第1師団進軍

 「オードリー隊長!」「隊長ー」

 「よーしっ、戦況はー?」

 オードリーは、早速3人を前線の拠点に案内した。

 「ハッ、メスコ村に地を這う魔物が新たに出現。近くのバロ隊が向かい交戦中。多少村人に被害が出ましたが、すでに村人の退避は完了、バロ隊も奮戦しています」

 「今度は地面からか・・・・・・。全く厄介だな。住民で避難が終わってない所はあるのか?」

 「ヒモクツ村の老人数人が退避を拒否しています。他は大方完了しています」

 「うむ、分かった。それから近くにいる指揮官をここに集めてくれ」

 ハッ。男は急いでテントを出ていった。

 「今、指揮官を集めます。お二人を紹介させてください」

 「ったく、益々状況は良くないじゃない。さっさと敵のところへ案内してちょうだいよ」

 「まあ、まあ、一応流れっていうものもありますから。ガハハハッ」


 ぞろぞろと男達がテントに入ってくる。なかには頭に包帯を巻いている者、腕に当て木を付けている者、片足がなく車椅子に乗っている者もいる。

 「皆、お疲れ様!防戦一方で歯がゆかっただろう。今までなんとか持ち堪えてくれた事感謝する。そんな中、ここに、我が国のケンジ王子、シュウ王女が戦況を打破するため駆けつけてくれた」

 男達の目線が一気に、ケンジとシュウに集まる。

 「ガハハハッ。その実力は知っておろうな」

 おおー。一同が声を上げる。

 「ここから、一気に反転攻勢を掛ける!よいかっ!」

 おおおおおおおー!!!


 「さあ、お二人ともお疲れのところ悪いですが早速一働きしてもらいますよ」

 「そのために来たの、当然じゃない」

 ガハハハッー!



 「作戦は単純。ここにいる一千騎が一丸となって、東から西へ殲滅横断を行っていただきます」

 「はっー?」

 「ガハハハッ!戦況は防戦一方、敵にインパクトある一撃を加えて前線を一気に押し戻したい。お二人が一緒なら誰も文句を言いますまい。良いですかな?」

 「もっと綿密な作戦はない訳?」

 「わたしの部隊は、小難しいことより、単純明快な方が力を発揮できるのです。まあ、見ていてください。まずは、東へ3キロほど進んで、そこから一気に西に5キロ敵を蹂躙しながら進みます。それだけです。さあ、行きましょう」

 スムーズにいっても作戦敢行まで5時間は掛かることが予想される。ケンジ、シュウそれからカロイの3人は、準備を整えて集合場所へ向かった。

 集まった兵士を見て3人は息を飲んだ。

 暗い顔をしている者がひとりもおらず、全員イキイキとした表情をしているのだ。椅子に乗っていた指揮官の男も器用に馬に跨り盾も剣を携えて、磨き上げられた鎧に身を包み凛々しく変貌していた。

 「さあ、行きましょうか。ガハハハッ」

 どこで着替えたのか、オードリーも真紅の鎧に、巨大な薙刀を携えて、それはそれは大きな馬に乗り換えて3人を見下ろしながら言った。

 これが、列国が名を聞いただけで恐れ慄く、アイ王国第1師団、師団長ガン・オードリーなんだ。

 「よーしっ、待たせたなお前ら!今までやられた分、100倍にして返してやれっ!行くぞ!!!」

 おっおっおおおおおおおーーー!!!

 大気が張り裂ける怒号と共に一千騎が走り出した。

 「御三人は、まずは最後尾にてー」

 指揮官の指示に従って3人は後ろにつけた。大地が揺れる。オードリーを先頭に綺麗な魚鱗の三角の陣を敷いた。

 後ろから見ていてよく分かる。一糸乱れぬ。綺麗に整えられた陣形だ。攻撃特化型の第1師団の本当の実力なのだろう。

 しばらく進むと先頭の方から一斉に声が上がった。馬脚は乱れないが、どうやら対敵したらしい。3人は、地面に散らばる生々しい魔物の残骸を確認した。

 「なによ、私たちここに応援に来る意味あった?」

 シュウが言う。ケンジも同じ事を考えていた。

 「いえいえ、オードリー隊長が急な反転攻勢に出れたのも、お二方が参戦してくれての事でしょう。オードリー隊長も、打って出たかったでしょうけど、なかなかまとまらなかったんじゃないですか。お二人が来て士気があがり、一気に秘めていた作戦を決行されたのだと思いますよ」

