第5話
三島さんの一言に例の代理人、田中浩介さんが顔を引き攣らせたのを見て、神田さんは慌てて叫んだ。
「三島さん! そんなこと言ったら言えるものも言えなくなっちゃいますよ! いやいや、ほんと全然気にしなくて良いですから、ね?」
と言いながら私に目線を向けてくる神田さんを無視することもできず、私は訳もわからず頷いた。
「だからァ、そう言われたって教えることがないんすよ。強いて言うならやり取りに使ったアカウントぐらい? でも今使ってんのかわかんねえけど」
ほらこれと言って見せてくれたスマホの画面には、いかにもこのやり取りのためだけに作った、みたいなアカウントが写っていた。
「一応頂いておきます。すみませんわざわざ」
「ああ、別に良いですけど。なんかあったんすか?」
「まあ、そんなとこです」
そんな会話をしている神田さんたちを尻目に、三島さんは私に言った。
「大津さんこのSNSやってる?」
「やってますけど……まさか私に連絡取れって言うんですか?」
怪訝そうな顔をして言うと、三島さんはさらりとした表情で、「僕これやってないし」と言った。
「嘘つかないでください、前にやってるところ見ましたよ」
「覗き見した?」
「だって、見えちゃったんだから仕方ないじゃないですか……!不可抗力です」
「どうにせよ僕が連絡とるより自然でしょ」
と言って先に歩みを進める三島さんに向かって、ああもう! と叫び、ヤケクソの状態でSNSを開いた。
「ほら、来ましたよ」
適当に考えて相手に送った文はしっかりと届いたらしく、数日後にはSNSのダイレクトメールのところに通知が来ていた。とはいえ、直接会って話をすることは出来そうにないけれど。
「へえ、まさか返ってくるとはね」
「でも、具体的に何をしろとは書いてないんです。仮押さえですかね?」
「大津さんが犯人だとして、仮押さえなんて用意する?」
「そう言われちゃうと……違う気もしますけど……」
まあどんな理由であれ、決めつけるのはよくないよね。と言って、三島さんは優雅に立ち上がった。
「あ、ちょっと待ってください。今準備しますから!」
「いや、いいよ。気分転換に散歩するだけだし」
それにこれから学校でしょ、と言われてしまい付いて行くことはいよいよ出来なくなった。正直、好奇心から付いていくと言ったことも、律さん(で良いとさっき言われた)にはお見通しだったのかもしれない。
「やっとドラマっぽい展開に入ったと思ったのに」
おとなしく学校へと歩いていた道中、スマホが音を立てて、SNSに何か反応が寄せられたことを知らせてきた。
急いでアプリを開くとダイレクトメールのところに、さっきのアカウントからメッセージが来ていた。
__今日の夕方会えませんか?と。
「これ、律さんに言ったほうが良いやつだよね……?」
でも、夕方だと事務所に寄ってる時間がない。だからって断ったらせっかくの機会を逃すことになっちゃう。電話する? あ、でも律さんのスマホは彼が出ていく時に事務所に置いてあったのを見たな、ダメじゃん。
一体どうすればと立ちすくむ私をまるで見ていたかのように、メッセージはこう続いた。
__P.S. いつも一緒にいる探偵さんには内緒で。
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