第2話

「すみません、あの、上の建物って」


 やってます? とはっきり言う事はできなかった。別に聞いちゃいけないことではないのだけど。


「ああ、探偵さんに用ですか。やっていますよ」


 仕立て屋のおじさんはにっこりと笑って答えた。

 せめて看板とかをかけるなりなんなりすれば良いじゃない。と心の中で文句を言いながら階段を上がり、ドアノッカーを鳴らした。インターホンなんてものはここに存在しないらしい。


 「どうぞ」と中から声が聞こえたので無駄に重いドアを開けると、そこには美青年がぼうっと窓を見つめていた。


「あの、アルバイトの件で来た大津愛理ですけど」

「……ああ、そっか今日って言ってたっけ。どうぞ座って。と言っても、もう採用なんだけど」


 君以外に応募した人いないし、と彼は言った。嘘だろうと思ったけど、よくよく考えたら怪しすぎるか、こんなバイト。


「はあ、ありがとうございます……?」


 私が疑問系で返事をしたことは気にも止めず、彼__三島律は、それはもう簡単に業務の説明をしてまわった。


「だいたいこんな感じかな。何か質問は?」

「いえ特には……」

「ああそう。じゃあさっそく、明日から来れる? ついでにこれ制服」


 制服? 探偵事務所に?

 手渡された紙袋は誰もが知っているようなブランドのものだった。まさか中身もそれじゃないよね……?

 冷や汗をかきながら、私はおずおずと服を取り出した。


「いっ……」


 いや、嘘でしょ!? このタグ、絶対にあのブランドの服ってことじゃない!!!


「こんなの、私、借り物だとしても受け取れないですよ!」

「別に君は気にしなくて良いんだけど」

「いや気にする気にしないの問題じゃなくて」


 三島さんは私に被せるように、「それに」と続けた。


「これ受け取らないなら不採用だけど」

「そ、そんな……」


 理不尽なことがあってたまるか。高価な服を受け取り拒否しただけで不採用って。逆に珍しいでしょう、黙って受け取ってくれる人。だってこれ、何十万するんじゃないの?


「僕の自己満足で着させようとしてるんだから、君がどうこうする必要はないでしょ?」

「それは、そうですけど……でも」

「でも?」


 三島さんは端正な顔を近づけて私に聞いてきた。こんなかっこいい人に見つめられたことなどないので、そんなタイミングではないと思っていてもドギマギしてしまう。


「こ、こんな高いもの、受け取れないですよ」


 すると、三島さんが深くため息をつく音が聞こえた。思わず肩を震わせると、「ごめん、怒ってるわけじゃないから」と訂正された。


「何度も言うけど、僕のエゴなんだから気にしないで。それで、明日から来てくれる?」


 そりゃあ、最高のバイト、やりたいに決まってる。でも、やっても良いのかとも思ってる。

 だって、どこにそんな財力があるのかもわからないし、制服と託けてお高い服を女子大生に託す意味もわからないし、闇バイトってやつでは?


 ああでも、探偵だとすれば、ちょっとこだわりが強いだけという可能性もある。財力の問題は……そう、たとえば実家がセレブリティな感じなのかもしれない。話している限り、育ちの良さはひしひしと感じるし。そう、きっとそうだ。そうであれ。ならば

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