 「ふん、そんなものかしらね。もっと暴れたかったのに」

 ケンジは、激しく揺れる馬の上でシュウの事を考えた。歳をとると益々兄貴に顔が似てきたな、と。


 20分ほど走ったところで、部隊に停止の号令が掛かった。

 「ガハハハッ。さあ、ここからが本番ですぞ」

 オードリーが、意気揚々とやってきた。

 拠点にしていた場所からわずか3キロほど進んだだけなのに、辺りはすっかり荒れ果てた大地に変わっていた。

 戦闘が続く場所なのだろう。馬の死骸や、槍や兜も土を被ってしずかに佇んでいた。

 「よーしっ!10分後に出撃だー!」


 ケンジ達3人も馬から降りた。

 すると、すぐに数十人の兵士に囲まれた。

 「王子!わたしは、ジトリ村のイクです。一緒に戦えること、誇りに思います!」

 「王子!」「シュウ王女!わたしは・・・・・・」

 急な事にふたりは驚いた。屈強な男達が顔を輝かせて一人ひとり深々と頭を下げて挨拶しに来るのだ。はじめはふたりとも困惑した顔で応じていたが、兵士達の直向きさに心が動き笑顔で応じるようになった。もちろん、シュウも。

 そして自分達の影響力の高さ改めて知った。


 「ガハハハッ。全然休めませんでしたな!どうかお許しを」

 「まったくよ。まあ、これで士気が上がるなら当然のことよ」

 「ガハハハッ。おかげさまですなー」

 「そろそろ、出発?」

 「ええ、ここからは陣を矢型へ変えます。それで、敵が集団でいるようなところには、尻の小隊をその都度残しながら進みます」

 「徹底的ね。残らず敵を殲滅するのね」

 「はい、お三人にも今回は私と一緒に先頭ついてもらいますが・・・・・・」

 「ようやく出番ね。ただ士気を上げるために来たんじゃないんだから」

 「わたし、武芸は全くダメですが・・・・・・」

 「ガハハハッ。王女は誠に頼もしいですなー。カロイ様は、わたしの後ろにでもついてくださいな。ケンジ王子もよろしいですな?」

 「は、はい!もちろんです」

 「ハハっ、ではこちらへ」


 「さあ、皆の者ここからが本番だー。敵を薙ぎ倒し、戦っている同胞を救えー」

 おっおっおおおおおおー!!!

 「よーしっ!目標は、5キロ先のジオカンポーク村、ハッイヤー!」

 今度は自分達が地響きの中心にいる。馬も周りの熱に感化され興奮しているのが伝わってくる。


 「前方にオークの群!約30体」

 オードリーと並走する望遠鏡を器用に使って周りを見ていた男が大声で報告する。

 「蹴散らせ!」

 鳴り響く地響きと砂煙に、オーク一団は、固まったままこちらを凝視している。

 うおぉおおおおぉぉーー!

 オークも人間と認識すると、持っている槍だの斧だの各々武器を構えた。

 一閃、光弾数発がオーク一団目掛けて飛んでいった。ピカッ!と光るや否や大爆発を起こし、オーク一団が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 オードリー隊長は、弾の発射元、それはつまりショウにギョロッと大きな目を向けた。

 「フンっ、あんな相手にわざわざ馬脚を崩されたくないの」

 杖を構えたショウは無表情に言った。

 「ガハハハッ!こりゃすごい。さあ、皆、王女に負けるなー!」

 おおおおおぉおぉおぉぉぉぉー!

 さらに、兵士達のボルテージがあがる。


 「右手前方、第三砦より救援旗があがっていますー!」

 「ミッヂ隊を向かわせろー」

 オードリーの指示が飛ぶ。後ろにつけた一部隊が本体から離れた、煙の上がる砦へと向かった。

 「つぎー!右手前方、大型の魔物含む群を確認、この先の砦へ向かっているようです!」

 「ここで、叩くぞ!進路をやや右へ」

 「まずい!敵は大型含む500体は以上です。対敵まで30秒ー」

 「ショウ王女ー、今回もいけますかー」

 「フンっ、任せないさいよ」

 「よーしっ、王女の奇襲攻撃のあと本体で突撃ー。中央突破でいくぞ!」

 「ケンジ様、シュウ様はあんなすごい魔法を連射して大丈夫なのでしょうか?」

 カロイが心配そうに言う。

 「ああ、この程度なら大丈夫」

 ケンジは、ショウが毎日人知れず訓練している事を知っていた。朝も昼も晩も、時間があれば部屋に篭って魔法の訓練を欠かさなかった。それは、特にジャネスとの一戦の後からは頻繁に。

