第7話 外と内

 声のほうを見ると、目も口も笑っているような顔をした木の像が立っていた。


「ここはどこ……?」


「寺だよ。檀家の骨董屋が、あんたをここへ連れてきたんだ」


「こっとうや……?」


「あんた、古そうなのに、なんも知らないねえ」


「はあ」


「まあ、いいさ。私が教えてあげるよ。おしゃべりが大好きだからねえ」


「はあ」


「骨董屋は、古いもんを売り買いしている人さ」


「はあ」


「骨董屋が店を閉めることにしたが、ぼろぼろの仏像……、つまり、あんたが売れ残った。大金で買ったのにって、嘆いてたよ。で、この寺のお坊さんが気の毒がって、あんたを買い取ったのさ。あっ、ぼろぼろって言うのは、私が言ったんじゃないよ。気を悪くしないでおくれね」


 一気に沢山の言葉が流れ込んできて、理解できない。


「はあ」


「ちょっと、あんた! 大丈夫かい?」


「よく、わからなくて……」


「もしや、自分が誰かも分からないのかい?」

 

 笑った顔のまま、仏像は心配そうに聞いてきた。


「まあ」


「長く眠りすぎたせいで、外側の仏像にひっぱられてるんだねえ。あんたも私と同じで、元から仏像ってわけじゃないのかもね」


「ひっぱられる?」


「外側にひっぱられると、ぼんやりして、なんも考えられないようになるんだ」


「はあ」


「外側と内側が違うと、どうしても強いほうにひっぱられるんだよ。あんたほど、古い仏像だと、外側の我も強そうだ。まあまあ、一緒にいましょうやってわけにはいかないだろうしね」


「このままだと、どうなるんでしょう?」


「そうだねえ。あんたが消えちまうんじゃないかねえ」


 仏像が悲しげな声で言った後、急に明るい声をだした。


「でも、あきらめるんじゃないよ! あんたが、外側に負けなきゃいいんだから。私はね、外側にひっぱられて自分を忘れないよう、仏像に宿った時の気持ちを思いだすようにしてるのさ」


「はあ」


「私はね、この仏像に強く願って宿ったんだ。そうはいっても、仏像になりたかったわけじゃない。私が私のまま、宿りたかったんだ。だから、私が消えちまわないように気をつけてるのさ」


「はあ?」


「いきなり言っても、分かりゃあしないか。まずは、私がこの仏像に宿るまでのことを話すよ。分らなくてもいいから、聞いておいで。何か思い出すかもしれないからね」

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