キジトラのあなたとハチワレの君


 野生を見た。わけではないのだけれど、やっぱり野良ちゃんはテリトリーには厳しいのだな、と思ったことがある。


 うちの周りには野良ちゃんが何匹かいるのだが、ほとんど姿は見掛けないものの夜になると決闘の声が響いてくることがある。


 ある夜、あまりにも凄まじい決闘の声に驚いて窓の外を見ると、黒い猫ちゃんが、巨体の白猫ちゃんにものすごい勢いで追い掛けられていた事があった。


 あの白猫ちゃんはこの辺りの主で、多分何匹も白猫ちゃんによって追い出されている。あの子も、あの子も、見掛けなくなった。


 野良猫怖ぇー、と思いながらバス停に向かって歩いていると、駐車場にはいつものようにキジトラの野良ちゃんがおすわりしている。


 この頃から私は、この野良ちゃんを「Nたろう」と名付けて呼んでいた。


「Nたろうちゃん」とか「Nたろうちゃん、おはよー」とか声を掛けると返事をしてくれて、ゴロンゴロンする。


 まさに日々の癒しだった。


 ある日、Nたろうちゃんの駐車場に、白地に黒の混じったハチワレ猫ちゃんが寛いでいるのを目撃した。はじめて見る猫ちゃんだ。人相ニャンそうはあまり良くない。この子もきっと野良ちゃんだろう。


 そんなところに座ったら、Nたろうちゃん怒るだろうなぁ……と思いながら一ヶ月ほどしたある日、駐車場からさらに先の神社の方を歩いていたら、あの時のハチワレちゃんに出くわした。


 この辺りはNたろうちゃんのテリトリー外。ああ、君も追い出されたのか。Nたろうちゃんに。


 Nたろうちゃんが機敏に走って牙を剥いているところを見たことがないのであまり想像も付かないけれど、野良猫の世界は厳しい。


 知らない顔が、そこにはある。


 でも、アイツは今日もゴロンゴロンしている。




★Nたろうちゃんのつんでれ写真付き近況ノート★

https://kakuyomu.jp/users/nobusan_kuromiya99/news/16817330667217969035



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