限界突破

 ケンジは攻めあぐねていた。

 サラマンダーの火球をかわすのは、そこまで難しくはないが、動き回ってはあたりが瓦礫の山になってしまった。いつまでもこうしている訳にはいかない。斬撃を飛ばしても決定打に欠ける。


 ケンジは一か八か、ひらめきを実行してみる事にした。

 動きを止めて、大股に腰を落とした。

 光の剣の柄を右手で力一杯握る。

 「いっっっけーーーーー!!」

 ケンジは息を止めて、オーバースローで光の剣をサラマンダーに向かって思い切り投げつけた。


 高速で回転しながら光の剣は、ケンジを見下ろしているサラマンダー1体の喉元に突き突き刺さった。


 「しゃ!」


 力が抜け崩れ落ちたサラマンダーの喉元から、光の剣を抜き、最後の1体となったサラマンダーを睨みつけた。

 ケンジは再度剣を上段に構えた。

 《真一文字一閃》

 鋭い斬撃が、上空のサラマンダーに向かって飛んでいく。

 ケンジは手を休めず、次々に斬撃を放つ。

 うぉらぁぁぁぁーーー!

 サラマンダーも火球を放ち反撃するが、斬撃の嵐に目も開けられない。

 翼の付け根に受けた攻撃に、体勢を崩し高度が下がる。

 今!

 ケンジは駆け出し飛び上がって、サラマンダーの首を目がけて力一杯剣を振り下ろした。

 

 ギャッッッ。


 短い奇声をあげて、頭と体に両断された。


 ふぅー。

 ケンジは大きく息を吐いた。

 ゲームなら『→たたかう』のコマンドを押すだけで攻撃出来るが、実際の戦闘は、まあ大変な事。ケンジは剣を鞘に収め走ってキャノンの元へ急いだ。



 「おーい!」

 「ケンジ様っ」

 キャノンは、見事に敵を倒し砦の内部で怪我人の手当てを行っていた。

 「ケンジ様、よくご無事で」

 「ええ、なんとか」

 「思っていたより負傷者が多く、出来る限り救護を進めております」

 周りを見渡すと、薄暗い中に多くの負傷者が寝かされていたり、壁に寄りかかり座らされていた。

 「ケンジ様、こちらこの砦の守長のヤフカです」

 片目を包帯で巻いた長髪の男が足を引きづりやってきた。

 「おっ、王子・・・・・・。この度は申し訳ございません」

 目に涙を浮かべ、ゆっくりした動きで頭を下げる。

 「何を謝るんですか。本当によくこれまで守り抜いてくれました」

 頭を上げようとしないので、肩を叩いて促すと、うっうぅぅ。と、くしゃくしゃにした顔を上げた。


 「王子・・・・・・」

 「キャノンさん、ここもこのままにしておけませんので、兵を半分残していきましょう」

 「ハッ、承知しました」

 「すぐに準備を」

 「直ちに」


 ケンジとキャノンが20名ほどの兵を引き連れて第六砦を出ると、ちょうどショウ、カロイ、シラヌイ隊一行と鉢合わせた。


 「ケンジ、あんた何やってるのよ。そんな埃まみれになって!」

 「何って、砦が攻撃を受けてたから救援に向かってたんだよ。ショウは大丈夫だったのかよ」

 「はんっ、あんた誰に言ってんのよ。あんな魔物なんてちょっと数が多かっただけで、綺麗にやっつけてやったわよ」

 ケンジは、ショウの膝に傷があるのを見つけたが、黙っていた。

 「なによー」

 「いや・・・・・・、行こう。オードリーさんも心配だ」





 ぉぉおおおおおおおおお。


 「隊長、後方のカメオ隊がやられました。ビビ隊も苦戦、半壊しています」

 ムンッ!

