第5話 新たな出会い

文子さんは 栃木県に行ってしまった。一人残された僕は ついつい 文子さんを探してしまう。でも文子さんはもうこの町にはいない。

僕は文子さんがいない事業所をやめ、日進市にある 別の事業所に入った。業務内容はほとんど 前にいた事業所と変わっていなかった。

今日の迎えは市役所の横にある停留所で三好にある介護学校ののバスから降りてくる子供達を引き取ることだった。迎えの場所には他の事業所から来ている人たちがいた。その中の一人の女性が僕の目を引いた。彼女はスラリとした長身で、モデルのようだった。素敵な人だなと思った。僕は思わず

「今日はお迎えですか?」 とその人に声をかけてしまった。美しい彼女はただ小さく微笑んで頷いただけだった。三好の事業所からのバスが到着して子供たちはそれぞれの事業所から迎えに来ていた人に引き取られていった。僕も迎えの男の子を引き取っていた。その間に僕は彼女を見失ってしまった。その後いくら探しても彼女を見つけることはできなかった。僕は日進の市役所に来るたびにその人を探した。どこの事業所の誰なのか僕は聞いてなかった。

その人は 愛らしく 手足が長い ほっそりとした人だった。まるでモデルのようだと思ったその印象ははっきりしているのだが他がうまく 思い出せない。思わず声をかけたくなってしまった 愛らしく美しい顔が思い出せなかった。

ただ、その人は とても落ち着いていた。何もかも慣れていて慌てていない様子だった。見知らぬ男から声をかけられることも彼女にとっては当たり前のことなのかもしれない。僕は新しい場所に行くたびに彼女を探し続けた。そしてついに彼女を見つけた。彼女は 白石裕子さんという名前だった。彼女はもうこの仕事を3年も続けていた。

「学生の頃 友達と一緒にやっていたの。続けていたらいつのまにか 3年何になっていただけよ。」

「4 Dの仕事もだいぶ慣れたけど、ずっと続けるかどうかまだわかんないわ。」

「ゆうこさんって落ち着いてるね って言われない?」

「落ち着いてるかな 私。」

「なんかもう ベテランって感じだよ。」

「ベテラン⁉ 年寄りってこと。」

「違う違うだいぶ慣れて、落ち着いてるって感じだなぁ。」

「まあなんとなく頼りにはされてるけど。」

「仕事に安心感があるんだよ きっと。」

「そうなのかな?」

「どうせ任せるなら安心できる人に任せたいでしょ。」

「そりゃそうだけど。3年もやっていれば誰だって慣れてくるでしょ。」

「でも子供の扱い方は3年ぐらいじゃ慣れないよ。」

「そこは努力したもの。」

「努力したんだね えらいね。」

「馬鹿にしてる?」

「とんでもございません、尊敬してます。」

「本当かな?」

「人間、疑ったらきりがないから。」

「何それ。」

「やっぱりちょっと馬鹿にしてるでしょ。」

「とんでもございません。」

僕はやっと文子さんを見つけられたと思った。裕子さんは文子さんに何となく似ていた。

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