第16話 普通の恋も大変だ

「天候不順でなかなか 色づかなかったらしいけどそろそろ 綺麗になったみたいよ。行く?」

「紅葉「?」

「温暖化かなにかのせいで、なかなか 色づかなかったらしいのよ。」

「もう12月なのにやっと紅葉か。」

「イチョウも綺麗だけどやっぱり もみじよね。」

「イチョウ だったら 千種公園も綺麗だよ。」

「近場でいいか。」

「近場がいいよ。」

「近場でイチョウか、もみじ 見て美味しいものでも食べに行きましょう。」

「そうだねそれが 一番いいね。」

「天候不順とか色々あったけど、時期が来ればちゃんと 色付くんだね。」

「うん、自然は 信用に値するな。」

「いつも行く公園のイチョウは黄色くなってきれいだったけど、もう終わっちゃった。もみじはあそこには 1本だけしかないから。」

「もみじだったら 品野の方に行けば結構あるよ。岩屋堂まで行けばいっぱいあるし。」

「品野にはあんまりお店ないからお弁当でも作っていこうか。」

「作れるの?」

「お弁当ぐらい作れるわよ。」

「期待しちゃうな。」

「過度な期待はしないでね。」

「でも期待しちゃうよ。」

「ほんと 大したことないから 期待しないでね。」

「はーい、分かりました。紅葉のきれいな場所って川とか池とか水辺が多いような気がするね。」

「紅葉と言っても、草や木が成長するには水が大切だってことだね。」

「紅葉って成長なのかな?」

「次の年の春に備えての成長でしょう。古い葉を落として新しい葉の準備をするための。」

「植物ってすごいわね、よりよく生きるために自分の葉を自ら落とすなんて。」

「自然はよく分かってるんだよ。生きるためにどうすべきなのかを。」

「生きるために今持ってる何かを捨てるなんて考えたことなかった。」

「植物たちは自分に何が必要で何がいらないか分かってるんだ。」

「人間はそういったことが全く分かってない。やがて 死が静かに訪れて慌てふためくんだろうな。植物たちにとって、もしかしたら死は日常なのかもしれない。いつだって葉は枯れ死んで、新しい芽が生まれるんだから、死も誕生も植物たちにとっては日常なんだ。いつも死に、いつも生まれる。彼らはこの地に生まれ落ちた時からある意味もう死んでいるのかもしれない、そして 植物にとって死はいつも新たな 誕生でもあるんだ。だから、植物の方が僕らよりよく知っているわけだ。生 と死を繰り返した経験値が違うものな。木は何百年何千年と生きられるのに人間にそれは無理だ。人間はよく生きて 100年だもんね。それにしても 人生50年なんて言ってた頃から比べるともう2倍に伸びちゃったんだね。結構 短い間に 2倍に伸びたんだから 今後 医学と化学の進歩でもう2倍になるかもしれないね。」

「人生 200年 なんてことになったら いろいろ変わっちゃうんだろうな。」

「自然に長く生きられるならいいけど、不自然なことまでして長生きなんかしたくないわね。」

「この先には苦しまないで死ねるような そんな医学も発展していくのかもしれない。」

「人間も草木と同じように生きることばかりじゃなく うまく死ねることも必要になっていくんだろうな。」

「あまり先のこと考えるのは本当に意味がないわね。」

「そうだね 意味ないね。」

「どうせなら楽しいことを考えましょう。」

「そうだね。」

「品野には食べ物屋さんがないって言ってたけど、岩宿堂の中には魚料理とかうなぎを食べさせてくれる店があるんだよ。」

「どうしてそんなこと知ってるの。誰と行ったのよ。」

「知り合いに連れてってもらったんだよ。うなぎは確か 天然だったな。」

「いいわね。 どういう人なの?」

「いろいろお世話になったんだよ 仕事のこととか。」

「仕事?」

「僕はちょっと一緒にやってたこともあったしね。」

「へーそうなんだ。」

「彼女は営業成績がいつも1番か2番に入ってた。」

「すごいのね。」

「すごい人だったんだよ、化粧品の販売が本業で支店長だったみたい。」

「そうなんだ。」

「だからいろいろ店も知ってて、ご馳走してくれたんだ。僕も彼女の力で 保険会社に入って営業成績をトップにしてもらったことがあった。」

「トップに。」

「今となっちゃ 懐かしい思い出だ。」

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作家になった訳 瀬戸はや @hase-yasu

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