お灸をすえる

 カッコよく登場したのは良いもののどうしたものだろう。目の前の敵は、魔帝と呼ばれるほどだから相当の実力があるに違いない。

 相手の出方を見たいけど、ショウが危なそうだ。

 ショウを救わないと。


 「まだネズミがいたのか。ヒヒヒヒヒッ」


 剣を両方の手でしっかり握り、上段の構えをとった。

 <真一文字一閃>

 

 鋭い斬撃がジャネスに襲い掛かる。

 僕の得意な必殺技だ。直接の斬りかかれない、空飛ぶ魔物と戦う時に編み出した。

 

 ジャネスは、手を向けて軽くあしらおうとするが・・・・・・。

 ジャネスの手だけでなく腕にまで幾つも深い傷を負わせた。

 「なっ・・・・・・ばかなっ」

 ジャネスは身を引いた。

 ショウに掛かった魔法も解けた。

 「くそっ」

 「ショウ、大丈夫?」

 「お前いままでどこ行ってたんだ?体中がいたいなー、もう」

 「ごめん、馬から落ちちゃって・・・・・・」

 「ドジ!まあ、いいや一緒にやるよ」

 「あっ、うん・・・・・・。でも待って。なんか俺ひとりでやれそうだから、ちょっとショウは休んでてよ」

 「はっ?何言ってるのよ!わたしが苦戦してるのよ」

 「う、うん。それは分かってるけど。ちょっとひとりでやってみるよ。うん、マジで」


 「何、ゴニョゴニョ言ってやがる。ネズミの分際で!くらえー」

 ジャネスの両手を合わせると、巨大な漆黒の球体を一瞬で作り出し、ケンジとショウに向けて飛ばした。

 周りの空気を震わせ、バリバリと軋んだ音を鳴らして襲いかかってくる。

 ショウは対応する判断が遅れ、逃げも構える事もせず目を見開いたまま呆然としてしまうが、ケンジはすぐに剣を構え一直線に飛び出していた。


 「どぉりゃゃゃゃやーーーー!!」

 ケンジが飛んでくる邪悪なそれを横一線に切り裂く。


 真っ二つに割れ、ショウの左右に着弾し轟音とともに爆発する。


 「なにっーーーーーー」


 「喰らえぇーー」

 勢いそのままにケンジがジャネスに斬りかかる。


 

 ショウから少し離れた位置に、ボトッと落ちる物があった。


 ぐぐぐぐっ・・・・・・。

 ジャネスの呻き声が低く響く。


 ケンジが着地すると同時に、ショウを振り返った。

 

 ゆっくりジャネスも地に降りてきた。鶯色の体液を滴らせながら。

 ショウは落下物がジャネスの両腕である事に気がついた。


 「クソ、ねずみ共の分際で・・・・・・」

 薄ら笑いはすっかり消えて、目は一層大きく見開き声も震えていた。


 「くっそ〜、手に馴染んで気に入っていたのになぁー」と言い、持っていた剣を掲げた。

 すると、ポキンッと軽い音を立てて半分に折れてしまった。

 「さすがは、魔帝と呼ばれることはあるね」

 ケンジは腰に背負った、アランから譲り受けた光の剣を抜きながら言った。

 「はじめて使うからね。どうなるかわからないよ、魔帝さん」


 「んぐぐぐぐぐぅぅ」

 

 「ケンジ様ー」

 ミカデと部下が駆け寄ってくる。

 オークとトロールを、なんとか倒すことに成功したんだ。

 「ミカデ、まだ近づいちゃダメよ!」

 ショウが兵を止めた。

 「ケンジー、なんでも良いから早くやっつけちゃいなさい!」

 「了解ー」

 剣を構えたケンジを前に、ジャネスは明らかに狼狽している。


 「くっそーーーー、覚えてやがれ」

 そう言って背を向けて飛び上がったジャネス。

 「行かせるかよー」

 ショウが、ありったけの魔力を向けて逃げるジャネスを喰い止める。

 「逃すかー!!」

 ケンジはジャネスに飛び掛かり、一刀両断。ジャネスを頭から真っ二つに切り裂いた。

 「こっ、こっ、これで終わりと思うなよー、ヒヒヒヒヒヒー・・・・・・」

 左右に分かれた体は、共に爆発し跡形もなく吹き飛んだ。




 「ショウ、大丈夫?」

 「全然大丈夫よ・・・・・・、あんたがドジだから・・・・・・、まったく・・・・・・、くそっ」

 ショウは心底悔しいのだろう。遠目にも涙が溢れ出しそうなのが分かった。兄貴の泣き顔なんて小学生の頃以来見たことがない。なんて顔するんだよ・・・・・・。


 「ミカデ、戦況はどうなってる?」

 「ええ、正確には分かりませんがどこも善戦しているようです。それに、さっきジャネスを討ち果たした時、魔物達から黒いモヤみたいなものが一斉に空へ吹き上がって消えていきました。ジャネスによる支配するような魔法が解けたのでしょう。急に統率が取れなくなってきているようです」

 「分かったわ」

 「僕は城の方が心配だから、城に向かうよ。イディアフ王子もまだこの数の敵相手だとキツイだろうからね」

 「ケンジ王子、でしたら一緒に向かいましょう。後は散開する敵を各個撃破していけばよいでしょうから。馬をひけー」

 「ショウは少し休んでてー。じゃあちょっと行ってくるよ」

 「・・・・・・」


 こうして、ケンジ、ショウ、ミカデ率いる第二師団の活躍により、フジナミ城は救われた。

 あまり国交を持たないフジナミの国とアイ王国との間に深い交流が生まれるきっかけとなった戦いだった。




 その一方、大魔王ネオバーンの居城では・・・・・・。



 「ネオバーン様」

 「・・・・・・ああ、分かっておる・・・・・・」

 「東部侵攻へは、ライオネスヘッドとミジュカリーのふたりに引き継ぎます」

 「・・・・・・」

 「十指の空いた席は、ザイードで宜しいですか?」

 

 「・・・・・・ああ、構わん」

 「承知しました。それでは失礼致します」



 ・・・・・・クックックックッ。

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