第7話

 頭がズキズキする、それにとっても寒い。私、さっきまで何してたんだっけ。いや待って、ここどこ?

 急いで起きあがろうとした身体は、誰かによって押さえつけられた。


「いきなり起きるのは身体に良くない、いや、そもそも君は今まともに動けないよ。それにお喋りなら寝ながらでも出来るだろう?」


 確かに言われた通り、身体中が重くて上手く力が入らなかった。


「こうしたのは貴方じゃないの?」

「こうでもしないと素直についてきてくれなかっただろう? 面倒なんだ、君のご主人様を呼ばれるとね」


 さて、君の考えを聞かせてくれるかい? と彼は続けた。一体何についての考えを、としばらく考えていると、私を疑っているんだろう? と言った。


「だって、そのスーツ、あまり流通していない珍しい生地で作られていて、その端切が現場に落ちていたのなら、それはもう貴方がやったとしか言えないじゃないですか。それにSNSのアカウントを使って変なオーダーをしてるし、そのアカウントに連絡を取ったら貴方と会ったわけで、スーツはきっとその時のものでってなったら……!」

「そうかもね、だけどそれでは警察は動いてくれないだろう。確かにこの生地はあまり見ないものだが、私以外の人間が手に入れられないわけではない。SNSのアカウントだって、いくらでも他人が操作することができる。そう思わないか?」

「そう言われるとそうですけど……」

「もう言いたいことは言い尽くしたかい?」


 渋々頷くと、彼は、次は私の番だねと言って、ベットに腰掛けた。


「私と三島律の関係は、殺人犯と探偵、そうだな、ターゲットとハンターとでも言っておこうか?」


 やっぱり殺人犯なのはあってるんじゃない。抗議の意味も込めて睨みつけると、彼はクスクスと笑った。


「とにかく、私は彼と仲良くやっていたと思っていたんだが、彼はそう思っていなかったみたいでね、突然横に知らない人間を置き始めた。それも、何処の馬の骨ともわからないような女の子をね」


 身体が先程から震えているのは、この部屋の異常な寒さからか、それとも迫り来る恐怖からか。どっちもかもしれない。


「正直残念だったのもあるけれど、憎かった。後のことなんて考えず、殺してしまおうと思うくらいにはね。何故かって?」


 君は彼の側に居て良い人物じゃないだろう? と耳元で囁かれた言葉は、重く、低く私の耳に届いた。

 人を殺すというには何と理不尽な理由だろうか。私を側に置くのを選んだのは、私ではなく律さんの方だというのに。


「私の理想はね、君が死んだ直後に彼が来てくれることなんだ。そうすれば彼も、二度とこんな過ちを犯さないだろう?」


 浮かべていたのは今までで一番気持ちのこもった人間らしい笑顔だったけれど、ちっとも安心感なんて覚えなかった。


「君では見つけられない証拠だって、この場所だって、彼は見つけられるだろうからね」


 腕に何かを刺された感覚がして、私は意外にも冷静に、今から血を抜かれるのだろうかと考えていた。


「それじゃあ、頑張ってね」


 嬉しそうな顔で彼が言った直後、私の身体から血が抜けていくような感覚になって、震えがさっきよりも大きくなった気がした。

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