 敵もこちらに気付き、方向を変えて向かって来た。大型のゴーレムは、近づいてくると迫力がある。

 先ほどの何倍もの光弾が魔物達に向けて発射された。

 爆音と共に、複数体の魔物が爆発で吹き飛ばされる。それでも、魔物達は動きを止めない。きっと戦い慣れている奴らなんだろう。

 チッ、ショウの舌打ちがケンジには聞こえた。

 「まもなく、対敵します!」

 「構えろー」

 バゴーーーーーーンッッ!!!

 こちらの騎馬隊、敵の前衛共にぶつかった衝撃で吹き飛ばされた。

 どうううぅゔりゃゃゃーー!

 オードリーの薙刀が道を切り拓く。

 オードリーを先頭とする塊だけが、前にいる敵を薙ぎ倒し、敵の中を突破していく。

 オードリーの後ろにいた、ケンジとカロイも初めて剣を抜いた。と言ってもカロイは見せかけだけ、こんな細い腕ではまともに振ることは出来ない。

 バリバリバリバリッ。

 空気を切り裂く、嫌な音が響いた。

 と、同時に周りの兵が、小刻みに震えて、バタバタと馬から無気力に崩れ落ちて行った。

 「魔法使いもいるぞー!探して先に倒せー」

 進軍を止めて、各々向きを変え近くの敵を切り伏せていく。

 「カロイさんは、僕の後ろへ」

 「はっ、はいぃ」

 ケンジも、黄金に輝く光の剣を振り下ろす。ゴブリンを頭から真っ二つに切り伏せる。

 オードリーが切り拓いた道筋から続々と味方が集まり、敵の中心に輪が出来、どんどん四方に広がっていった。

 「発見!排除しましたー」

 「よーしっ、キャノン隊中央に集合!わたしともう一度突破形態に入る。他の者はそのまま敵を殲滅!」

 ズシーーーンッ。

 ゴーレムが、足元を鎖で巻かれその場に倒れた。さすがは第1師団、戦闘においては一級品である。

 「ケンジー!」

 ショウが少し遅れて合流した。


 「さあ、ケンジ様、ショウ様お二人は、わたしと一緒に次に行きましょう。突破しますので、後ろに付いて来てください!」

 「・・・・・・、オードリー、私はここに残るわ。ケンジ、あなたは先に行きなさい」

 「えっ、でも・・・・・・」

 「まだ大型の魔物が何体も見えるでしょ、別にこの兵士を信用してないわけじゃないわ。ただ私がいた方が早く片付くでしょ」

 「ガハハハッ、さすがはショウ様ー」

 「それに、私が突破口を開いてあげる方がよっぽど早いでしょ」

 「ほう、それは・・・・・・」


 ショウは、目を閉じで詠唱を始めた。

 構えた杖の先に光が集まる。

 「オードリー、準備はいい?」

 「ええ、いつでも」

 「進路を開けるように伝えてー」

 「ギクロ!進路を開けろー!いまだー」

 先の兵が道を譲るように横にはけるのを確認すると、杖の先に集まった光が、周りの音や空間も巻き込んで凝縮され、次の瞬間巨大な大砲を撃ったような音と共に2メートルを超える巨大な光弾が地面を抉りながら、進路に向かい発射された。


 風穴が開いた。敵軍を超え遥か先まで見渡せる。

 「ガハハハッ!いまだー、前進!」

 オードリーを先頭に、また速力を上げた進軍が始まった。

 ハァハァハァー。

 ジャネス戦の時より遥かに魔力は上がっていた。

 「シュウ、大丈夫ー?」

 肩で息するシュウへ、ケンジが声をかけた。

 「フンッ、いいから早く行きなさい。ハァ、ハァ」

 「うん、シュウもくれぐれも気をつけて」

 「ケンジ様。わたくしはシュウ様にお供したいのですが、よろしいでしょうか?」

 「うん、わかった。カロイ、シュウのこと頼んだよ」

 「なによ!逆でしょう」

 ケンジは馬を操り駆け出した。

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