第11話 事業所にて

「れいじ君のお母さんから LINE が入ってたわよ。」

「何だって?」

「宿題をもう少しやらせてくださいだって。」

「分かった。もう少しやらせるようにするよ。」

藤が丘の叔母

「ゆうこさん 君に似てるって言うおばさんは今どこに住んでるの?」

「確か 藤が丘にいるはずよ。どうしたの?」

「一度会ってみたいなと思って。」

「会ってどうするのよ。」

「別に考えてないけど、似ているのかな と思って。」

「それだけ?」

「それだけ。」

「バッカじゃないの。」

「おじいちゃんが一目惚れした女性の娘だけあって、とても綺麗な人よ。」

「一緒に行く?」

「いいの?」

「私もおばさんに用事があったから。」

「用事ってどんなこと?」

「そろそろ バーゲンシーズンだから いい洋服あるかなと思って。おばさん ブティック やってるのよ。」

「そうなんだ。」


藤が丘の地下鉄の駅に近い、大きなビルが建ち並ぶメインストリートからは少し離れた落ち着いた場所にその店はあった。

「おばさん お久しぶりです。」

「あら裕子ちゃん。」

「こちら彼氏?」

「まあ そんなものです。」

「初めまして、そんなものです。」

「あらぁ、こんにちは。」

裕子のおばさん、岡田さやかさんは本当に美人だった。スタイルの良さは今でも全く衰えを知らず、現役そのものだった。

「さやかさん満州にいらっしゃったんですか?」

「満州…母がね、大昔のことよ。」

「おばさんは満州に行ったことはないの?」

「小さい頃いたのかもしれないけど、ほとんど覚えてないわ。満州 より 神戸の方がよっぽど覚えてるわ、子供の頃住んでたから。」

「どうして神戸に住んでたの?」

「おじいちゃんの友達が神戸にいたからよ。おじいちゃんもおじいちゃんの友達もとてもハンサムでかっこよかったのよ。いつもきちんとスーツを着て、ステッキも持ってたなぁ。ビジネスマン って感じだったのよ。2人ともとにかく おしゃれだった、昔で言う モボだったのよ。」

「モボ?」

「モダンボーイのことよ。」

「モダンボーイ?」

「今で言う おしゃれ男子のことよ。」

「へー。」

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