 オードリーの巨大な薙刀が振り下ろされると、目の前の魔物が真っ二つに両断された。


 オードリーは、ちらっと中心に居座る担ぎ上げられた駕籠に目をやると、手で合図をしながら大声で指示を飛ばした。

 「ビビの方に30騎送れ!コイツらの侵攻を少しでも遅らせるんだ。ブーバ!守りー」

 厚い魔法の壁がオードリー隊前面に現れた。

 強力な魔法を使いこなす魔物の攻撃をなんとか防ぐ。

 「なかなか厄介な奴らだなー」

 オードリーは、またオークが囲む中央の駕籠を見ながら、ぼそっと言った。

 「ブーバ、5秒後に障壁を解いて、魔法部隊全力で前方に向けて攻撃を仕掛けろ!いいな」

 ブーバは、第1師団の中の魔法部隊をまとめる男だ。

 「隊長、全力でぶっ放すの構いませんが、その後すぐに魔法の盾を出すことはできませんよ」

 「それは構わん!とにかく中央の駕籠まで行ける隙を作るんじゃ」

 「・・・・・・分かりました。カウント始めます。5・・・・・・4」

 「あの駕籠から1番強い邪気が出ておる。ここで潰しておかないと後々まずいことになる」

 「1・・・、解きます!」


 魔法壁がぼやけて、風に流されるように消えた。

 「いけっーーー!!」

 オードリーを先頭に、重騎兵を前に置き突撃体制で駆ける。

 「目の前の敵だけ蹴散らせー!速力を落とすなー、とにかく突破するんじゃー」

 魔法部隊からの援護射撃で、突撃する寸前で魔物の前衛が乱れる。

 シッッヤァァァリャャャァァァー!!!

 オードリーの振り回す大薙刀に、首、腕、足など前衛の魔物達の四肢が吹き飛ばされる。

 

 中央の駕籠へ一直線に向かうオードリー、当然敵の守備も厚くなる。

 駕籠に近づくにつれ、魔物のレベルも格段に上がりオードリーの一撃では、崩れない奴らも増えてくる。

 オードリーをはじめ突撃していた、騎兵の足が止まってしまった。残り30メートルといったところか・・・・・・。

 足が止まるとそこは魔物の中心部、あっという間に続々と押し寄せる魔物に周りを囲まれる。

 むむむむむむむっ。

 大薙刀が振り抜かれる度、魔物達も吹き飛ばされるが、そこは多勢に無勢。切っても切っても湧いて来る魔物の波の勢いに、ひとり、またひとりとオードリー隊長の屈強な兵士達が、馬から引き摺り下ろされ、めった打ちにされてしまう。

 この魔物達を指揮する大物がいるであろう駕籠に届く前に力尽きてしまうのではないか・・・・・・。前線を戦う屈強な兵の頭に不安がよぎりはじめたとき、オードリーの怒号が響いた。

 「マッシュ!いまじゃー!!!」

 

 ドドドッバーーーーン!!


 駕籠を挟んで反対側から大きな衝突音が上がった。

 マッシュは、突入する前に前方のビビ隊に送ったはずの30騎の騎兵を率いた小隊長であった。

 「ガハハハッ!上手くいったわ。マッシュ、そのまま駕籠の中で調子こいとるバカ助をやっちまえー」


 ビビ隊を通り越して手薄になった駕籠の裏手に回り込んでいたマッシュ一団は、勢いそのままに突っ込んだ。

 オードリーが、周りの敵を引きつけていたので、駕籠はほとんど丸裸。担ぎ手のオークが数十体いるのみだ。

 「いけっーーーー!」

 マッシュを中心に先頭の3騎が並んで鋭い槍の先を駕籠に勢いよく突き刺した。

 

 !!!???


 左右の騎兵は、槍を刺したまま横をすり抜け駆け抜けたが、中心を刺したマッシュだけが時が止まったように固まってしまった。

 バキバキッバキバキ。

 マッシュの持っていた槍が駕籠を壊しながらゆっくり起き上がる。

 掴んでいるマッシュの体も一緒に宙に浮く。

 乗っていた馬も主人がフワッと浮いてしまったので呆気に取られてしまったようだ。

 マッシュは、自分の重さに耐えられなくなり柄から手を離し地面に落ちてしまった。

 それでも、槍はゆっくり起き上がり続ける。

 ちょうど槍が垂直に起き上がったところで、ピタッと止まった。


 ババババババギィィンンンン!!


