第4話 ぼくの部屋

 お頭を倒した何者かが、財産を狙ってこの辺に出没するかもしれない。そいつらにここの巨木が拠点だと思わせればいい。第2拠点にある程度の餌を撒いておくことにした。採石場の本拠点を隠すためだ。


 下の洞に降りた。ドミニカの死体を吸収してヨミのDPが増えた。できることの増えたヨミに、ダンジョンの階層を拡張してもらった。巨木の周辺を含めてダンジョンに取り込んでもらう。


 下にあるもの総てをいったんヨミの倉庫に入れる。倉庫に入れるだけで、それが何か、いくらで売れるか見積ができる。1DP=1チコリで現金にもなる。一覧表を念話で送ってもらった。


 約30万チコリがあった。だがドミニカが持っていた財産はこんなものではない。採石場の拠点にはもっとお金はあるはずだった。ここには10万チコリ撒いておけば十分だろう。


 他にはサブの武器、罠を仕掛けるための針金やロープ、何に使うのかわからない魔道具、ヒールポーション、非常食、アクセサリーや解体用のナイフなど雑多なものであふれている。手紙があった。


 ドミニカの家族や仲間について俺は何も知らない。俺が知っているのはこの2年余りの女盗賊としてのドミニカだけだ。手紙はあとで読んでみよう。


 お金のほかに適当に安い武器やポーション、ゴミを散乱させておく。しょぼい盗賊がここを拠点にしていて、強い誰かに殺された。そんな風に誤解してくれるだろう。


 そしてわずかな戦利品で満足し、帰った場所の酒場で自慢してくれればいい。3か月もしないうちにここのことは忘れ去られる違いない。


 価値がありそうなものはヨミの倉庫に保管しておく。本拠点の倉庫にはもっと価値の高いものが収められているはずだ。


「ヨミ、ダンジョンは移動できるの?」


「できる。バッグの中にでも入れて」


 いったん街道に戻り戦いの痕跡を消す。第2拠点へ向かう草の道は昨日の荷車の跡がついている。これは適度に残す。春である。植物の成長は早い。1か月しないうちに景観は変わる。


 本拠点へ向かう痕跡は丁寧に消しながら進む。新たな痕跡を付けないように木の上の枝のルートを進む。昼頃採石場の本拠点に着いた。


「ヨミ、この周辺をある程度広くダンジョンに取り込んで。敵が近づいたときに感知してほしいんだ」


「わかった。勝手に倒してもいいかな。やるのはキラキラだけど」


「モンスターの場合はいいよ。人間の場合はぼくに教えて」


「了解した」


「ヨミ、岩の割れ目の中に住まいがある。そこにあるものを、いったんすべて取り込んで。そして地下に誰にも見つからないような僕の部屋を作ってほしい」


「DPの予算はどれくらい?」


「今手持ちの現金20万チコリ以内に収めて」


「ベッドは買う?」


「ドミニカが使っていたものがあるから、それを」


「了解。新たにモンスターを雇ってもいいかな。強力なダンジョンを作ることも可能だけど」


「いらない。ぼくがしてもらいたいのは、財産を売ることと、この拠点の安全確保だけ。特にぼくが安心して寝られることだから」


「それだけなら、ダンジョンの階層構成だけで実現できる。俺たちは何をすればいいかな」


「自給自足していて。モンスターを狩ったりして。余力があれば自分たち二人の強化。強くなってほしいし、知性も上げてほしい」


「キラキラの人化も目指すかい」


「そうだね。キラキラだけでなくて、ヨミもできるなら人化してほしい。そのほうが寂しくないしね」


「あの、女のほうがいいですか」


「そうだね、できるだけ可愛いほうがいい。せっかく人間になるんならね」


「できる限り頑張る。ジガリの好みのタイプを教えてもらおうか」


「特にないけど、二人はタイプが違うほうが区別がついていいかもしれないね」


「わかった。善処する。でも相当能力上げないと人化できないから、時間はかかる。それは了解して。もし我慢できなければサキュパス買うから」

 

 キラキラはさっそく新しいダンジョンを探検している。ぼくより小さい子供みたいだ。火の玉だけどキラキラの気持ちがわかる。子供が新しい街に引っ越して、物珍しくうろついているみたいで可愛い。


 まあぼくも子供なんだけど、村から売られてからは子供らしい時代なんかなかったから、少しうらやましい。


 ぼくは今日の夕食を調達に行く。食べなければならないのはぼくひとり。ヨミとキラキラはDPを消費するだけ。人化したら一緒に食べられる。寂しいわけではない。ドミニカともそんなに話したわけじゃないし。


 でも一人ぼっちで食べるのは、何かいけないことのような気がする。だからやっぱり人化はしてもらおう。別にサキュパスが欲しいわけじゃない。その辺ぼくにはまだわからないことがある。


 拠点の周りには10か所以上、罠を仕掛けてある。一夜ここを空けたので、少しは獲物がかかっているはずだ。楽しみに見回りに行く。


 思った通り、角ウサギとフォレストボアがかかっていた。木にかけて血抜きをする。血抜きが終わる待ち時間に、薬草や山菜を採って背中の籠に入れた。


 気配察知には十分気を使っている。ドミニカが時々狩りをしていたので、大物モンスターはいないはずだ。でも角ウサギやゴブリン程度は普通にいる。ぼくだって1対1ならゴブリンは倒せる。


 それにドミニカのレイピアを手に入れたから、ゴブリンが出たら試してみたい。ぼくも男の子だから、良い剣を手に入れたら振り回したい気持ちはあるのだ。


 夕食後、地下にできたぼくの部屋で、ゆっくりねられたらうれしいな。

 

 ダンジョンは安全な隠れ家にもなる。とても便利なものだった。

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