美少女に迫られるモブ
昨日が色々とありすぎて休日に思えた木曜日。あと少しで休みだが、まだ木曜日とも考えられるのでがっかりしてしまう今日このごろ。
そんなどうでもいいことを考えていると教室のドアがスライドしてこのクラス一の美少女こと柏雪が入ってくる。そんな柏に挨拶を返すと彼女はクラスメイトに笑顔で返していた。男子たちはそれだけで舞い上がっていたが、仕方ない思春期の男子は美少女と話せるだけでもテンションが上がる生き物なのだ。
挨拶合戦を終えるとこちらに向かってくる柏に俺も挨拶する。
「おはよう柏」
「あ、た、多々良くん……」
俺が急に声をかけたのが原因なのか、柏はびっくりして飛び上がった。その後にしっかりと返してくれたが気まずい空気が流れた。柏は暑いのか顔を赤くしているので尋ねてみた。
「どうした柏、顔赤いけど風邪か? 保健室行くか?」
「だ、大丈夫だよ! ほ、ほら!」
元気なことを証明するために柏はこちらに笑顔をみせてくるがそれは俺から見るとなんだかぎこちなく見えてしまう。
柏はそれからも俺が話しかける度に顔を赤くして早口で喋る。やっぱり風邪なのだろうか? やっぱり保健室に連れて行ったほうがいいのか?
「柏、保健室行くか」
「え!? な、なんで!?」
「体調悪いんだろ? 俺は柏にはずっと元気にしてほしいからな。辛かったらおぶっていくからさ?」
「……わ、わかった。じゃ、じゃあお願いします……」
柏を保健室におぶって連れて行く。周りにいる人からはなぜか嫉妬の目を向けられたがどうしてだろうか?
………
……冷静に考えてみるとなんで俺は柏をおぶっているのだろうか? こんな主人公みたいなイベントやっていていいのだろうか?
「な、なあ柏?」
「ど、どうしたの多々良くん? も、もしかして私重い!?」
「それは大丈夫、軽すぎて心配になる」
「じゃ、じゃあ何かな?」
「なんで俺は柏をおぶっているんだ? 恥ずかしくなってきたからおろしていい?」
俺が柏に言うと柏は首に回していた腕にもっと力を込めた。まるで下ろすなと言っているみたいだった。
「……わかったよ」
「むふふ〜……」
柏はご機嫌そうに鼻歌を歌い始めた。俺はそれを聞きながら保健室へと向かった。
☆
「失礼します」
保健室に入るときにそう声をかけたがどうやら誰もいないようだった。とりあえず抱っこしていた柏をベッドに優しくおろしてあげる。
「大丈夫か? ちょっと待ってて、先生呼んでくるわ」
保健室を出ようと柏に背を向けると腕を掴まれた
「え、えっと……どうしたんだ柏?」
「行かないで……」
「い、行かないでって言われても、先生を呼んでくるだけだから…」
柏は一人は寂しいのかより掴む力を込めた。だんだんと腕が痛くなってきた。
「ごめん、柏ちょっと痛いから…大丈夫だ、すぐに戻ってくるから」
「……ほんとに?」
なんか柏が小さな子どもみたいに見えてきた。そんな柏のためにも早く先生を呼びに行かないといけない。
「……やっぱりだめ」
「えっ」
俺は柏に引っ張られてバランスを崩してベッドに倒れ込んでしまう。すると俺は柏と添い寝している状況に陥った。
「か、柏……?? どうかしたのか……??」
「多々良くん……いや、伊月くん……私のことは雪って呼んで?」
脳の処理が追いつかず、今の状況を理解できない俺はただ柏のきれいな顔を見ていた。
「柏…? 風邪が悪化したのか……?? さっきよりも顔が赤いぞ……??」
「風邪……?? 私は風邪引いてないよ? あと私のことは雪って呼んでって言ったじゃん」
「それじゃあなんで……??」
「なんで、か……それはね?」
より一層顔を近づける柏。宝石のような目と目が合い、さらさらな雪のように白い白髪が俺の頬に当たり、俺の心臓は鼓動を速めている。
「二人っきりになりたかったからだよ」
あとがき
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