美少女はモブを逃さない
柏が言った言葉は本当のことなのか? そう問いたくなるのは、今の状況が色々とピンチだからだ。
「ふ、二人っきりになりたいってどういうこと……??」
「そのままの意味だよ?」
柏のきれいな顔が目と鼻先の前にあり、俺の心臓は加速し続ける。それでも無理矢理にも頭を冷静にさせ、なぜ柏はそんなことを言い始めたのか俺の小さな脳で考え始める。
二人っきりになりたい。その言葉は恥ずかしいことや相手を問い詰めたい時に(多々良の場合は)使う言葉だ。この状況で恥ずかしいことは起きないだろうから、なにか俺に聞きたいことがあるのだろう。
「も、もしかして、俺に言いたいことでもあるのか……? 何でも言ってくれていい答えるから……」
「な、何でもいいの!? じゃ、じゃあ〜……」
柏はそう言って俺への質問を考え始めると抑えていた力が抜けていった。その隙に俺は横にスライドを初めて柏の包囲網から脱出した。
「好きな人はいるのかな、伊月くんは? ……ってあれ?」
「ごめんな、俺この後授業あるから!!」
俺はベッドでポカーンとこちらを見ている柏に背を向けて教室へと走り出した。
「遅いぞ、多々良。どうした?」
「ちょっと柏さんを保健室へ連れて行ってました」
「そうか、おつかれさん」
教室に着くと先生に捕まり、なぜいなかったのか聞かれた。すぐに開放されて俺は席に座りだらしなく寝そべる。
「伊月くん? どうしたの?」
「ちょっとな……保健室に行ったんだけど……」
「うんうんそれで?」
高いトーンの女の子が俺に話しかけてきた。
「そこで告白されてさ〜?」
「え〜?OK出したの?」
「出してない」
「すぐに答えたr…ごほっ、ん”ん”……いいんじゃない?」
「そうかm……? ん?」
顔を上げるとさっきまで保健室にいたはずの柏がこちらを見ていた。
「な、ななななんでここに!?!?」
「んもう〜、伊月くんが走っていっちゃうから追いかけたの」
「でも教室にはいなかったはず……!!??」
「伊月くんいつも休み時間はさっきみたいに寝そべるからその隙を狙って教室に入ってきたの」
前までは話しかけてきて嬉しいと思っていたが、今はそう思わない。嬉しいという感情が恐怖に変わる。背中から冷たい汗が流れる。
「それで? 私は伊月くんの返事が聞きたいな〜……チラチラ」
「ごめん、友達から始めましょう、というか親友よりも上に行かせないわ」
俺が答えると柏は嬉しそうに自分の席に座った。
「なら、既成事実を作っちゃえばいいんだ……!!」
「なにいってんだ、おいっ、くっつくなよ!!」
「冗談だから〜」
意味がわからない。そんな顔をしていると柏は楽しそうに笑っている。その笑顔は前は癒やされていたものだが、今ではそれを見ると捕食者に狙われている小動物の気分になる。
「じゃあ、これからも友達だね! じゃあ信愛祝に友情ハグしようか!」
そう言って柏は腕を広げて「ほらほら〜」とこちらを見ているが、無視した。
その様子を見て不機嫌になった柏は親指を立ててそれを下にすると「ぶー、ぶー」とこちらに抗議を始める。
「どうしてこうなったんだ……」
あとがき
次で最終回です、今回の話もよかったら応援よろしくお願いします!
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