 駕籠が内部から破裂した。


 「ヌァァァーーーーーーーーア・・・・・・」

 ・・・・・・。

 「・・・・・・。よく寝た」

 薄紫色の身体、赤い目、体長1メートルちょっと、それでも体の作りは高密度の金属のように完璧に仕上がっている小さき人型の魔物。

 「まだ着いてないのか?どこだ、ここは」

 周りをキョロキョロ見渡して言った。


 「ツッ、なんだよ。敵の襲来に右往左往してたって訳か・・・・・・、情けねぇ」


 その場一帯いた人間も魔物も完全に動きが止まり、目線は突如として現れた紫色の小さき魔物に釘付けとなってしまっていた。


 「あいつは・・・・・・。こりゃ、マズい・・・・・・」

 オードリーに至っても、使い慣れた大薙刀を一瞬地に落としてしまいそうになる程、全身の力が抜けてしまった。


 バブブブンンンンンン!!!


 急な爆風が起こり、駕籠の残骸が消し飛んだ。

 「わりぃ、わりぃ」

 小さき魔物は、鼻を摘みながら首を垂れる。


 「ん?おっおいっ、お前ら何やってる!さっさと続きを始めろよ!人間なんかやっちまえ」

 魔物達も、オードリー兵も、背中を強く叩かれたように、言葉にハッとなり目の前の敵に顔を向け武器を構えた。

 オードリーだけが、腰に手を当て周りに睨みを利かせている紫の小さき魔物をじっと凝視していた。

 「おい、そこの!お前は魔王十指のひとり、獄拳のエックスじゃないのか?」

 オードリーの言葉が響いた。

 また、周りの兵も魔物も動きが止まる。

 「あんな雑魚達と一緒にされたくないが、いかにも、俺がエックスだ。貴様がこの部隊の大将か?」

 オードリーは俯いた。小刻みに肩が揺れる。

 「ガハハハッ。まさか、こんな所でナンバー2と呼ばれるエックスにお目にかかれるとはな」

 「あぁ〜ん。ナンバー2だと・・・・・・。ネオバーンのじじいなんぞ、もういつでもやれるわ」

 「アイ王国第1師団師団長ガン・オードリーじゃ。お前にゃ悪いが、こちらにとっちゃ貴様に会えたのが千載一遇の大チャンスじゃ。悪いがその首ここで頂くぞ」

 オードリーが、力を込めて大薙刀を構え直した。

 「俺を知って、首を取ると?アハハハ!こりゃいい、目覚めの気付けに丁度いいわ。よしっかかって来い!」

 「ブーバ、クレイジードラッグを全部だせー」

 「ぜっ、全部ですか?一気に」

 「そうじゃ、普通じゃないんじゃ。分かるな?」

 「しかし、お身体が・・・・・・」

 「それは、言うな」

 「ハッ、・・・・・・。残り3錠です」

 「よしっ、全部じゃ。命を賭けて刺し違えてもお釣りがくるわ」

 

 オードリーは、馬から下りてブーバから手渡された不気味な形の薬をなんの躊躇もなく口に放り込んだ。


 「なんだ、なんだ。パワーアップか?そろそろはじめていいか?」

 「フンっ、チビすけが・・・・・・。これより、私に近づく事を禁ずる!小隊に分かれて各個撃破を行い敵部隊の弱体化させるんじゃ!死んでもコイツらはここで食い止めろ!」

 『ハッ!!』

 オードリーの周りにいた兵は、すぐに散開して離れた場所で戦闘が始まった。

 「んんんー。お前デカくなってねぇか・・・・・・?雰囲気も変わったような・・・・・・」

 「ガハハハッ。そんな濁った目でも良く見えているんじゃな。3錠飲んだからな・・・・・・。私の戦闘力は・・・・・・、単純に3乗じゃ」

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