第6話 たたり

 屋敷の中に入り込んできた嵐は、存分に吹き荒れた。

 そして、屋敷から人の気配が消えた。


 もぬけになった屋敷に、見知らぬ男たちがやってきた。

 背の高い男と、小さい男だ。


「流行り病で、このあたりもすっかり人がいなくなったな。この立派な屋敷も取り壊しか……。もったいないが、買い手もいないだろうしなあ」


 小さい男の言葉に、背の高い男がうなずいた。


「ああ。だが、誰も寄りつかないおかげで、俺らが頂戴できるってもんだ」


「で、どうだ? この部屋で高く売れそうなもんはあるか?」


 小さい男の問いに、背の高い男は、抜け目のない目つきで、あたりをゆっくりと見回す。目があった。


「そうだな……。そこの仏像だけだ」


「おんぼろの仏像だぞ?」


「相変わらず、おまえは見る目がねえなあ」


 バカにした物言いに、小さい男は声を荒げた。


「途絶えた家の仏像を盗んだりなんかしたら、たたられるぞ!」


「はあ? たたり? 笑わせんな。このお宝を見逃したほうが、寝覚めが悪い」

と、背の高い男は小さい男を嘲笑った。


「おまえって奴は、本当に悪霊そのものだな。まあ、いい。俺は遠慮する。さすがに気味が悪いからな。おまえの取り分だ。悪霊め、好きにしな」


「じゃ、遠慮なく。後悔するなよ?」


 背の高い男は、目の前まで近づいてくると、ふざけたように手を合わせた。


「仏像さん。俺のために、せいぜい高く売れてくれ」


 そう言って、空洞のような目で笑った男。

 

 黒い布を衣からひっぱりだし、かぶせてきた。

 あっという間に、闇に包まれた。


 どこかへ運ばれているようで、揺れる。

 暗闇にいると、また、ぼんやりしてきた。

 そして、そのまま、意識が遠のいていった。



「……ちょっと、ちょっと、ちょっと!」

遠くから、うっすら聞こえてきた声が大きくなってくる。


「おーい、あんただって! 新入りさん! と言っても、ここにいる中で一番古そうだけどねえ」


 甲高い声が、ぼんやりした頭に響く。


「ほら、起きな! いつまで眠ってるんだい?」


 声が、ますます大きくなって、我慢ができなくなった。

 固く閉じていた目を、ゆっくりとこじ開ける。


「お、やっと、目に光がともったね。わたしの見立てどおり、からっぽの地蔵菩薩さんじゃなかったってことか」


 どうやら、この声は、すぐ隣から聞こえてくるようだ。

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