴブリン程度か。角ウサギは肉が取れて食料になる。各モンスターの魔石も売れる。


 他には川の魚、森の薬草類、山菜、薪がダンジョントレードで値段が付く。今1日の稼ぎを想定すると1万DPくらいだろうか。1年で360万DP。生活は塩などを除いてほぼ自給自足できている。本心ではもっと欲しい。


 ドミニカの残した武器・防具類はまだある。貴重なものなのでこれは売りたくない。他にアクセサリーや衣類とかもある。これも個人的感情では売りたくない。俺の心の中でドミニカの存在はますます大きくなている。この気持ちは誰にも言うつもりはないが。


 あとは野良ダンジョンの攻略も数回はやりたい。ダンジョンコアを得て、転移ポイントを数個は作りたい。


 ミノタウロスダンジョンを探して、上流地域を探検することになる。危険があったらすぐ逃げ帰りたい。安全第一だ。それには進んだ場所に、手に入れたダンジョンコアを使って小さな支配ダンジョンを作り、そこを転移ポイントとするのがいいだろう。それができれば安全と、移動の時間の無駄がなくなる。


 野営はジガリには必要なくなる。でもこれからの人生で、野営の技術はあったほうがいい。それにテントを使う野営は俺のお気に入りだ。山登りだけでなく、北海道の海岸で何回もソロキャンプをした思い出がある。一人で眺める海の焚火は最高だった。


 前世のキャンプ道具を再現してみたい。俺は山道具やキャンプ道具には詳しい。むしろ道具オタクといってもいい。もしかしてアウトドアの道具を再現すれば、この世界で爆発的に売れるかもしれない。そうすれば金銭問題は一気に解決だ。


 ダンジョントレードでは、イメージがはっきりしていれば、似たようなものを作ってくれる。ソロ用テント、シュラフ、コット、ストーブ、燃料、ランタン、食器、ザック、靴あたりがすぐ思い浮かぶ。


 ランタン、ザック、靴は除外だ。ランタンは光魔法のライトで実現できる。ザックはマジックバッグのほうが優秀だ。靴はジガリが嫌いだ。


 テントはタープのような1枚のシートでいいだろう。俺はブルーシートで野営したこともある。雨がよけられれば十分だ。ウルトラライトであることは譲れない。丈夫な布にスライムゼリーで防水をして、小ぶりなワンポールテントを設計した。


 テントの次はシュラフだ。これは毛布を封筒型に改良する。汎用性を考えて、ただの1枚の毛布。それを端を上手く折りたたんで、寝るときは封筒型にする。ジッパーはできないだろうから、大きめに作って布ひもでとじればいい。


 さてストーブだ。北欧の軍隊で使っているような、真鍮製のアルコールストーブはどうだろう。問題はアルコールだ。冒険者や兵士なら、絶対3日以内に飲みきる。


 だとしたらウッドストーブが実用的かも。落ちている木の枝を燃やすだけだ。できれば風の魔法を充填した魔石を仕込みたい。しかしそうすると複雑な構造になり、価格も上がる。


 単純に15センチ角の箱にして、底面に金網を仕込む。あとは適宜穴をあければ、使えそうだ。木質ペレットをセットで売ったほうがいいかもしれない。木の枝のない環境もあるかもしれないから。


 試しに4種類をダンジョントレードに注文してみた。テントとシュラフ、ウッドストーブと木質ペレットだ。4つの道具はダンジョントレードでも一応できた。テントとシュラフは思ったより重い。ウッドストーブは鉄製で価格が2万チコリ。高価すぎるから売れはしないだろう。木質ペレットは安くて燃え方もいい。


 オタクな俺は電子レンジの制作に挑戦してみる。キャンプで電子レンジが使えればいいのにと思っていた。それに学生時代も教師になってからも自炊していた俺はほとんどの料理を電子レンジで作っていた。


 雷魔法を使えば電子レンジはできそうだった。しかし雷魔法を使えるものはジガリのパーティにはいない。俺自身、雷魔法のイメージはラノベの知識しかない。


 結局電子レンジはできなかった。できたのは魔石に火魔法を充填したオーブントースター?オーブン?かな。オーブントースターは持っているが、オーブンは使ったことがないので分からない。


 ともかくこれで十分電子レンジの代わりになると思った。蓋つきの四角い分厚い鉄鍋と組み合わせると、結構複雑な料理もできるはずだ。そしてダンジョントレードに注文してみた。なんと少し時間はかかったができたのである。


 なんと優秀なダンジョントレード。そしてヨミは自分がやりすぎたことに気が付く。ジガリは訓練を除いては拠点に帰って夜を過ごす。野営は数回訓練をするだけだ。野営道具など、さほど必要はないのだ。


 だが分かった。ダンジョントレードは優秀な職人だ。

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