ガン・オードリー

 オードリーは、広げた手のひらを前に突き出して言った。

 「今より、5分!5分のうちにお前を倒す」


 ズッッバッドドドーン!

 爆風が巻き起こるとオードリーが消えた。


 ムンッ!

 突如エックスの前に姿を現すと、大薙刀を振り下ろす。

 体を傾けスレスレのところでエックスもかわす。

 ムンッ!

 オードリーは、手首を返してすかさず切り掛かる。が、エックスは体を捩り躱わす。

 大薙刀を小枝のように扱い、目では追い切れない速度で振り回す。

 エックスは、すんでのところで躱わす。

 オードリーが繰り出す凄まじい速さの攻撃を、見事にエックスも躱しきる。

 「避けるだけかー?」

 そういうと、オードリーは地面を思い切り叩いた。

 地割れが四方に走り、エックスを含む周りにいるものの体が少し浮いた。

 んんっ、んらっあぁぁぁー!

 オードリー渾身の一振りがエックスを襲う。


 エックスを完全に捉えたと思った瞬間。エックスは、空中で体をよじり、刃のつけ根に足を当てて、まるで蝶にでもなったように華麗にこれも躱わす。



 ハァ・・・・・・、ハァハァ・・・・・・。


 「34・・・・・・、35・・・・・・、36、ほら、どうした?お前の言う5分は300秒の事だろう?早く俺を倒さないとタイムオーバーだぞ。40・・・・・・、41」


 「チビすけが、小賢しい」

 オードリーは、呼吸を整えて大薙刀を突きの型に変え構えた。

 「穴だらけにしてやるぜ」

 オードリーは、地を蹴りエックスに向かった。

 「むむんんんっっん『蓮撃・一閃』!」

 

 「ほおぇ、こりゃ凄いー」

 エックスは、目を見開いてオードリーの突撃に備えた。

 さらに正確に、さらに細かく動く事でエックスはかわす。

 うぉおおおおおおおおおおぉぉぉー

 凄まじい速さの攻撃に、周りの兵士も魔物も動きを止めて大将同士の戦いに見入ってしまう。


 エックスの頬、肩、腕、脇、もも、脛。

 かわしきれず、ついに傷を負わせ血が飛び散る。

 「あっははははははっ!いいぞ、いいぞ、もっと来い!」

 『激衝・砕』!

 突然戦っていたふたりが、消えたかと思うと、離れたところから衝撃音共に土煙が上がった。


 ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・。


 エックスは、オードリーの持つ大薙刀の鋭く尖った先端を両手の拳を突き合わせるように挟み、胸の数センチ手前で止めてみせた。


 「速さ、威力共に申し分なしっ!ただ、あと一歩足りず!さあ、次もこいっ!83・・・・・・84・・・・・・、時間が勿体無いぞ」


 ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・。

 「クソチビが、調子に乗りやがって・・・・・・」


 オードリーは、呼吸も調わぬうちに、次々と薙刀を振り下ろす。

 アッハハハハハハハハッ!!

 エックスの腹の底からの笑い声がこだまする。

 「なんだ、なんだ。こっちはようやく調子が出てきたところなのに、ネタ切れかー?もっとだ!もっと!ほら、もう100秒超えたぞー」

 ムンっ!

 『蓮撃・いっ・・・・・・』

 オードリーが深く構えた刃の先を、エックスの右拳の指の間で挟む。

 「これは、見たぞ!次が無いのか?次が!?」

 オードリーは、固まったまま動かない。


 ん?


 うぉぉおーーーーーん!!

 突然、オードリーは薙刀から手を離し、跪いて天を仰ぎ大声を上げた。


 「おいおい、本当にネタ切れかぁー」


 10秒か20秒か・・・・・・。束の間を経てオードリーは、ゆっくり立ち上がった。


 「たっ、隊長ー!!」


 周りで戦う兵の声も届いているのか。


 身体を揺らしながら、フラフラとエックスの前まで歩みを進める。


 「んー。お前それ見えてるのか?目玉が真っ白だぞ。俺が言うのも変だが、魔物よりよっぽど怖い顔してるぞ、アハハハッ」


 地に落ちた自慢の大薙刀を拾うことなく、エックスの前で拳を高く上げ構えた。


 「戦闘能力、国に対する忠誠心、そして何より闘争心。お前は今まで戦った中でトップクラス」


 「ガハハッ、そりゃ・・・・・・どう、っも!!ムンッ」


 振り下ろされた拳は、エックス額に直撃するも・・・・・・。

 「諦めの悪さも良しっ」

 エックスは、何事も無かったように話し続けた。

 オードリーの大きな拳が次々にヒットする中、エックスは続けた。

 「お前なら、対峙した瞬間に俺に敵わない事は理解しただろう?例えドーピングしようが、何しようが無理な事は分かっていたはず。なのに何故?自分や仲間を犠牲にしてまで挑んできた?周りもみろ、お前の兵隊達は次々と倒れているぞ」

 ムンッ!

 胸に当たったストレートパンチ。鈍い音と共に血飛沫をあげた。

 それは、エックスのではなく、オードリーの拳が砕けたためだった。


 「まさかこれ程までに差があるなんてな・・・・・・」

 オードリーは、砕けた拳を顔の前に、ぼんやり眺めながら呟いた。


 「お前の言った300秒、悪いが185秒で終わらせてもらう」

 そう言ってエックスは、右手を真っ直ぐ上に上げた。

 「今から放つ、俺の右ストレートでお前は間違えなく死ぬ。一発で仕留めてやるのは、俺なりの誠意だ。お前の攻撃はそれなりに楽しませてもらったからな」

 エックスは、腰を落とし左手を開いて前に突き出し、右手は硬く握り深く構えた。

 「182・・・・・・、183・・・・・・、じゃあーな」


 「・・・・・・エックス、栄光の我がアイ王国。舐めてかからん事だ。よーく肝に命じておけよ。ガハハハッ」


 フンッ!

 

 その瞬間、周りの人間、魔物共に耳が付いている者は全員無音の空間が広がった。

 そして爆風が起こり馬に乗った騎兵ごと、数十メールは飛ばされた。

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