第8話 ダンジョンを転移に使う

 ぼくは変化が嫌いだ。でも思ってもみない変化してばかりの生活を送っている。ドミニカと宝物庫を探す旅に出る約束までしてしまった。


 旅はすぐに出なくてもいいはずだ。1か月はここで新しいドミニカのいない環境に慣れたい。新しい仲間もいるしね。


 採石場の拠点は捨てたくない。できれば第2拠点の巨木の洞も。ここにはドミニカの思い出がたくさんあるし、ぼくが安心できる唯一の居場所だ。


「ヨミ。旅に出てもこの拠点を捨てたくないんだ」


「ダンジョンを利用すれば、どこからでも一瞬でここに帰ることはできるけど」


「どうやるの?」


「ダンジョンには転移罠や、5階や10階など目的の階層へ転移する仕組みがあるんだ。ボスを倒したときの帰還の魔法陣も同じ仕組み。ダンジョンコアはその転移の仕組みを自由に設置できる。それを利用する」


「それは自分のダンジョン内を転移する仕組みだよね」


「ヨミがいっしょなら、その時いる場所を仮想ダンジョンにして、拠点に転移することができるんだ。どんな遠くに旅していてもね」


「毎晩ここで寝ることもできる?」


「できるさ。それだけじゃなくて、別のダンジョンコアを支配下におけば、そのダンジョンからいつでも拠点に帰ることができる」


「他のダンジョンコアを、支配下に置くことなんてできるんだ」


「世界には愛日、たくさんの野良ダンジョンが生まれている。生まれたばかりのダンジョンを攻略して、ジガリがマスターになって、ダンジョンコアを支配下におさめればいいのさ」


 できたばかりの野良ダンジョンの中には、1か月も持たずに消えてしまうのも多いそうだ。ヨミは粘った方なのだ。


 ダンジョンコアには、他のダンジョンの存在がわかる。ヨミに一番近くの野良ダンジョンの場所を教えてもらう。


 ダンジョン討伐にでた。きれいな川に沿って少し下流に行く。ヨミは背中のバッグの中にいる。視界は共有しているし、念話で話しながら寂しくない。


 キラキラはぼんやりした火の玉で、おぼろげだ。でも空中を飛んでいるし、けっこう早くなっている。


 知らない人が見たら、9歳の頼りない子供が、川の近くを一人で散歩しているように見えるだろう。でもぼくはレイピアがあるから、ゴブリン一体なら倒せる。キラキラと協力したら2体なら勝てると思う。


 森のごく浅い木の根元に小さなダンジョンがあった。入り口は目立たないように、草むらで隠している。まるで少し前のヨミの様に上手に隠れている。


 ヨミは進化を重ねて人化のスキル得るまでは、外では戦えない。なのでヨミは支援してくれる。バフという味方の能力を上げてくれる魔法がかかる。ぼくに力が湧いてくる。


 ぼくはドミニカの装備をすべてもらっている。。革の鎧と単袴、下着まで。でも下着は女ものじゃない。ちゃんとヨミがクリーンして、ぼく用に調整してくれたものだ。


 足は裸足だ。ドミニカのブーツもあったけど、靴は力が入らない。それに音がうるさい。裸足なら足の裏の感触で、小枝を踏んだと分かる。すぐずらせば音を立てずに歩ける。


 武器はドミニカのレイピア。これはヨミによれば、魔法銀のミスリル製だった。ぼくが持ちやすいように軽く、短くしてもらっている。切れ味も付与魔法で良くしてくれている。


 キラキラはフワフワしていて、敏捷が低いので、すべてヘルメス装備。ヘルメスの髪飾り、胸当て、手袋、スカート、脛あて、靴すべてだ。これはドミニカの倉庫にあった。ヒトダマでも自動調整で装備できる。ヨミは凄いと思う。


 武器はサソリの小弓。もちろん防具も武器も、拠点の倉庫に在ったものだ。すごいものらしい。弓の場合、矢の数で攻撃回数が決まるけど、キラキラはスキルがある。


 マジックアローというスキルで、MP1を使って、1回攻撃できる。MPが尽きたら、MPポーションを飲めばいいから、実質無限に攻撃できる。火の玉から魔法の矢が出てくるのは、不思議だが、それが魔法なんだろう。


 草むらの陰のダンジョンに入る。ヨミがこのダンジョンに仮想ダンジョンを重ねる。敵のダンジョンであると同時に、ジガリダンジョンでもある二重ダンジョン状態になる。こうなるとモンスターであるキラキラは、死んでも15分後にリポップする。


 敵はスライムだ。ヨミがデバフをかけて、スライムの能力値を下げる。戦闘開始だ。闘いはあっけない。スライムが3匹しかいないダンジョンだった。キラキラのマジックアローが3回当たっておしまい。


 今日の目的は、ぼくが支配ダンジョンを持つことだ。維持費はかかるが、このスライムのダンジョンを支配下に置き、ジガリダンジョンの仮想的な階層にする。


 そうすると転移罠の仕組みを利用して、このダンジョンにいつでも来ることができる。でもぼくはこの場所に来る用事なんかない。ダンジョンコアを取り出して、このダンジョンは消去する。


 ダンジョンコアは移動することができる。ぼくはこのダンジョンコアを持ったまま、巨木の第2拠点まで歩く。途中で会った弱いモンスターは、僕とキラキラが交替で倒す。


 第2拠点の巨木に着いた。昔ヨミのいた場所に新しいダンジョンコアを置く。ここには必ずしもダンジョンコアがなくてもいいのだが、いたほうがダンジョンが強化されるらしい。


 第2拠点から、転移の仕組みで本拠地に帰る。途中で拾った小枝で火を起こし、血が抜けた角ウサギを解体し、肉を焼く。これは昼ごはん。


 宝物庫を探す冒険に出たとき、野営をしなくても、ぼくはここの本拠に帰って安全に寝ることができる。


 つまりダンジョンマスターは、転移の魔法と同じことができるんだ。

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